第4話 強敵 ドクター・フランケン その1

 「しかし、モンスターバスター本部の留置場から脱出するとは前代未聞の事件ではないかな?」


 オープンカーの運転席から後ろを振り返りながら小早川充こばやかわみつるは首をひねった。

 整い過ぎているのではないかという顔をしかめながら、なぜか、口元がきらりと光った。


 「脱出したのはデニム伯爵だけだけど、手引きした相手は相当な猛者もさみたいね。

 このメンツなら追跡・捕獲とも一応大丈夫だと思うけど、油断は禁物ね」

 助手席でデニム伯爵に付いた発信機の行方をスマホで追いながら、瀬利亜がうなずいている。


 「もしかして、わてが一番戦力にならんみたいやね。」

 充ほど「完璧な容貌」ではないものの、親しみやすいイケメンの錦織光一にしきおりこういちがやや渋い顔をする。


 「本格的な戦闘はこれが初めてですし、私なんかで大丈夫でしょうか?」

 光一と共に後部座席にちょこんと座っている千早は不安そうにしている。


 「ちーちゃんなら、大丈夫。一緒にした戦闘訓練でも『通常モード』の私とまともに相手ができるくらいだし。おそらく一人で『海の大怪獣ゴメラ』を倒せると思うな」


 「ほー、そこまでとはすごいですな!」

 「それは、とんでもなく強いでんな!」

 男性陣二人が目を丸くする。


 「瀬利亜せりあさん、いくらなんでもゴメラを倒せるとは大げさですよ。」

 恥ずかしげに手を振る千早に瀬利亜がにっこりとほほ笑む。

 「ゴメラを倒したことのある私の言うことだから、間違いないわ!」

 「えーー!!あのゴメラを倒したのは瀬利亜さんだったんですか!?

 でも、テレビでは地球防衛軍が倒したらしいと放送しましたよね?!」


 「いや、それには裏事情があってな」

 光一が苦笑いしながら答える。

 「あんとき『地球防衛軍主力』が月に行ってしまっていて、地球防衛軍に大して戦力が残ってへんかったからね。N88星雲から来たとか言う巨大ヒーローのザップマンもあっさり負けよったし。」


 ザップマンが負けた時、たまたま「正義の直観ちょっかん」のおもむくまま近くにいた瀬利亜がシードラゴンマスクとして3時間の殴り合いを制し、ゴメラは泣きながら改心して南の海へ帰って行ったのだった。

 留守部隊とは言え地球防衛軍やザップマンが惨敗ざんぱいしたという事実が知れ渡れば「防衛軍存続の危機」にもなりかねないということで、瀬利亜が防衛軍に手柄を譲ったのだった。


 「あれから、もう1年になるとは、早いものですね。その間に瀬利亜さんはこんなにも美しくなられて…。」

 運転しながら「花を渡そうとする」充の手をかわして、瀬利亜は口を開いた。

 「今なら、ゴメラクラスなら『瞬殺』できると思うわ。5匹同時までなら、5分以内に方が付くはずだし。」

 千早が口をあんぐり開けながら聞いていると、光一が耳打ちした。


 「モンスターバスターの強さを測るのにどんな怪物を『瞬殺』できるかで、ランクの目安になるという話や。

 ライオンを瞬殺できたら、C級。 マンモスならB級。 ドラゴンならA級。

 そしてゴメラを瞬殺できたら超A級とか言われてたはずや。

 あくまで目安やけど。 」


 「そろそろ近づいて来たわ。みんな準備をして!」

 「閉鎖したテーマパーク・インカ帝国村でお待ちかねというわけやね」

車から降りると、初夏だというのに充と光一は用意していた目深な外套がいとうを被ると、瀬利亜の先導に従って歩き出した。




 「はーはっはっはっは!! 罠にかかったな、諸君!!」

 瀬利亜たちが古代インカ風のピラミッド風の建物の前にたどり着くと、建物の上から声がかかった。

 ピラミッドの上に三つの人影が現れると同時に、瀬利亜たちの周りを黒ずくめの人影がずらっと取り囲んだ。


 「あら、想定範囲内過ぎて笑ってしまうわね。」

 一歩前に踏み出して、瀬利亜は余裕で笑っている。

 「ほほお、わかった上で来たか。だが、この精鋭部隊をおぬしたちには倒せまい!

