第16話「メア・ドラグノス戦①」
「おいおい、これは夢なのか?」
「残念たけど現実だよ、頬を
「そんなことされなくても分かってるよ……このヒリヒリした感じは、紛れもない現実だってな……!」
ドラゴン化した魔物、メア・ドラグノスはイクスバーンと同じく突然変異した魔物。ドラゴン化とは本物のドラゴンになったわけではなく、脅威がドラゴンと同じ
「それにしても、こいつ巣より大きくないか?」
カイサルの言う通りだ。巣も大きいが、コイツは巣の大きさよりもはるかに大きい。
ドラゴンと同じ四足で翼があるが、その姿はドラゴンとは似ても似つかない醜いものだ。全体にゴツゴツとした黒い体は所々でガスを吹いている。表面は陽の光を浴びてヌラヌラと光り、異常に大き右眼がギョロギョロしている様は、どことなくイクスバーンを彷彿とさせる。左眼はそこまで大きくないが、糸で縫われたようにして閉じている。鼻は赤く爛れており、口は特別大きいわけではないが黄ばんだガタガタの歯が歪に並んでいた。
――また突然変異……。どうなってる? こんなにポンポン出てくるものか?
それにしても強烈な臭いだ。腐った卵とゲロと下痢便をグチャグチャに混ぜたような……吐き気なんてものじゃない。胃から込み上げてくる。少し距離を置いただけでは臭いは変わらない。
騎士長がここまで予測していたかは分からないが、嫌な予感の中でもピンポイントに最上級の悪夢だ。
「アイラの判断は正しかったな。これは黒だ、極上に真っ黒な災厄だぜ……」
先程サイレンが聞こえた。避難は始まっている。後は……。
「カイサル、あたしはコイツを出来るだけ足止めする。その隙に――」
「俺のことは気にするな、思いっきりやれ!」
「カイサル……?」
「こんな化物、俺じゃ足手まといにしかならねぇことぐらい分かる。俺はあそこで腰抜かしてる阿呆共を逃してくる」
巣を発見した兵士達が、皆腰を抜かして動けないでいた。
「騎士長も動いてるはずだ。お前は独りじゃねぇ、それを忘れるな」
アイラはずっと独りで戦ってきた。アモルという仲間が出来てからも。だが――。
「……ありがとう」
「死ぬんじゃねぇぞ! まだお前に勝ってねぇんだからな!」
――ばーか、あたしは死にたくても死ねない、呪われた人間なんだよ。
「さて……」
最終的にはドラゴンと戦わないといけないんだ、メア・ドラグノスに負けるわけにはいかない。
アイラは、メア・ドラグノスを本物のドラゴンとして見立てた。とりあえず魔物の足をいつものように殴ってみる。
「〜っ!」
しかしこれが想像以上に硬く、拳が全く通用しない。それに表皮のヌメリで威力が殺されてしまう上に、まるで接着剤のように纏わりつく。
「気色悪いったらないな……」
今度は瘴気を瞬間的に攻撃へ乗せる。
「せいっ!」
威力は大きいが、やはりダメージにすらなっていない。
「やっぱり駄目か、でたらめな頑丈さだな」
まさに
「ちょっとずつギア上げていくよ!」
これから攻めようとしたその時だった。
「……動きが止まった?」
アイラが鬱陶しくなった――というわけでもなさそうだ。なにやら口を大きく開けた。
「まさか……!」
方角は王都、向きも若干下に調整している。
――コイツ、狙ってるのか!?
王都を余裕で破壊できそうな魔力が集中するのが分かる。
「くそっ!」
だがここからはまだ遠すぎる。まず当たらないだろうが……しかし念のため、狙いをズラす必要がある。
「顎折れたらごめんね!」
全力で跳び上がり、その勢いのまま魔物の横顔を蹴り飛ばす。しかし、それでも僅かに動いただけで、砲撃は王都へ発射される。
「ちっ! させるかァー!!」
砲撃の瞬間、目の前に飛び出してガード態勢を取る。砲撃を喰らう部分に集中して瘴気を纏う。
「ぐぅ……ッ!!」
それでもアイラの腕は焼かれた。しかし功を奏したのか、威力が落ちて下町にすら砲火は届いていなかった。
最悪の事態になる前に、なんとか砲撃できないようにしなければいけない。砂の上に落ちると、すぐに立ち上がろうとして腕に力を込める。砲によって焼かれた両腕はいつの間にか再生されていた。
――ふふ、まさに化物だな。
皮肉なことに今はそれが有り難い。だが、このまま受け入れるつもりはない。絶対に元の体に戻ってやる。そのために、ドラゴンの涙を手に入れるために、カイサルの話に乗り騎士長の招聘を受けたのだから。
「早速使わせてもらうか」
背中に括り付けた剣を抜く。実は今朝、ここへ来る前に騎士長から渡されていた。
『これを貴様に授けよう』
『これは?』
『騎士に授ける剣だが、貴様用に
『
『使えば分かる。普通の剣では役に立つまい』
抜いた剣、その刀身に瘴気を纏わせると、魔物の足を切り裂いた。
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