扉の向こう

 コンコン コンコン


 扉を叩く音で目が覚める。もう昼が近いのだろうか、カーテンの隙間から眩しい光が差し込んできている。

「誰かが訪ねて来たんだろうか。」

 今日は彼にとっては休みなのだがしかし世間は平日。いったいどのような人物が扉の向こうにいるのかと彼は考える。

「もしかすると、可愛い女の子がどこかから逃げてきたのかもしれない。」

などと妄想に浸かりながら扉を開ける。


 そこには一人の女性が倒れこんでいた。

「大丈夫ですか。」

 彼は驚いて声をかける。

「すみませんが追われているんです。かくまってくださいませんか。」

 弱々しい声で女性は頼み込んだ。

 どういう状況なのか呑み込めなかったが、このまま見捨てるわけにもいかなかったので彼女を家に入れた。なにより彼女は男性の好みのタイプだった。

 彼女の説明によると、組織と呼ばれる危険な場所で研究をしていたが、最近一日中何者かの視線を感じており命の危険を察して、逃げてきたのだという。

 元の家に帰すわけにもいかないので、女性は一緒に暮らすことになった。見つかったら終わりという一種の感情を共有した二人の間に愛が芽生えるのに時間はかからなかった。しかし時を同じくして恐れていたことが起こる。


 コンコン コンコン


 日が照っている午後、扉を叩く音がする。家の中にいる二人は青くなった顔を互いに見合わせる。

「ついに組織に見つかってしまったのね。」

「警察に助けを求めよう。」

「無駄よ。何度も言った通り奴は警察とも裏で繋がっているの。」

 彼女にベランダから逃げるように指示して彼は扉に向かった。ドアノブを掴みながら彼は考える。

「ああいっそ、自分がボスだったらこんな苦労をしなくて良いのに。」

半分あきらめの気持ちで扉を開ける。


 そこには黒い服に身をつつんだ男が立っていた。

「ボス、お迎えに参りました。」

そうだった、俺は組織のボスだった。

「あなた、いってらっしゃい。」

妻に見送られながら、玄関を出て車に乗り込む。

 父の後を継いで、ボスになってからは彼の手腕で組織の規模はどんどん大きくなっていった。研究員の女性に一目ぼれし愛する妻を得た。跡取り息子も立派に育ち最近孫もできたのだ。裏社会に生きている以外は充実した生活だった。


 コンコン コンコン


 夕日の日差しが部屋に入り込む時間に扉が叩く音がなった。

 側近の黒服だろうか、いや彼は少し前に対立組織に襲撃された時に自分をかばって死んでしまった。だからこそ自分は現在、安全を求めてアジトの一室に隠れているのだった。

 彼は扉を開ける前に考えてしまう。

「もしかすると、組織の中に裏切者がいて自分を殺しにきたのかもしれない。」

 嫌な考えが頭をよぎってしまった。このような環境に置かれているので考えないというのが無理な話だったかもしれない。しかし彼は扉を開けてはいけないと心のどこかで感じた。しかしそれより早くドアノブを回してしまっていた。


 彼は撃たれた。

 死ぬ間際に彼は考える

「できることなら不自由で楽しかった若いころに戻りたい。」



コンコン コンコン


扉を叩く音で目が覚める。部屋の中は既に暗くなっており、もう遅い時間だと言うことが分かった。

「今日一日中寝てたのか。」

何だか長い夢を見ていたような気がするが、自分の不甲斐なさを感じながら電気をつける。


コンコン コンコン


扉はまだ鳴りやんでいない。急いで玄関まで行き鍵を外しながら考える。

「もしかすると、宇宙人がいて連れ去られてしまうかもしれない。」

扉の向こうに多少の好奇心を持ちながら扉を開ける。



 そこには、自分より少し年上だろうか。それでも若く見える男性が立っていた。

 「お荷物をお届けに参りました。何度か来たんですが不在だったようで、こんな時間に申し訳ありません。」

 申し訳ないのはずっと寝ていたこちらの方だと思いながら、サインを書き荷物を受け取る。

 部屋に戻って彼は送られてきた箱の宛先を確認するが、そこには何も書かれていなかった。

 彼はじっと箱を見つめながら考える。

「もしかすると、この箱の中には・・・」







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