第14話「進化」
「アイラ、どうだった?」
アイラが宿に帰ると、アモルが心配そうにやってくる。
「なにが?」
「騎士長に呼ばれたと聞いてな」
ああ、そうか。アモルを現場に置いてきたんだった。
「魔物の件で呼ばれてね」
「魔物? 魔物がどうしたんだ?」
アイラはアモルに、犯人が憑依型の魔物に取り憑かれていたこと、巣がどこかにあるらしいことを伝えた。
「ここに魔物が? そうだったのか……魔物は私も幾度か遭遇した。幸い大した敵ではなかったが……そいつらの巣が、この近くに?」
「確証はない。けど、十中八九あるね。騎士長が指名で頼むほどだ」
それにしても、なぜあたしとカイサルなんだ? どうして騎士や兵士を使わない? わざわざ招聘した駒を使う理由……嫌な予感がする。
「アモル、あんたはここに待機していてくれ」
「分かった」
「それと、これ」
渡したのは、王国の兵士に支給されているのと同じ剣だった。
「これは?」
「騎士長に頼んで支給してもらった。魔物のこともあるけど、これから戦闘が増えるのに丸腰というわけにはいかないからね」
「アイラ……ありがとう」
「兵士はそれなりに強い。でもアモルほど経験を積んでないし、実力も甘い。万一の時は力になってあげて。兵長にも話は通してあるから」
「分かった、任せろ。それにしても、アイラはいつの間にか王国の信用を得ているな」
「そう? 招聘された身だからじゃない?」
アイラはナチュラルにそういったことに無頓着だから気付かないようだが、騎士長も兵長もアイラのことを認めてくれてるのだろう。
それから数日後、魔物の巣が見つかったと報告が入った。
「報告ご苦労」
王国から離れた
「巣はどこだ?」
「あそこです」
カイサルが双眼鏡を受取り、その方角を見る。
「あれか……」
意外と白くて綺麗だな……しかしどこか禍々しい。魔物の巣とは一体どういうものなのだ? まさか魔法の産物では……いや、考え過ぎか。
「あれか。こんな所にあるとはな、けっこう遠いぞ」
双眼鏡をアイラに渡して遠くにある王国を見る。霞むほどとまではいかないが、王国の全体がギリギリ視認できるほどの距離だった。
王国は大陸を支配するほどの大国ではないため、こうして周りに空いている土地もある。そうは言ってもこの地帯は王国の所有となっているはずなので、他国が好き勝手に使うことは出来ない。
「間違いないね、巣だ」
「しかしアイラよ、魔物の巣とは誰が作っているのだ?」
何気ないカイサルの一言に、アイラはハッとした。
――そうか。だとしたら……。
「……ん? おい、アイラ?」
「ん? ああ、いや。すまない。よし、行くぞ」
巣へ向かおうとすると、騎士が「我々はここで待機している」と言い出した。
「なに?」
「騎士長様からのご指示だ。巣へ向かうのはアイラとカイサル。騎士並びに兵士は離れた所で待機せよ。と」
――そうだろうと思ったよ。
「なんだって? そりゃ一体―――」
「カイサル! 行くよ」
カイサルが文句を言おうとするのを、アイラが制した。
「チッ、腰抜け共が」
近くに来ると、巣の大きさが見えてきた。
「でかいな……」
大きさとしてはワイバーンの3倍はある。白い骨のような材質の丸い外郭があり、真ん中に黒い空間があった。全体が、時折ノイズのように歪む。
「憑依型しか見てないから、せいぜい
――そうなると厄介だ。……早めに使うか。
ここに来る前に持たされた、信号弾を準備する。青は“脅威なし”。緑は“脅威を排除した”。赤は“危険、至急応援求む”。そして……。
「アイラ?」
「生きたかったら、逃げたほうがいいよ」
打ち上げた信号弾は黒、特一級非常事態。つまり王国の危機だ。
「黒? 赤じゃないのか?」
「どうして、空間が歪んでいると思う?」
巣の周りはノイズが走り、黒や紫や青などの色がグニャグニャと生き物のように入り混じっている。
「巣があるからじゃないのか?」
「まあ、間違いではないけどね。これは巣が
「はぁ? 巣って進化するのか?」
「ごく稀にね。そして、進化した
「なんだよ、厄介なって……黒の信号弾って特一級非常事態だろ? それって……」
その時、巣穴から巨大な何かが出てきた。
「ドラゴン化した魔物、メア・ドラグノスだよ」
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