第47話「三人の計画」

「教授!」

 朝早くに珍しく遅刻しないでイーヴァイが来たと思うと、血相を変えて教授へと詰め寄る。

「教授! ヴァンは!?」

「ん? な、なんだね?」

「ヴァンですよ、ヴァン・ルッカーロ! 姿が見えないんです!」

 肩を揺さぶられる教授は「お、落ち着きたまえ!」と手を払いのける。

「なにも聞いてないのかね?」

「なにをですか……?」

「ヴァンくんなら――いや、ヴァン教授なら今朝早くに帝都へ移ったよ」

「帝都へ? いやそれより、教授?」

「なんだ、本当になにも聞いてないか、あれだけ仲良かったのに」

 教授曰く、皇帝陛下の直轄研究機関に教授として迎え入れたいとの連絡が昨夜遅くにあり、ヴァンは今朝早くに出ていったのだという。

「我が校としてこれほど名誉なことはない。学長と理事長も喜ばれてな、今朝見送ったところだ」

「そんな……」

 力無く膝から崩れるイーヴァイを、たまたま通りかかった受講生らが「大丈夫ですか?」と支える。

「ヴァン教授は別れを済ませてあるからと言ってたのでな、てっきり知ってるものだと思っていたぞ」

――あの野郎……! あれが別れだと!?

「ふざけんじゃねぇ! 俺は――」

「それとな、手紙を預かっておる」

「手紙?」

「ああ、なんでも君が私のところへ来たら渡してくれと。それだけは変だとは思ったが……ほれ」

 渡された手紙には、間違いなくヴァンの筆跡があった。

“イーヴァイへ、”

“どうせお前のことだから、僕がいなくなったことに気付いて教授の所へ殴り込みに行ったんだろ?”

「その通りだよ……」

“実は謁見の後、帝王の直轄研究機関に入らないかと誘われたんだ。それも教授として。驚いたよ、僕が教授だよ? イーヴァイの言うところの『お抱え』ってやつだ”

「バカヤロー……」

“本当はイーヴァイも一緒で構わないって言われたんだけど、僕一人で見極めてみたいんだ。この研究と皇帝陛下の真意を。だからしばらくお別れだ。一方的ですまないと思ってる……でも、僕はもう逃げたくないんだ。あの一発は効いたよ。”

“唯一の友として、イーヴァイへ”

「バカヤロー……!」

――カッコつけやがって。

 その様子を見て、教授は笑顔でイーヴァイの肩を叩く。

「ヴァンくんは教授として帝都へ行った。だが絆があればいつでも会える。次に会った時に笑われないよう研究に励め」

「……へっ、分かってるよ」


――それから半年ほどが経ち、イーヴァイは帝都の研究所を訪ねた。

「ご用件はなんでしょうか?」

「ここにヴァンいるだろ、ヴァン・ルッカーロ。そいつに会いに来た」

「アポイントメントはお取りになってますか?」

「んなもん要らねぇよ」

「は?」

 お構いなしにイーヴァイは研究所を進む。

「ちょっと、お待ちなさい!」

 受付けの女性が非常ベルを鳴らそうとすると、イーヴァイは女性を拘束する。

「いいから大人しくしてな姉ちゃん。それとも犯されたいか?」

 耳元で囁くと、胸を触る。

「ただの脅しだと思ってるなら、大間違いだぜ」

 床へ押し倒すと、服を強引に脱がせる。

「やめっ……!」

「止めたら通報するんだろ?」

「しな、い……から、あっん!」

「いいから大人しくしてな」

 素早く性感帯を探り当てると、ゆっくりと昂ぶらせていく。

「はっ、あ……んっく……」

 身をよじらせ、熱と快感に支配されていくのを感じ始める。

「もうこんなになってるじゃねぇか」

 秘部を触ると、すでに蜜で溢れていた。

「やっ、ん……だめぇ……」

「可愛いじゃねぇか、名前は?」

「リッタ……あんっ」

「リッタか、普段我慢してんだろ? 曝け出しちまえよ……」

「だめよ……ここは研究所で……あっ!」

「そんなの忘れちまえよ、忘れさせてやるぜ」

 イーヴァイはズボンを脱ぐと、そそり勃ったモノを秘部に挿入する。

「あっ、はいっ……! て、ん、あっん」

「こんな簡単に入っちまった。欲しかったんだろ!」

 動くたびに、リッタは快感に身を震わせた。

「もう……だめ、ん! いっちゃぅ!」

 イーヴァイはラストスパートとばかりに突上げ、リッタは果てた。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

