第3話 ツキヲミアゲタ


"僕"の父親は天文学者だ。

小さい頃、UFOを見たのがきっかけで目指すようになったらしい。

息子の自分が言うのもアレだが、随分と阿呆な理由だ。

お笑い芸人が芸人になった理由と同じくらいにはどうでもいい。


父親の経歴など他に話すことはなにもないし、これ以上話そうとも思わない。が、ここで厄介なのはその職業だ。

父親の父、つまり父方の祖父も実は天文学者で、その家系には代々受け継がれている習慣がある。

それは、「十五夜の日は家族みんなで月を眺めながら庭で夕食をとる」というもの。


馬鹿馬鹿しい。月がかめはめ波で爆発するわけでもなく、ただ十五夜という理由だけで、庭でご飯を食べねばならない。

父以外で唯一この行為を喜ぶ奴がいるとしたら、それは蚊くらいだろう。

"僕"らは蚊に血を提供している、いわば蚊にとってのメシアだ。

くれぐれも変な病気はうつさないよう注意を払っていただきたいものだ、蚊の諸君。


さて、準備といってもテーブルと人数分の椅子を庭に設置するだけのことだ。

5分程でいつもどおりの場所に配置を終えた"僕"は、いつもどおりの月を見上げた。

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