第13話「一つ。だったはずだ」
「魔物だと……?」
報告を聞いた騎士長が顔を上げる。山積した書類仕事を片付けていたところに、その報せが入った。
「それで、その魔物は?」
「はっ、例のドラゴンスレイヤー・アイラとカイサル・ダモセル様が処理にあたり、これを排除したとのことです」
「ほう、あの二人がか」
思ったよりやるじゃないか。この分なら、例の厄介な問題も片付けてくれるかも知れんな。
「二人をここへ呼べ」
「はっ!」
昼過ぎ。アイラとカイサルが昼食を食べていると、 兵士が3人してやってきた。
「……なに?」
「アイラとカイサルの両名は至急、騎士長の元へ来られよ。との伝令です!」
「ふーん、伝令に3人もねぇ」
「どうせ魔物についてだろう」
食事を終えた二人は、兵士に連行されるような形で騎士長の元へと向かう。
「こんなことしなくても、逃げないよ」
「規則ですので」
騎士長の執務室は王都の中で最も奥にあり、王宮に最も近い場所である。招聘されて以来、何気に初めて来る。
「失礼します!」
兵士はここまでのようで、ノックだけすると、任せるといったように促す。
「入れ」
扉を開け中に入ると、壁が八面ある八角形という珍しい造りで、その八面全てが書棚となっており、ビッシリと本で埋め尽くされていた。周りに置かれたテーブルには書類が山と積み上げられている。しかし執務机は整然と整理されており、雑多な感じがしない。
「失礼します~!」
後ろから声がして振り向くと、前が見えないほどの書類を両腕に抱えた女が立っていた。
「すみません、通してくださ〜い」
鼻にかかる言い方が特徴的なその女は、書類を空いてるテーブルへと綺麗に載せる。
「ふぅ」
「ありがとう。こっちは片付いた、頼む」
「はい!」
騎士長から見て右にあるテーブルは、どうやら処理済みということらしい。女がその山を、器用にひょいっと全て持ち上げると、「失礼します〜!」と出て行った。
「騎士長の右腕といったところかな?」
女が去ってから。アイラが彼女のことをそう表現した。
「ああ、とても助かってるよ。……彼女は
「あんな器用なのに?」
「ああ。俺の手伝いをさせてみたら、思った通りの働きをしてくれた。何度か秘書を雇ったこともあるんだが、私の要求に応えられる者がなかなかいなくてな。今では彼女を手放せんよ」
人を見る目がある。そして文武に長けているときた。なるほど、騎士長の器に申し分ないな。
「さて、このままですまないが、用件は分かっているな?」
書類を片付けながら話を続ける。
「はい、魔物について。ですよね」
緊張した面持ちで、カイサルが答える。
「そうだ。カイサル、魔物を倒すとはお前も本当に強くなったな」
「いえ、俺は――」
「とても助かったよ。カイサルがいなければ危なかった」
――アイラ……?
「そうか、そろそろ貴様も騎士となる日が近いのやも知れぬな」
「俺が……騎士?」
ダモセル家は初代以降、代々剣を伝え、兵士を鍛える家系。だが、その中でも傑出した才ある者は騎士となれる。しかしその例は少ない。
「ダモセル殿とはその話もしていてな。実績があれば文句はなし。だそうだ」
「あ、ありがとうございます!」
「うむ。精進しろよ」
処理が一段落したようで、筆を置く。
「さて、本題に入ろう。アイラはどう思う?」
唐突な質問にも、アイラは直ぐに答えた。
「十中八九、近くに巣があるね」
「ふむ。やはりそう思うか」
騎士長の反応を見て、アイラも確信した。
「やっぱり、昨日今日の話じゃないんだね?」
「そうだ。魔物が出現したのは、実は今日が初めてではない」
「なんですって!?」
カイサルは驚くが、騎士長とアイラは話を続ける。
「よく、巣があると分かったな」
「あの魔物、死ぬ前に『ヌシ様』と言っていた。たまたま発生した魔物じゃない。近くに主のいる巣がある」
「主って? ていうか巣ってなんだよ?」
「文字通り魔物の巣だよ。小さい巣だと大体12,3匹ぐらいいる。主というのは巣の支配者というか、管理してる奴かな? 一つの巣に一体は必ずいる」
「なんか会社みたいだな。それが王国の近くにあるっていうのか?」
会社みたい。そのカイサル独特の表現に、アイラは思わずクスッと笑った。
「なるほど、言い得て妙だね。王国近辺にはまず間違いなくあるだろうね。そもそも憑依型の生息域は広くない」
まるでアイラの講義をカイサルが一人だけ受けているようだった。
「そこでだ、アイラとカイサルの両名を、魔物の巣の
「俺が……?」
「別にいいけど、一ついい?」
「なんだ?」
「巣の見当はついてるの?」
「ああ、こちらで一応調べてはある。だがハッキリとは分からん」
「それと、どうしてあたし達なの?」
重い空気が流れる。
「一つ。だったはずだ」
「……まあいいや。巣についてはこっちでも調べておくよ」
「任せる。こちらも何か分かったら情報を流す。頼むぞ」
「はいよ」
アイラが出て、カイサルも出ようとすると騎士長に呼び止められる。
「カイサル」
「はっ、なんでしょう?」
「アイラから目を離すなよ」
「え? それはどういう……」
「二度は言わん」
「……分かりました」
騎士長はなにを考えてる? それに、魔物の巣ってなんだよ。あんな化物が他にウジャウジャいやがるのか? 一体なにが起きてやがる……。
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