希望、夢、友、......

希望、夢、友、好きだった人、憧れていたもの、目指していたもの、努力していたもの、幼い日の、鮮明な感情が、走馬灯のように蘇る。僕は死ぬのか。僕はもう生きているようには思えない。

おはよう、眠いね、僕はもうじき死ぬ。君に言い忘れたことがあったはずだけど何だったか忘れたよ。それを思い出して伝えるまでは死ねないな。

猫を飼っている。かわいい猫を。眠たい。猫はひとりでドアを開けて部屋に入り、僕にすり寄ってくれる。僕は撫でてやるだけでいい。最近はそれも億劫になって、猫の方も寂しそうだ。ふたり並んで憂鬱そうな顔をしている。

お腹が空いた。空腹の時に食事をとる、それだけが幸せだ。もう他に僕には何もない、何も信じられるものがない、何にも親しむことができない、世の中の全てが敵みたいに思える。ご飯を食べる単純な楽しみだけはまだ奪われずに済んでいる。読書やゲームは複雑で心のもう機能していない機能を必要とするものだから、僕は離れる時が来た。大人がどうしてゲームをやらないか?こんな理由だったんだな。寂しいんだ、人を信じられないのだ、自分を信じてもらおうとできないんだ。


僕を信じてくれ、僕も君を信じるから。簡単なことだ、僕を理由なく嫌わないでくれ、僕を理由なく苦しめないでくれ、それから、理由なく愛するのもダメなんだ。生活の全てが僕らの生活のすべてのためにあるような、微妙なバランスの上で成り立つものなんだ。ほんの少し、石ころひとつ、言葉ひとつ落とせば崩れ去るような危ういバランス、そのバランスを保つんだ。


僕の心の奥の、教会の鐘のようなもの、いつも静かに鳴っているもの。聞こえない、何も聞こえない。鳴っているのだ。僕だけの宗派、僕だけの声。たしかに鳴っているのだ。聞こえない、聞こえないけど。


ロッキー、ボクサーは幸せなんだろうか。サン・テグジュペリの名言で人間が求めているのは幸福ではなく充実だとあった。充実のことを幸福だというならボクサーは幸福だと思う。充実とは?なんだろう。それは競合するものか。あんなに顔を殴られて痛い思いをしてそれでも自分よりずっと幸福によい人生を送っているのだ、あのつらい日々が。


未来は見えない。明日にも死ぬような気がしている。僕は打ちのめされた人間だ。立ち上がろうとする火は、ああ、火はあった、かすかな炎、消えてしまおうかというかすかな、本当に小さな火種、わずかに点をひとつ打っただけのそれきりの大きさの灯り。これが僕の心の火である。なんて弱々しくなった。去年はライターの火くらいの大きさだった。年々弱まっている。ああ!消えてしまうのか。僕は、僕の狂人のような熱意は消えてしまうのか。狂人のような熱意、それが動かしている頭のほうは狂っていないと思っていた。いまは?ああ、僕は自分を狂人だと思っている。狂人とは?人から離れすぎた者だ。ああ、気違いも天才も、気が狂っているって意味では変わらない。違うのは、人々から離れすぎた先で何に捕まっているか、孤独の中で何が頼りになっているか。天才の中には初めから頼りにする者があって歩いている者が多い。ほんとうの狂人はときには何も頼りにしていない、獣のように生きてそして死んでいく。彼は誰にも何とも思われない、同類でなければ死のうが苦しもうがなんだってかまわないのが人間だ。それを責めるのはお門違いだ、だって君、そうだろう?人類みんなを家族のように思えるかい。思えない。思えるなら君も狂人だ。それが気違いか天才かは知らないが。家族にだけ見せる笑顔、もしくは恋人にあったときのような表情を、いつ誰に会ってもしている者がいれば、狂人だよ。真理はなかなか常識に反しない。

だからさ、自分の中で親しい人と親しくない人がいるのは当然なのさ。僕らはそれぞれ一人の人にすぎない。人類単位で見れば大きなものさ。でもそれは空想にすぎない、僕らにできるのはあくまで僕らだけのこと、些細なこと、つまらないこと、それが一大事で、それで頭がいっぱいになって、うろたえたり悲しんだり喜んだり、それで健全なんだ。宇宙の運命なんて勝手に背負わなくてもいいのさ、要は程度の問題、ちらと頭の片隅に置いておくくらいでいい。要するに僕は何を言いたいのか?わからない。僕は何を言っているのだ。僕は何を望んでいる?ああ、殺してくれ、もう生きていられない。殺してくれ、もしくは、生きる資格をくれ。なに、生きる資格だって、そりゃなんだいと思うだろう。僕もわからない。いま急に出てきた言葉だ。生きる資格、僕にはないように思えるのだ。生きているのがもったいない。何がもったいない?お金か?ああ、なんだろう。わからない。ともかく生きる資格がほしい。まっすぐ生きていたい。



気が狂いそうだ。狂気は小説にならない。狂気は安定した人間の状態じゃない、狂人だってずっとそこにいるわけじゃない。

突然自分の言葉が輝いて見える。ついに気が狂ったか?

自分の体が自分のものでないように思える。秩序が必要だ、僕は、一体なに、なにをしている?

人生とは。

僕はなにか不完全な方法論からどこかへ迷い込んだらしい。

その方法論は、もう俺さえいれば他になにもいらない、なんてお世辞を言う。嘘だ。生きている限り環境は変わり続ける。ならば生き方も、個人的な生き方は更新され続けなければならない。人は間違いには気付く。1人の中で矛盾があれば気付く。しかし、矛盾してさえいなければ間違っていても気がつかない。

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