第11話「アイラの過去」
「置いてきぼりなんて酷いじゃないか」
王都を散策し、夕暮れになったところでアモルのことを思い出して迎えに行って二人で宿へ戻ってきた。
「だから謝っただろう。それにあたしは夜、外に居られないんだ。宿にいれば自然と合流するだろ」
「まあ、それはそうなんだが……」
「しかし、至れり尽くせりとはこの事だな」
宿に戻るとすぐに食事が用意された。滞在費は全て騎士長が払ってくれるという。滞在中の小遣いまで。
「騎士長ってそんなに儲かるものなのかね?」
「さあね。でも、確かに只者じゃなかったよ」
「と言うと?」
「カイサルが足元に及ばないぐらいかな」
「勝てるのか?」
「勝つだけなら、いくらでも方法はあるよ。それこそ、瘴気を大量に当てればそれだけで人生を終わらせることだってできるし」
アモルは、瘴気の恐ろしさを思い出して青ざめる。
「ああ、ごめんね。瘴気は使わないよ。そんなことしても面白くないし」
「ということは、正々堂々と?」
「もちろん。実力を計り切ったわけじゃないけど、あいつじゃあたしには勝てないよ」
「すごい自信だな」
「あたしは呪いのせいで強くなりすぎたのかもね。呪いの暴力を解放すれば、ドラゴンともサシでやりあえるかも」
「おいおい、まだ強くなるのか?」
「呪いの力は騎士長には使わないよ。それに、それとは別に切り札もある」
「切り札?」
「瘴気を身に纏って、肉体の限界を遥かに超える
「そんな危険な技なのか?」
「まあね。でも、一時的に限定的な使い方だってできるよ」
「どういうことだ?」
「ほんの一瞬だけ解放してやるのさ。一部だけね。例えば……」
拳をアモルのこめかみで寸止めする。
「ここまでは普通。そして――」
コツンとこめかみに当てる。
「この瞬間だけ、瘴気を拳に纏わせて威力を爆発的に上げる。そうすれば負担はほとんどない」
「なるほど、頭良いな」
「地味に一番苦労したけどね」
「そうなのか?」
「思いつきは良かったんだけどさ、最初はコントロールなんか一切できないから、腕に瘴気が集中して腐り落ちたりしてね」
「……食事中にする話ではなかったな」
「そう?」
アイラは平気で食事を続ける。
「それに、最初は瘴気垂れ流しで大変だったよ」
「と言うと?」
「常に瘴気が漏れてるから、周りの草木が腐るんだよ。人が近付けば体調崩しちゃうし、まるで疫病神だったね。災厄を振り撒く鬼子と呼ばれてた
「ちょっと待て。そんな小さな頃から呪われていたのか?」
「そうだよ。物心つく頃には呪いを受けた」
10年以上も呪いと闘ってきたというのか! 強いわけだ……。でも待てよ? となると討伐したのはいつだ?
「話逸れたけど、そんなわけで騎士長に負ける気はしない。気になる点はあるけどね」
「気になるって?」
「いや、確信ないから今はやめとく」
もしそうなら、あたしは勝てない。そんなわけはないと思うけどね……。
一方その頃、騎士長は王宮で王に謁見していた。
「アイラとやらはどうだ?」
「はっ、なかなかに使えるかと」
「ほう。お前にそこまで言わせるとはな。どうだ、騎士にしてみては」
「騎士に……ですか?」
「そうだ。猟犬には手網が要るだろう」
「なるほど……ですが、あれは放し飼いの方が宜しいかと思いますが」
「貴様、王に意見するか!」
「よい」
噛みつく大臣を、王は制す。
「なぜそう思う?」
「あれは実力があります。しかし、独自のもので型も流派もない。王の仰ることに間違いがあるとは申しません。ですが、あれは規律を乱します」
「なるほどな、一理ある。特に騎士は規律あってこその騎士である。心得ておるな、騎士長よ」
「ありがとうございます」
「分かった。アイラについてはお前に任せる。なにかあれば大臣に申せ。大臣もアイラには目を光らせておけ」
「御意」
――アイラか。ドラゴンスレイヤーなどと呼ばれておるようだが……本当に彼女ならば、ドラゴンを殺したのはアイラではない。どう生き残ったのかは知らぬが……様子を見るとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます