第10話「招聘」

 王国は王を頂点とし、大臣、騎士長、兵長という三大権力によって成り立っている。しかしもちろん全てが平等というわけではなく、大臣があり、下に騎士長、そして兵長となっている。

 兵長は兵士全てを管理、指導する役職だが、自らも戦地に赴く点で言えば兵士と待遇はさほど変わらない。一方の騎士長とは、騎士全てと兵長、並びに兵士の頂点に位置する役職である。そう考えると兵長とは中間管理職とも言える。

 兵士と騎士の最大の違いは大臣直轄であるかないか。兵士は王国が所有するものなので国民の要望でも動くが、騎士とは大臣の直轄になるため誰もが動かせるわけではなく大臣の命令によって動く。騎士とは別に王の直属部隊もいるが、ここでは割愛する。

 つまり騎士とは兵士の憧れであり、誰もが一度は夢見て目指す所なのである。そんな誰もが憧れる騎士長から直接招聘を受けたアイラの噂は一気に広まった。初の女騎士か? 実は愛人では?

 謎は謎を深くし、市井しせいの話題はアイラでもちきりだった。

「すごいな、どこに行ってもアイラのことばかりだ」

 話題だけでなく、ポスターや新聞などもアイラ一色に染まり、なにもしていないのに一躍有名人となってしまった。仕掛け人は恐らく騎士長だろう。

「どうする?」

「なにが?」

「騎士長にどうやって会いに行くんだ? 裏から回るか?」

 アモルの心配をよそに、アイラは「正面だ」と言って堂々と正門に立った。

「これより先は許可ある者しか入れん」

 証を見せよとばかりに門番が立ち塞がる。

「招聘を受けて来た」

 騎士長からの招聘書類を見せると、門番は敬礼して迎える。

「失礼しました! お通りくださいアイラ様!」

「馬鹿、そんな大声出したら周りに知れて混乱になるだろうが!」

 アモルが「しーっ!」と注意するも時既に遅し。案の定、周りの人間が連鎖的に反応する。

「アイラ?」

「アイラだって?」

「本物か!?」

「……あんたも声大きいよ」

 アイラは呆れ気味に言う。

――しかし、これはこれで

「ああ、あたしがアイラだ」

 世界的な有名人が来たかのように、正門前は人で溢れた。

「アイラ様! こちらへ早く!」

 慌てた門番が門を開く。混乱に乗じてアイラはすんなりと入り込んだ。

「あれ? 私は?」

「招聘はアイラ様一人だ。付き人はここで待たれよ」

――私は付き人か……。

 アモルがいないことにアイラも気付いたが、今は騎士長が優先だ。

「こちらでお待ちください」

 外にある簡易的な休憩所に案内されると、そこで待たされることなった。下町とは違い王都は静かだ。空には優雅に鳥が舞う。

 この王国は下町と王都と王宮の三つに分かれており、主に庶民は下町に、騎士や貴族などは王都に、王族や大臣などは王宮に。といった住み分けになっている。

 アイラは騎士長に呼ばれているので、王都まで許可されている。

「待たせたな」

 王都の様子を眺めながら待っていると、騎士長らしき風格ある男がやって来た。

「あんたが騎士長か」

「そうだ。遠いところ、わざわざすまない」

「気にするな。それで、これは本気か?」

 招聘の書類を広げる。そこには、ドラゴン討伐をしてくれとの旨が書かれている。

「もちろん本気だ、ドラゴンスレイヤー」

「あたしには重すぎる名だ」

「世界でただ一人、ドラゴンを殺したのだ、当然の称号だろう。それにどの道、再びドラゴンを殺しに行くのだろう?」

「……調査済みってわけか」

「当然だ、我々の情報網は伊達ではない。貴様が呪いを受けていることも、月夜は外に出られないこともな」

 イクスバーンを倒したことについては触れない。つい最近のことだからか?

「そこまで調べているのなら、あたしが化物だってことも知ってるだろ」

「フッ、飼い慣らしてみせよう」

 空気がピリっと緊張する。お互いに間合い……やはり、この開けた屋外を選んだな。

「なるほど、カイサルの報告通り、それなりの実力と技量はあるみたいだな」

「それはどうも」

 抜刀もしてないのにこの殺気と緊張感。明らかにカイサルとは実力が違う。で何度イメージしても背後を取られる。あの時は一割もが、こいつ相手なら……。

「察しの通り、そのためにここを選んだのだが、どうやら過小評価していたようだ。ここでは

 剣を収めたかのように、殺気と緊張感が解けた。

「それは過大評価じゃない?」

「抜かせ。俺を侮るなよ? ドラゴン討伐はまだ先だ。それまで好きに過ごすといい。王都までなら、出入りを自由にしておく」

「返事してないけど」

「案ずるな。貴様の気が変わったら、その時には相手をしてやろう。だがその時は五分では済まぬぞ」

――チッ……食えない奴だな。

 しかしなるほど、ドラゴン討伐は思ったより楽しくなりそうだ。

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