第6話 強敵 ドクター・フランケン その3

 「シードラゴン流星キーーック!!」

 サラマンダーが再びマジシャンに銃口を向けた時、ピラミッド上からのシードラゴンマスクのキックがサラマンダーに炸裂した。


 「マジシャン!大丈夫!?」

 「シードラゴンはん!助かったで!」


 吹き飛ばされたサラマンダーはしかし、銃口を構えて立ち上がった。

 「喰らえ!ヘルファイアーハリケーン!!」

 炎の嵐が拡大しながら、あっという間にシードラゴンマスクを覆いつくした。


 「せ、瀬利亜はん!!」

 焦ってマジシャンはつい本名で名前を叫んだ。

 どう見てもあの炎は避けようがなかった。

 「さあ、次は貴様の番だ。」

 勝利を確信したサラマンダーはマジシャンに向き直った。


 「あら、あれしきの炎で私を倒せるつもりだったのかしら」

 炎が収まった後、無傷のシードラゴンが姿を現した。

 「心頭を滅却めっきゃくすれば火もまた涼し。私を倒したければもう少し気合を入れた攻撃をすることね。」


 「デニムの時と同様『精神論』で何とかするとは…。」

 愕然がくぜんとするサラマンダーにシードラゴンはさらに追い打ちをかける。

 「あら、単なる精神論ではないのよ。これでも『気』を扱って、防御や攻撃に使えるようしっかり訓練を積んでいてね。あなたの炎を防いだのは『気』で作った盾で受け流したから。

 そして、攻撃に使う時はこんな感じね。」

 シードラゴンが右手を引いて構えると『爆発的な気』がその腕に集まりだした。



 「ドクター、大変です!!」

 モニターを見ていた助手型妖精ロボ・ミーナが震えながら叫んだ。

 「生体エネルギーの収束具合が今まで観察されたA級モンスターバスターとはけた違いです!!

 現時点で二〇万オングストロームを超えています!!」

 「機械の異常じゃないのか!今までは一番強いやつで5千がやっとだったぞ。」

 「で、でも。強化したデニム伯爵をほぼ瞬殺したわけですし、今もサラマンダージェノサイダーを圧倒してます…。」

 「確かに…。くそ、なにか手はないか!?」

 「脱出しましょう。」

 「わしの『作品ども』を置いて脱出するわけには!!」

 ドクターが叫ぶと同時にあたりを轟音ごうおんがとどろいた。



 (こ、こいつには勝てん!ならば!!)

 目の前に集まる『圧倒的な気』を感じ取り、サラマンダーは勝利をあきらめた。

 そして、「自爆攻撃」を仕掛けることを決めた。

 「サラマンダー特攻!!」

 全身から炎を噴き出しながら、サラマンダーはシードラゴンに襲い掛かった。


 「シードラゴン・ソニックウェイブ!!」

 シードラゴンマスクは集めた『気のボール』をサラマンダーに叩きつけると、『気のボール』ごと、サラマンダーを上空へ弾き飛ばした。

 サラマンダーはどんどんシードラゴンマスクたちの視界から遠ざかっていき、爆発四散した。




 もう何十回と斬り結んだあと、千早とデスはにらみ合いを続けている。

 ちょっとでも隙を見せたらその瞬間に終わると双方がわかっている。

 間の悪いことに「せ、瀬利亜はん!!」というマジシャンの悲鳴が聞こえ、千早の注意が後ろに向いた。


 「しゅっ!!」

 呼吸音だけを響かせて、ブレイド・デスが千早に猛然と斬りつけてきた。

 ガキガキ!!

 しかし、デスの二丁のアーミーナイフは千早の右手の太刀と、とっさに抜いた左手の小太刀に受け止められた。

 (ここで決める!!そして、二人を助ける!!)


 左手の小太刀をデスに投げつけると同時に千早は太刀を鞘に納めて身構えた。

 「神那岐流抜刀術『光線斬』!!」

 全身の気を刀に込めて横なぎに払うと、デスの構えていた二丁のアーミーナイフが、カランと音を立てて落ち、続いてデスの上半身がずるりとずれ落ちた。


 上半身が落ちると同時にブレイド・デスの下半身、及び上半身も血を出す代わりに黒い煙を噴き出し、あたりを包み込んだ。

 (妖気が急速に消えていく…。)

 煙が晴れると上半身が分かれた骸骨と斬られたアーミーナイフが地面を転がっていた。



 (そうだ、瀬利亜さんたちは!?)

