第48話「落ちてゆく意識」
シャルレは馬を駆り、アイラのもとへと走った。
「シャルレ様! 場所は分かるのですか!?」
アイラのもとへ向かうことの条件として同行することになった近衛騎士のユイザックは、迷わず進むシャルレに走りながら問う。
「分かるわ!」
シャルレには、アイラがどこにいるのか手に取るように分かる。それがシャルレの
――友情なんて、烏滸がましいかしらね。
アイラは許してくれたが、シャルレが一方的に結んだ友情。それは真に友情と言えるのだろうか。
そんな不安にも似た疑問を振り払うように、シャルレは馬を走らせる。
「アイラ!」
下町の外郭付近、民家が少なく開けた空き地にアイラの姿はあった。
――本当に見つけてしまった。
同行者のユイザックは信じられない思いだった。
友情はこの世で最も強い絆の一つだと、ユイザックは父に教わってきた。実際、友情の力というのは実感したこともある。だが、これも友情の絆の力なのか……。
ユイザックはシャルレの
それほどにこの奇跡は、ユイザックにとっては信じ難いものだった。
「シャーリー!?」
いるはずのない友に抱きつかれ、アイラは驚く。
「どうしてここに?」
「王の剣を動かせたの!」
「その報告のために、わざわざここまで? というか、よくここが分かったね」
「あなたに会いたくて、居ても立ってもいられず飛び出してきたの! あとはなんとなくかな? アイラがここにいるって分かったのよ」
「それも
「さあ、それは分からないわ。友情の絆かもね」
「友情の絆か、面白いね」
シャルレは、先ほどの不安が払拭されたのを感じた。
――嗚呼、この人は紛れもない友人だわ。
「ところであれは?」
見覚えのない同行者をアイラが見る。
「ああ、紹介するわ。わたしの近衛騎士の一人でユイザックよ」
「お初にお目にかかります、アイラ・クォンツェル様。シャルレ・プレッツェル王女殿下に近衛騎士としてお仕えしております、ユイザック・シューマンと申します。以後お見知りおきを」
「なるほどシャーリーの騎士か、よろしく。アイラだ」
噂や人の話はあてにはならないな、とユイザックは思った。アイラは16歳ほどと聞いていたが、実際会うと分かる。歳なんか関係ない力と経験値が。
呪いを受けて唯一生き残った少女。ドラゴンには世界一深く関わるとされている。
「大丈夫よ、アイラは」
シャルレはそっと小声でユイザックに耳打ちする。
「え……?」
「あなたを悲しみに落としたドラゴンとは違うわ。わたしのお友達ですもの」
信じて、と笑顔で優しく不安を包むシャルレを見てユイザックは改めて気付いた。
――このお方こそ、我が主だ。
「ところで……」
シャルレは離れたところに寝ているリゼルを見る。
「あれはどういうことですか? アイラ」
「ああ、あたしの記憶を覗こうとして気絶したんだよ」
「記憶を……?」
「そう、なんか興味があるんだってさ」
竜の子というワードは伏せた。それはまだ伝えるべきではないと思ったからだ。特に近衛騎士のユイザックには。
アイラはユイザックの異様な視線に気付いていた。それは敵意でもあり警戒でもあり、復讐心のようでもあった。なにがあったのかは知らないが、アイラを良く思ってないのは間違いなかった。
ただでさえ竜の子というのがまだハッキリとなにか分かってない現状、言うべき相手は見極める必要がある。それはシャルレとて同じこと。信じているからこそ、伝えるべきでないこともあるのだ。
「リゼルだと?」
ユイザックは寝ているリゼルに近寄る。
――これが例の裏切りの騎士。
かつて聖騎士にも匹敵すると称された王国騎士。ドラゴンに魅了され堕ちたと聞いていたが……。
「リゼルには聞きたいことが山ほどあるからね、このまま拘束して監禁しようと思ってる」
「……そうですね、では私が連れて行きましょう」
「いいのか?」
「構いません。姫はアイラ様のお側であれば安全でしょうし、私も色々とありますので」
――そう、色々と。
「信じてくれるんだ? ありがとう。じゃあ頼むよ」
「はい。では、御武運を」
ユイザックが離れると、シャルレはぺたんとその場に座ってしまう。
「シャーリー?」
「あはは、ちょっと疲れちゃったのかな」
「無理してたんだろ? しょうがない、あたしも休みたかったし付き合うよ」
「え? アイラは王の剣と一緒に行くんじゃなかったの?」
「んー、そうするつもりだったんだけどね……実はあたしもなんか疲れちゃって、やる気になれないんだよね」
アイラが戦わずやる気が起きない? 今までこんなことがあったのだろうか? それにわたしも座り込むほど疲れるなんておかしい。まるで力が吸い取られてるような……。
シャルレとアイラは、そのままゆっくりと、まるで眠るように意識が落ちていった。
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