小さな幸せ
地球の輸送船がとある商品を売り捌くためにゲル星に降り立った。
地球人から見るとゲル星に文明はあるがあまり発展していない様子だった。それでもこの星に商売に来るのは地球では珍しい鉱石の塊が沢山あるからである。しかもその大きさは地球では見たことのないような巨大なサイズだった。
だがゲル星人達はそれを砕いて、ほんの少しだけの大きさに加工して指輪にしていた。その理由を尋ねると
「小さいければ小さいほど良い物なのです。」
ゲル星人達はそういった価値観を持っているようだった。その影響なのだろうか、自分達より一回り小さい地球人も心良く受け入れてくれいた。
ある時、地球人がゲル星人になんの鉱石もついていない、ただの鉄のリングを見せて言った。
「これは地球で作られた、ダイヤモンドの指輪だ。その鉱石と交換しないか。」
勿論、ダイヤモンドなんてついていなかったが
「見えないぐらい小さく加工しているんだ。」
言った本人もこれで信じてもらえると思っていなかった、半分冗談でもあったのだ。
予想外なことに交渉は上手くいった。そしてそれはゲル星人達の間で大きく広まった。彼らは
「なんて素晴らしいのでしょう。このように小さい宝石は見たことがない。」
と言って何もついていないリングと鉱石の塊をどんどん交換していった。
輸送船の商人達は仕事を終えて上機嫌でゲル星の酒場で飲んでいた。
詐欺まがいのこと終えて気が緩んだのだろう
「まさかこんな、何も付いていないリングを売るだけでこんなにボロ儲けできるとはな。」
「ああ、これで一生遊んで暮らせる。」
そんな話を大声でしていたのだ。
それを聞いていたゲル星人の店主が酔っている彼らに尋ねた
「本当にその指輪には宝石がついていないんですか。」
気分が良くなっていた商人達は弁明しようとするどころか、もう自分達がこの星に留まる理由はないと思ってゲル星人に言った。
「お前らは地球と比べても何もかもが遅れすぎている。騙される方が悪いんだよ。」
「商売での搾取なんてまだ優しいほうだ。やろうと思えばこんな星、簡単に滅ぼせるだろうからな。」
その日の夜、ゲル星人達は地下に集まって話合った。そして地下に置いてあった古代兵器を取り出した。
かつて自分たちの先祖の時代に文明が大きくなりすぎた反動で起きた、同族同士の醜い争い、それを戒めるため生み出された小さいものに幸せを感じる価値観。
ゲル星人達は宇宙船に乗り、一瞬の間に地球の上にまで来た。そして指につまめる程小さな粒をそっと落とした。それは大気圏を突き抜け、雲の中を落ちていき地上におちた。
轟音が鳴り響く。凄まじい爆発が起こった。地上に亀裂が走り、地殻、マントル、外殻、地球の中心まで破壊する。宇宙に浮かんでいた青い宝石は砕かれたように粉々になった。
その様子を見てゲル星人は満足そうにこう言った。
「なんて素晴らしいのでしょう。こんなにも小さくなって。」
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