 悲鳴の聞こえた方へ注意を向けると、「変身?」を解いた瀬利亜が向かってくるところだった。


 「お疲れ様。一人でよくそんな化け物倒したわね。」

 「瀬利亜さん、ご無事だったんですね!?」

 「大丈夫、たとえどんなゴメラが相手でも、この熱く燃え盛る正義の心がある限り、シードラゴンマスクは決して負けたりはしないわ!!」

 「すごい、すごい、瀬利亜さん♪」

 千早が嬉しそうにしっぽを振りながら(イメージ♪)瀬利亜に歩み寄った。


 「瀬利亜はん、すんません。充さんをなんとかしてやって。」

 光一がボロボロになった充を肩から下げながら歩いてきた。


 「うわ、充さん、大怪我されてるじゃないですか!!」

 千早が、そして瀬利亜も続いて充に駆け寄る。

 「面目ない、どうやら足を引っ張ってしまったようだ…。」

 力なく、しかし、歯を光らせながら充は何とか言葉を出した。


 「では、これから『手当て』を始めるわ」

 瀬利亜は右手に『生命エネルギー』を集中させると充の怪我をしている部位にそのまま手をかざしだした。

 アニメのように見る見る傷がふさがりはしなかったが、だんだん充の顔色がよくなっていった。


 しばらく見ていた千早がおずおずと口を開いた。

 「あの、私も神那岐の太刀を使って同じことができると思います。」

 「ほんと?やってみて、やってみて!!」

 「いいんですか?では?」


 瀬利亜が目をきらきらさせながら促すので、千早も刀を抜いて「気合を込め」て充に刀身を近づけた。

 神那岐の太刀は白く輝きを増し、その光が充を包み込むと充の負った怪我が目に見える速さで治っていくのが見えた。


 「体力までは回復しないと思いますが…」

 恥ずかしそうに千早が言って刀身を鞘に納めると、目をキラキラさせていた瀬利亜が千早に飛びついた。

 「スゴイじゃない!最高だわ!!最強の美少女剣士は同時に『戦場の天使』でもありました…本当に素敵だわ!!」

 瀬利亜に思い切り抱きつかれ、顔を真っ赤にして半分窒息しそうになりながら、千早は嬉しくて顔がほころぶのを止められなかった。




 「首領、申し訳ない!!」

 薄暗い空間に何人もの人影が見える中、ドクターフランケンは目の前のひときわ大きな影に頭を下げていた。


 「お前さんまで失敗するとは想定外だったよ、ドクター。

 だが、相手の規格外の強さを踏まえれば、ドクターだけでも帰ってこれて幸いだった。」

 『首領』は鷹揚おうようにうなずいた。


 「あの小娘、思っていたよりずっととんでもない『化け物』でした…。

 ところで、『お前さんまで』…とは、他にも失敗したものがいるのですか?」

 顔を上げたドクターが不安そうな顔をする。


 「イギリスへ出した『侵攻部隊』が全滅した。基地を築いて活動を始めた途端、一人のモンスターバスターの侵攻で基地ごと壊滅させられた。」

 「待ってください。『イギリス侵攻部隊』は『サラマンダー・ジェノサイダー』や『ブレイド・デス』クラスが何十人もいる精鋭部隊です。いくらなんでも一人とは…」

 首領は大きくため息をつきながら首を振った。

 「最強クラスのモンスターバスターはそれくらい強いということだ。『大魔女リディア』、裏社会では知らない者のいない伝説の魔女はそれくらい強かったのだな。」


 秘密基地はしばらく沈黙に包まれると再び首領が口を開いた。

 「しばらくは日本攻略に全力を尽くす!

 まずは『シードラゴンマスク』を倒すことが先決のようだ。

 最悪の場合は私自身が出撃する!!」

 首領は全身から真っ黒なオーラを噴出させるとにやりと笑った。




 「はーい、瀬利亜です。

 あ、アルさん♪…それが、こっちは大変だったのよ。」

 運転手が光一に交代したオープンカーの助手席で、瀬利亜はかかってきたコールにスマホで会話を始めた。

 「日本全体だとA級モンスターバスターの半分が戦闘不能になっているわね。

 今日も強敵が何人も出てきたけど、一人怪我したけれど、何とか撃退したわ。

 …そっちにも『連中の侵攻部隊』が来ていたわけ?

 ワールドワイドに暴れまわる連中ね…。」

 「海外のモンスターバスター協会の友達から連絡が入ったやね。向こうではどんな具合なん?」

 しばらくは日本だけ被害が出ていたが、海外でも連中の仲間が動いているとなると世界中で対応が必要だろう。

 光一は真剣な顔つきで瀬利亜の言葉に耳を傾けた。

 「詳しくは後で話すけど、イギリスでは『友達の活躍』で、何とか侵攻部隊を撃退したそうよ。彼女・アルさんとも情報共有をしていかないとね。」

 電話を切ると、瀬利亜はタブレットで今日の情報の整理の再開を始めた。

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