Doom’s Den(彼の家)

ガレージのある小さな屋敷。それが地上におけるDoomの家だ。

彼は仕事の合間の余暇を、広くない居住スペースとガレージと倉庫しかないこの家で過ごす。広大な敷地を誇る倉庫にはデリシャス・メテオの歴代の改装部品が所狭しと並べられている。

倉庫の中、今はもう動いていない機械類を眺めてDoomは思い出に浸った。十年は長く、広かった倉庫は少し手狭になった。Doomは歩みを止め、中心に据え着えられたそれを見上げる。そびえたつのは古い汽缶。デリシャス・メテオが出荷時に積んでいたエンジンだ。Doomは仕事を続けるうちに時代遅れになったボイラーエンジンを外し、軍用のロケットエンジンを埋め込んだ。

最大出力のデリシャス・メテオを御せる制御装置はこの世には存在しない。今手に入る制御装置では70%が限界だ。だが、Doomは構わなかった。只々強く、何よりも速い船が欲しかった。制御に足りない30%を、Doomは己の腕で補った。

改装を繰り返すたびに力を求めるデリシャス・メテオの性能は尖ったものになっていく。この船を満足に乗りこなせる人間は、宇宙中どこを探してもDoomしかいない。

Doomは再び歩き出した。倉庫の隅に設えた本棚、その前まで行き、小さなスツールに腰かけた。持っていた紙袋からカタログを取り出し、ぱらぱらと捲る。特集ページには『居心地の良い船内空間』『宇宙でもお洒落がしたい』『可愛いインターフェース活用術』などの文字が並ぶ。Doomはふとインターフェースのページに目を留めた。インターフェース。会話プログラムを備えたAIや人や生き物を模した音声入力装置などの総称だ。愛玩目的や戦闘用など幅広い用途のものがあり、ここ数年はインターフェースに洒落た改装を施すのがトレンドらしい。デリシャス・メテオにもインターフェースはついている。Dearがそれだ。Dearはやや変則的な回路を持つのか、音声媒体では決して喋らない。代わりに彼は例の白い文字でパタパタと文字を交換する。

音のない中、パタパタとキータイプだけで話ができる。なんだかそれが好ましかった。Doomは雑誌を放った。本棚に引っ掛けてあった星のバッジをフライトジャケットにひとつ付けて、口角を上げた。今夜はDearと何を話そうか。金色の星は擦れあい、カチャリと音を立てた。

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