第7話 月の者


「は?」


思わず声に出してしまった。



桜の花のような絵柄の艶やかな着物に、目を引くような滑らかな黒髪。

綺麗な月夜に光り輝く乗り物から降りて来たのは、かぐや姫ーー。一瞬そう思ってしまった。胸が躍る感覚さえした。


しかし、現れた顔は太い眉毛にぼさぼさのヒゲ、口紅ははみ出し、5センチくらいはありそうなつけまつ毛がばさばさと動いている。

そう、これは誰がどう見てもおかまだ。異論は認めない。



「誰ですか…、警察呼びますよ。」


「あらやだあ、やめてぇ。は決して怪しいものじゃないわ。うふふ。」


キモい。


「え、達って…?」


おかまの後ろを見ると、黒服の大男が乗り物から降りて来た。男はつかつかと"僕"の所へ歩いて来て、おかまの横に並んだ。さすがに怖くなり少し仰け反る"僕"。

一歩前に出て、男は口を開いた。


「初めまして。突然の訪問で何卒驚かれているとは思いますが、まずは簡単に説明をさせてください。こちらにいらっしゃる女性は、第16代かぐや姫の"まぬこ姫"でございます。」


「え?」


「そして、あなた様は今月の会議で"まぬこ姫"の正式な旦那様に選ばれました。おめでとうございます。」


「……はい?」



順風満帆な"僕"の人生が壊れる音がした。

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