第21話「メア・ドラグノス戦⑥」
王都の中央広場に、その機械は鎮座していた。表現するとしたら、それは大砲だろうか。戦争などでよく目にする大砲と違うのは、砲身が黒い鉄ではなく銀色だということ。車輪は付いておらず、円形の台座にボルトのようなもの固定されていること。なぜか大砲の左横にレバーがあること、そして、その大砲を中心にして、大きく円形の模様が地面に描かれているということ。記号や幾何学模様や文字などが描かれていて、台座を通っていくつかの線が砲身にまで延びていた。
「準備はできたかー?」
白衣を着た騎士達は、書類を挟んだバインダーを片手に動き回ったり、大量の試験管立てを並べたり、砲身の角度を調整してたりと忙しない。
「隊長、準備出来ました」
続々と準備完了の報告が入り、遠くに見える怪物。メア・ドラグノスに向けられた大砲は、ひたすら発射の時を待つ。
「……よし、先ずは様子見で1本いってみるか」
十三番隊隊長のノガミは、沢山ある試験管立てを眺める。その全てに、赤い結晶が入ったガラス管がささっていた。上と下は金色の金属で固く蓋がされてあり、イメージ的にはヒューズが近いだろうか。
「こいつでいくか」
そのガラス管を一つ、適当に取り出すと、地面に描かれている模様の外側、等間隔で描かれている小さな星の記号の上に置く。
「よっし、そんじゃいくよー」
隊員の一人が、黄色の信号弾を打ち上げる。それを確認したノガミが、大砲のレバーを引く。
ガラス管に入っている結晶が、バチバチと音を立てて光り輝く。その光は地面の模様へと吸い込まれるように移動し、模様全体が赤く光る。光は線を辿って台座、砲身へと移動する。やがて赤い光は、大砲の先端に光球の形で収束する。
「第一射、発射」
発射された光線は細く、やや頼りなくはあるが、勢い良く魔物へと直進した。試射を兼ねての第一射は、見事に魔物に命中する。
「どうだ?」
ノガミが結果を訊くと、観測班が単眼鏡で着弾を目視確認する。
「砲撃は魔物の鱗を焦がした程度です。あの鱗は魔法耐性があるようですね、一部は弾かれていました」
「ほう、なるほど? 面白いじゃないか。では、3本いってみようか。適当に設置したまえ」
手の空いている隊員が、先程ノガミがやったようにガラス管を3本、等間隔の星へ設置する。
「ふむ、ではいってみようか」
照準角の微調整を待ち、黄色の信号弾が打ち上げられたのを確認して、ノガミはレバーを引く。
「第二射、発射」
第一射よりも明らかに太く強い砲撃は、魔物を揺るがすほどの威力があった。
「どう?」
少し大きな声で訊くと、観測班が興奮した様子で「弾かれてません! 鱗を破壊しました! しかし、皮膚も硬く抜けませんね」と早口に報告する。
これなら、ドラゴンにも通用するかもね……。
ノガミは舌なめずりする。機嫌が良かったり、物事が上手くいった時の癖だ。痩せ型に細い顔立ちで、爬虫類を連想する輩もいるが、ノガミにはそんなことはどうでもよかった。自分の容姿や風貌には興味が無い。この世で興味があるのは二つだけだ。魔法科学と、尊敬する騎士長だけ。
魔法がこの世界に存在するのは、だいぶ昔から言われてきたことだった。しかし、魔法のエネルギー源はなんなのか、どうやって使うのか、それが長らく未解明だった。
魔法が初めて確認されたのは、ドラゴンである。厳密に言えば、文献や遺跡など、魔法が存在した痕跡は多々あった。しかし、魔法を実際に見た者はいなかった。だからこそ、ドラゴンの魔法は絶望と同時に、カルトと侮蔑され続けてきた魔法科学の研究者達に、鮮烈な衝撃を与えた。自分たちの信じてきたものは正しかったのだ! と。
大砲に使われている結晶は、長年の研究の末に精製することに成功した魔力の結晶だ。ただ、これだけではその辺の石と変わらない。その魔力を抽出し、エネルギーに変換するのが、地面に描かれている魔法陣だ。そして、一風変わったこの大砲が、そのエネルギーを消費して砲撃を撃ち出す。今みたいに結晶を多く使えば、それだけ威力が大きくなる。だがその分、砲身への負荷も大きい。まだ試射段階であり、いつ壊れるかも分からない試作品なため、あまり強い負荷はかけられない。それに、結晶を一つ精製するにも、どれだけ急いでも一ヶ月は掛かる。その分、純度も下がり、粗悪品となってしまう。そうすると変換効率が悪くなり、威力は低いし負荷はかかるしでろくな事がない。逆に純度を高めようとすれば、平気で半年や一年掛かってしまう。今日まで特に脅威がなかったからこれだけの弾数を精製できたが、これから量産するとしたらと考えると……ノガミは頭が痛くなる。
だが、これで魔法科学の実証実験が無事に済んだわけだ。もう誰にも文句は言わせない。もう誰にも邪魔はさせない!
今度は、結晶を4つ、5つと使って、この兵器の耐久性を試す! この日のために、結晶の蓄えは十分にある!
「いくぞ、次だ!」
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