Dear(darling)(親愛なる)
Doomはデリシャス・メテオの操縦席に腰かけて、パタパタとキーをタイプした。『Dear』。Doomは十年来の相棒をそう呼んでいた。エンターキーを押して、Doomは目を瞬かせた。返事がない。
「……Dear?」
Doomが声をかけると、ディスプレイの端に白い文字が浮かび上がった。細いカーソルから文字がパタパタと紡がれていく。
『Good morning。Doom』
『おはよう、Dear。調子はどうだ』
『船本体に故障箇所なし。あなたは』
『悪くない』
『よかった』
パタパタと打鍵の音だけが響く。Doomはくすりと笑った。
『今日はどちらへ』
『ドライブがてら本屋に行こうかと』
『運転交代しますか。……任せても良いというのであれば、頼むと『言って』ください』
Doomは手を止め、目を瞬いた。Dearはたまにこうやって、肉声で言うことを条件分岐に持ってくる。不定期に、だ。言う内容もタイミングも全くのランダム。いつからだろうか、昔はこうではなかった気がする。変な癖だ。そしてそれを、Doomだけが知っている。Doomはふっと微笑み、肩をすくめた。
「ああ、頼む」
『承知しました』
表示が自動飛行モードに切り替わり、ゆっくりと船が浮かび上がる。運転はDearに任せ、Doomは腕を組んで鼻歌を歌っていた。
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