Dye(ダイ)

Doomは青年を拾った。道端で倒れ、死んだように眠っていた彼を、Doomは死体と勘違いし蘇生ないし回収しようとした。

青年は生きていた。プラチナブロンドを通り越した、脱色したように白い髪と赤い瞳。やや女性的な顔の造り。美しいと言って差し支えない風貌だ。彼は喋ることが出来ないようで、人差し指から出る緑色のガスで文字を書くことで会話とした。時間と共に緩やかに拡散するガスは細かい文字の判別が出来ず、会話は全て簡素な単語でのやり取りとなった。

そうして、『流星のDoom』を探していたというその男を、Doomは船に乗せた。書いては風に拡散する文字列から読み取るに、惑星間輸送を所望するとの話だった。


「それで、どこへ行きたいんだ」

あまり広くない船の中、DoomはDyeにコーヒーを出した。軽く会釈をしてDyeはそれに口を付けた。すっと指が立てられ、色のない目が瞬く。すっと指がひっこめられ、青年は何かを考えるそぶりをした。気が付いたように口をぱくぱくと動かすが、Doomにはそれを理解できるだけの素養がない。

「……悪いが読唇術の覚えはない。ああ、そうだ、少し待ってくれ」

Doomはメモと芯ホルダーを取り出して、Dyeへ渡した。

「これを使ってくれ。……使い方はわかるか」

Dyeは頷き、ペンをノックすると細い指先で芯を引き出して見せた。無重量下での筆記はとかく厄介だ。鉛筆では削りかすが出るし、シャープペンシルは折れた芯が舞い上がり危険だ。ボールペンではそもそもインクが出ない。その点芯ホルダーは優秀だ。丸くなったまま使い続けることに抵抗がなければ、だが。

ペン先をかつかつと鳴らし、Dyeは瞬きをする。右手の人差し指を立て、もう一方の手でそれを指した。

『ミドリの、かけない』『有害』『ここはみっしつ、だから』

毒性への言及に、Doomは納得した。いくら空気清浄機が付いているとはいえ、有毒ガスが濾せるとも限らない。軽くうなずき、Doomは続きを促した。

『DollyDoll』

Dyeの書いた名前に、Doomは眉を上げた。

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