DeliciousMeteor(デリシャスメテオ)

身体が揺さぶられ、誰かに呼ばれているのだと理解できた。Doomは目を覚ました。薄い色の髪が目に入る。

「先生?」

そこにいたのは、空間飛行学の教師ではなく、白い髪の依頼人だった。Doomは飛び起き、体の傷を確かめた。痛みは残るが、切り傷はふさがっている。計器を確かめ、外の様子を探る。雨の気配はない。なんとか生き延びたか、と外気温を見たDoomはパニックを起こした。22度。宇宙ではない。恐らく地上だ。

「待て、ここはどこだ」

『家。Doomの』

ふらふらと外へ出ると、確かに自宅の船渠だった。見覚えのあるキャットウォーク。鮮やかな青空。Doomはぽかんとした。誰がここまで己を運んできたのか。Dye以外にはありえない。パイロットでもない人間にデリシャス・メテオが扱いきれる訳はない。そして、制御装置の能力不足によってデリシャス・メテオの自動運転では雨の中を飛べない。Doomは混乱した。ここはどこだ? まさかこれは死に際に見る、よくできた走馬灯なのか。

『傷はどう?』

Doomを追ってDyeが船から出てくる。傷口にそっと触れれば、確かな痛みがあった。夢ではない。ここまで鮮明に痛む夢は見たことがない。恐らくこれからもないだろう。これは現実だ。現実感のまるでないその事実がそれがDoomを酷く混乱させる。

「ああ、まあ……Dyeはパイロット、じゃ、ないんだったよな」

Dyeは、いまだ事態がつかめないままのDoomを、色のない目でじっとみた。頷き、肯定する。

『逆』

Dyeは書ききる前に、空気を引っ掻き文字を消した。ぐしゃぐしゃになった緑のガスがゆらゆらと風に崩れていった。

船内に戻っていくDyeをDoomは慌てて追いかけた。


ディスプレイの前でしゃがみこんだDyeの手を引き、Doomは彼を振り向かせた。

「Dye、まだ聞かなくちゃならないことがある、DollyDollの工場跡で……」

ちらりとDoomを一瞥すると、彼はまた元のようにディスプレイに向き直った。壁の凹凸に手をかけて引き出す。Doomは驚きに目を瞬かせた。Dyeはお構いなしに、積んであった赤いユニットを掴み、手早く線を繋げていく。

「……Dye?」

目がくるめき、薄く唇が開く。瞬いた目はユニットと同じ色をしていた。そうして、人間の声ではない電子的な音が短く響き。

「ー・・ --- --- --、Doom」

彼を呼んだ。

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