DollyDoll(ドーリードール社の興亡)

DollyDoll社。Doomはその名に覚えがあった。デリシャス・メテオの開発元。十年ほど前に宇宙船製造業を営んでいた民間の造船会社だ。

部品をすべて独自の規格で作り、他社製品との互換性を一切顧みないDollyDollのスタンスは、船の総合的な完成度を気にする金持ち、改装ないし部品の自作に手を出す人間、船をパズルのように一から組み上げようというマニアの間でカルト的人気を誇った。

もともと宇宙を航行する船の操作性向上や居住性の改善を謳っていた会社で、装甲の内外を問わぬ造形の美しさに定評がある。人間工学の研究をしており、インターフェース開発における技術革新の要となったが、技術が一般化するにつれて後発の大手に押され次第に経営が悪化、他社へ吸収された。そうしてDollyDoll社はこの世から消えた。

「DollyDollの廃工場か」

Dyeはかくんと頷いた。Doomは打ち捨てられた船渠を思い出す。一度、輸送の帰りに近くを通りがかったことがあった。ところどころに穴が開き、造りかけの船や機材が丸々残された造船所跡。

交通機関や星間輸送のルートからも外れたそこは、訪れるもののなくなったひとつの廃墟だ。だからこの男はDoomを頼ってこんなところまで来たのだろう。空の繋がっている場所なら、どこへでも、どこまででも。高速輸送船は融通が利く。速度も、ルートも、行き先でさえ。『流星のDoom』は運ぶものを精査しない。

「連れて行こう。支払いはどうする。素子? 現物?」

普段行かない場所に行く人間は、様々な事情を持っている。宝の採掘をするのだと、そう言う人間もまあまあいた。DollyDoll。希少な部品を探し出せれば、それ相応の値が付くことだろう。会社がなくなってなお、DollyDollの製品にはマニアックな愛好者がいる。

『現物で』

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