第30話「洞窟に響く声」

「リゼルよ」

 一歩先も見えないような暗い洞窟に、重々しい声が響く。

「どこへ行っていた?」

 リゼルはしばしの沈黙の後、一言「別に」と答える。

「ふん……どうせ力を試したかったのだろう。言ったはずだ、貴様はまだ安定していないと」

「分かってる」

 黒甲冑を脱ぎ捨てると、瘴気が一気に吹き出す。

「随分と溜め込んだものだな。時間制限ギリギリといったところか」

「大したことはない。あの頃に比べれば大分慣れた」

 手を握ったり開いたりして、体の機能が正常であることを確かめる。

「面白い奴がいたよ」

「騎士長か?」

 ――王国に行ったことはお見通しか。

「いや、クォンツェルの子だ」

 その一言に、空気は一変した。アイラや騎士長でも身動きが取れなくなりそうな程の重圧感プレッシャーが襲う。

「竜の子に会ったというのか」

「……ああ」

「それで?」

「まだ覚醒はしていなかった。独学だろうが、基礎程度には竜気を操っていたよ」

「クォンツェルには報告したのか?」

「いや、まだだ」

「ふん……」

 重圧感プレッシャーが軽くなる。

「基礎程度か。どうせ竜気としては扱えてないのだろう。貴様のようにな」

「私ならマスターできる」

「調子に乗るなよ、小僧。人間にしては短い時間でよくここまでと褒めてやるが、超えられん壁というものがある」

「超えてみせるさ」

「相変わらず口は達者だな。約束を破るようでは、いかにクォンツェルの頼みであろうと協力はせんぞ」

「……分かった」

 黒甲冑を再び身に纏うと、その洞窟を後にする。

 ――今はどうとでも言うがいい。

 私が欲しいのは、クォンツェルの力だ。ドラゴンの中でも最強と謳われるその力を得ることができれば、長く続いた私の渇望が満たされるはずだ。

 外に出ると、一匹の魔獣が待っていた。

「待たせたな」

 見た目は黒い馬で、たてがみと尾は紅蓮に染まり、鼻筋の白い線が特徴的で、体高は2メートルほどもある。

「もういいのか?」

 人語を解して意思疎通のできる魔獣は、リゼルに確認する。

「ああ。ただの説教だ」

 そう言って魔獣に跨る。

「あまりアイツを怒らせるなよ? 後が怖いぞ」

「私が恐れるのは、不確実性だけだ」

 ――覚醒する前に殺すか。

 どうせ、クォンツェルには報せていない。元々存在しないはずなんだ、消えたところで問題あるまい。

「王国へ行くぞ」

「王国へ? いくらお前でも、連続は死ぬぞ」

「戦うわけじゃない。確かめたいことがあるだけだ」

 魔獣はリゼルの意図を汲み取れずに聞こうとしたが、どうせ答えないだろうということは分かっていたため、なにも言わずに黒い風となり、王国へと向かった。

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