 デニム男爵!強化スーツの威力を見せてやれ!」

 眼鏡をかけた小太りの男が叫ぶと、後ろに控えていた「デニム男爵」が前へ出た。

 「わかりました、ドクター・フランケン、奴らをギタギタにして参りましょう!!」


 「待たんかい!! そこの『ただの小太りのおっさん』がなんでフランケンを名乗ってんねん?!」

 ちっちっちと舌打ちしながらドクターが答えた。

 「確かに『フランケンシュタインの怪物』はわしの先祖が作った。わしは一族が磨き上げた技術をさらに昇華させたドクター・フランケンだ!!

 秘密結社『スーパーモンスターズ』の本格始動の合図にお前たちが最初の生贄いけにえになるのだ!!」


 「フランケンという名前で、改造人間風の怪物が出ると思わせて、『ただのおっさんでした』というネタをやりたかったわけね。」

 「それを狙って名乗っているわけではないわ!! おのれ、リザードマン戦闘員ども、奴らを取り囲んでしまえ!!」

 ドクターの合図でまわりの黒ずくめ達はファンタジーに良く出てくる「トカゲ人間」の正体を現していった。

 それぞれ「イーッ!」とか叫びながら四人に駆け寄っていったが…。

 バチバチバチバチ!!


 激しい電撃が不意に彼らを襲い、次々に倒れていった。

 「ザコ戦闘員どもには簡易電気バリヤーで十分やな。」

 外套を脱ぐと、光一は青を基調としたボディスーツにいつの間にか着替えており、頭をすっぽりと覆う、宇宙服風の仮面を被っていた。

 「電脳マジシャンや。そちらこそ、わてらを甘くみたようやな。」

 光一は手元のタブレットで、さらに「いろいろ起動」させ続けている。


 「では、私も動かないとな。」

 充は外套をバサッと脱ぐと、右手に「いかにも光線銃」風の銃を握りしめた。

 赤を基調とした王家の人達が着るような豪奢ごうしゃな衣装に「金糸銀糸の織り込まれた」上等なマントをひるがえすと、戦闘員たちに「謎の光線(笑)」を照射し始めた。

 あっという間に戦闘員たちの半数以上が光線に吹き飛ばされて、動かなくなった。

 「あくまでも、華麗にそして軽やかに! キャプテンゴージャス見参!!」

 口元が見える仮面を被り、歯を光らせながら充は名乗りを上げた。


 「あの……瀬利亜さん?」

 何とも言いようのない顔をしながら千早は瀬利亜の方に首を回した。

 「モンスターバスターが現在深刻な人手不足でね。急遽『スーパーヒーロー同好会』に助っ人をお願いしたわけ。」

 「『同好会』ですか?」

 完全に固まった様子の千早に瀬利亜が苦笑いしながら答える。

 「まだまだ、メンバーの頭揃えや組織体系がしっかりしてないからね。政府から公認がおりないのよ。

 さて、私も行きますか。」

 にやりと笑うと瀬利亜の姿がすっと消えた。



 「おのれ、デニム男爵、お主の力を存分に見せてやれ!!」

 「心得ました。あれくらいの方が倒し甲斐があります!」

 「あら、あなたの相手はもう一度私がしてあげるわ!」


 光一たちの方へ飛び出そうとしていたデニム男爵の前に「シードラゴンマスク=瀬利亜」が不意に姿を現した。

 「ここまで来ないと私の気配に気づけないようではまだまだだわね。」

 シードラゴンマスクはファイティングポーズを取るとにやりと笑った。

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