第22話「メア・ドラグノス戦⑦」

 黄色の信号弾が、上空高く打ち上げられた。

 ――あれか。

 騎士長が言っていた、強力な援護。一旦離れてみると、王都から光が向かってくる。

「なんだ?」

 細い光は、そのまま魔物へと命中する。どうやら、あれが援護らしい。

 ――あの光、一体なんだ?

 謎の光線は、魔物に当たって消えてしまった。もちろん魔物は無傷。

「頼もしい援護だこと」

 再び地を蹴り、暴れる魔物へと飛び込む。媚薬が切れてから、なぜか身体が軽い。いつもより相手の動きが見えるし、無駄な力が入らず、瘴気によるブーストを使わずとも、刃が魔物の体を斬り裂く。

 ――騎士長のおかげか?

「ま、いっか」

 深く考えるのは止めよう、それは、宿に帰ったあとでいくらでも出来ることだ。今は、目の前のコイツを倒す。

 刃を交えて、分かったことがある。あの気色悪い表皮から脱皮した今のコイツが、メア・ドラグノス本来の姿なんだということが。あのガスは、魔物自身から発せられる物凄い熱量を溜め込まないように、ガスとして放出していたのだろう。普通の人間が無闇に近付くと、それだけで重度の火傷を負いそうだ。

 それにしても、自分の頑丈さに更に磨きがかかったように思える。時々強烈な攻撃を受けるが、傷はほとんどない。砲撃を受けても、熱いと思うぐらいだ。それもまた、瞬時に治ってしまう。不死身を通り越して、もはや無敵になったのではないかと錯覚するほどに。

「ますます化物だな」

 それに比例して、興奮が加速していく。アドレナリンが尋常じゃないレベルになっている。

 魔物へ斬り込んだ時、再び信号弾が打ち上がった。

 ――またあの光線か。

 避けるまでもないと、アイラは連撃を叩き込む。そこへ来た光線に、反応しきれなかった。

「ぐぅっ!」

 すんでのところで、剣を盾にして防ごうとしたが、その光はアイラの腕を焼いた。

 一旦離れて休憩しようとするが、再生が遅い。いつもなら瞬時に再生されるはずが、焼け焦げたままだった。

「あの光……そういうことか」

 アイラの頭に浮かんだもの。それは魔法だった。

 この世界には、魔法という超越的技術が存在する。魔力を糧として、様々な奇蹟を起こす。だが、今は使える者はいないはず。ただの例外であるドラゴンを除いては。

 アイラは、光の飛んできた方向を目を凝らして見た。すると、なにやら砲台のようなものが見える。

「へぇ、面白い玩具おもちゃ持ってるじゃない」

 あれは魔法ではない。しかし、それに近しいものではある。騎士長は、どうやら面白い研究をしていたらしい。

「なるほど、強力な援護か」

 一発目は様子見の試射だったか。いけると踏んで二発目。となると、次は更に強い砲撃が来る。それに合わせて、魔物を誘導出来れば……。

「アイラー!」

 ちょうどその時、カイサルが態勢を立て直した合図を送ってきた。

 ――これで最後かな。

 アイラは、腕がようやく治ったことを確認すると、強く濃く、剣に瘴気を纏わせ、天災級アガータスクラスとの決戦へ飛び込んでいった。

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