「いい躰してるなリッタ」

「馬鹿! なんてことして――」

 唇を塞がれる。

「ん……はぁ、ん。ズルい……」

 抱きしめ合い、2回戦へと突入する。


「教授、このデータどう思いますか?」

「んー、これは数値計算が疑わしいね、演算機に入れてみて」

「分かりました」

 あちこち忙しくしていると「教授、お客様がお見えです」と知らされる。

「あとにしてくれ、今は――」

「んだぁ? 俺と話す時間とねぇってか?」

「ちょっと! なに勝手に入って来てるんですか!」

「いいだろケチくせぇ」

 そのやり取りと声に、ヴァン・ルッカーロは振り向いた。

「イーヴァイ!」

「よっ!」

 駆け寄り抱きつくヴァンは、半年前と変わらず女みたいに華奢だった。

「お前よ、ちゃんと飯食ってるのか?」

「食べてるよ! あー、ちょっと待ってね」

 各所に休憩の指示を伝達してから、イーヴァイと休憩所へ向かう。

「びっくりしたよ、まさかアポなしで来るなんて」

「そんなもんわざわざ必要ねぇだろ? 親友に会うのによ」

「ふふ、変わってないね」

「お前こそな」

「ところで、アポなしなのにどうやってここまで?」

「なーに、受付けの姉ちゃん口説いただけよ」

「受付けのって……まさかリッタさんを!?」

「なんだ、知り合いか?」

「半年も居ればね、ていうかあの人がどういう人が知ってて口説いたわけ?」

「どういう人って?」

 やっぱり……と呆れる。

「あの人は皇帝陛下直轄研究機関総管理兼理事室長のお孫さんだよ」

「……まじか」

 ようやくイーヴァイはとんでもない事をしでかしたと理解した。

「やべぇ……俺死刑かな」

「はぁ? なんで死刑って……え? ちょっと待って、口説いたって……まさかお前」

 正直に全て話すと、ヴァンの顔から血の気が引いた。

「イーヴァイ、今すぐ逃げるんだ。僕の知り合いが――」

「誰がどこに逃げるですって?」

 まるでロボットのようにぎこちなく振り向くと、そこには噂のリッタがいた。

「りりりりリッタさん!?」

「なんですか、人を幽霊みたいに」

「いや、あの、その、本当に申し訳ありませんでした! せめて死刑はどうか!」

「はぁ? 死刑? なんのことよ」

 事情を聞いたリッタは「いや死刑なんてないない!」と笑って否定した。

「いやでも、無理矢理って!」

「まあ最初はね。でも楽しかったからいいのよ」

「楽しかった……?」

「だって、理事の孫ってだけで誰も彼もが腫れ物でも触るように接してきて、疲れちゃうんだもの。あんなこと初めてだったから、興奮しちゃった」

 ふふ、と笑うリッタは、晴れやかな表情かおをしていた。

「あっ、言っとくけど、初めてって言っても経験はあるからね?」

「だろうな、処女じゃなかったし」

「……」

 あまりに縁の無い世界の話に、ヴァンはすっかり沈黙してしまった。

「おおそうだ、リッタに童貞奪ってもらえよ」

 唐突な提案にヴァンは「なななになになにを!?」と激しく動揺する。

「あら、教授って童貞だったの? あたし童貞好きなんだぁ」

 モーションにすっかりヤられたヴァンを、イーヴァイは「おい、しっかりしろ」と叩き起こす。

「ていうか時間ねぇんだろ? 本題はいろうぜ」

「ん……本題って?」

「単刀直入に訊く。答えは見つかったか?」

 その問いに、ヴァンは笑顔で答える。

「うん!」

「よっし! じゃあ計画進めようぜ」

「今から?」

「当たり前だろ! なんのためにリッタ口説いてここまで来たと思ってるんだよ!」

「いや、それは普通にアポ取ればよかった話じゃ……」

「あたしは結果オーライだったからいいけどね」

 犯されてこんなに明るいのもどうかとヴァンは思ったが、イーヴァイが嫌がることを無理強いするわけもない。想像で補完するしかないが、リッタは本当に楽しめたのだろう。

「分かった。じゃあ計画を進めよう」

「なになに? なにするの?」

「お前は関係ないだろ」

「へぇ? いいのよ、あたしが一言言えばどうとでもなるんだから」

 リッタは小悪魔な笑みを浮かべる。

「てめぇ、俺たちを脅す気か」

「別にいいのよ? あたしは損ないんだし」

「でも……」

「後悔するんじゃねぇぞ」

「そういうのわくわくする!」

――厄介な女に手を出しちまったな……。

 後悔先に立たずとはこの事かと、イーヴァイは珍しく反省した。

 そして三人は、これから巨大な運命の渦に巻き込まれながら壁に立ち向かうことになるのだが……それはまだ先のこと。

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