本編 3 今までのこと

一番印象に残っているのは中学一年から高校一年、

年齢でいうと12から15のころだ。


父はやたらと説教をしたがる。

それも生き方についての話をずっとする。

当時僕がずっと聞かされていた話は、もとはビジネス書や職場で聞いた話で、

それのもとをたどればまた別のビジネス書、別の思想の本、

で、どうやら辿って行った先でわかったのだが、たぶんプラグマティズムだろうと思う。

『ザ・シークレット』『マーフィーの法則』『夢をかなえるゾウ』

とかの本が家にあって、僕自身ずっと読んでいた。

それで三年間くらいかけてゆっくりその思想を身に着けていって、

中学三年のころには僕も父のように、ツイッターで偉そうなわかったようなわからないようなことを書くようになっていた。


受験の話。

どの高校に行くかという話が出る前、僕は全然何も考えていなかった。

どこでもいいな、と思っていた。正確に言えば、

僕がどこへ行きたいと言ったところで、

母と父が決めてしまうからだ。昔からそうなのだ。


幼いころ本屋に連れて行かれて、欲しい本を選べと言われて、

当時「どうぶつの森」をやっていたのでその家具のカタログ本が欲しい、と言ったら(このあたり知らない人にはわからないだろうけど)、

それはだめだと怒られた。

たぶん小説とかを選んでほしかったのだろうと思うが、

当時の自分には全然そんなことを察することはできなくて、

それじゃ何も欲しくないと言ったら、いいから何か選べと怒られて、

そのうち僕は泣き出して、結局どうぶつの森のカタログを買ってもらったのだが、

それだって何か選べと言われたから仕方なく選んだもので、全然欲しいものじゃなくて、

むしろ父が「こんなものに金を使って」と不機嫌になっているのを見て、

幼い僕は泣きだして、それでまた「買ってやったのになんで泣いてるんだ」と父は怒り出して、

僕はせめてもの償いの気持ちか何かわからないが、せっかくの本を無駄にしないようにと、

家に着いてからいつまでもその本を読んでいた。面白くもなんともないのに。


それからもっと昔、僕の記憶のないころの話。

両親が殴り合いの喧嘩になったことがある、と聞いた。

喧嘩の原因は、もうすぐ小学校に入る僕を、野球部に入れるか、卓球部に入れるか、だったそうだ。

父は小中高と野球部で、母は卓球部だった。

お互い僕を自分の部活に入れたくて、それで喧嘩になって、

結局母が泣きだして、ようやく父が譲り、

僕は気づいたら卓球部にいて、毎週日曜日は卓球の練習に行っていた。

それも、気づいたら、僕がやりたいと言ってやりだしたことになっていた。

やってみれば僕はチームで一番強くなったのだが、

それは僕がやりたくてやっていたからじゃなく、

やらなければならなかったから、母があんまり強くそう望んでいたからそうなったのだ、

と言える。全然良いことじゃない。


受験の話に戻ろう。

僕は結局、近くの県立の高校で一番頭のいいところに行ったのだけど、

それも受験の夏に父がそこを受けろと言いだして、受からなければ田舎の実家に送って農家をやらせる、と言い出したからだ。

当時僕は全然理不尽に思わなかった。むしろ僕が不甲斐ないからこれくらい当然だと思っていた。

それで毎日泣きながら勉強した。

何度も書くが当時の僕はまったく理不尽だと思わなかった。

なぜなら僕の命は全部父の手中にあったからである。父は自覚していない。

衣食住が、という意味だけじゃない。僕の生きている意味が、である。

たぶん人間は一人じゃ生きられない。

少し関係のない話をするが、薬物に関するある実験で、

マウス一匹だけのケージに水と麻薬入りの水の二種を用意しておくと、

マウスは麻薬を飲み続けてついに死んでしまうが、

マウス数十匹の集団をケージに入れて、同様にただの水と麻薬入りの水を与えると、

誰も麻薬を飲まず、生き続ける、という実験があった。

別に僕の判断はそこからのみ来ているわけじゃなくて、

誰が考えてもそうだと思うが、人間は一人じゃ生きられない。

当時僕には父の言葉が全てだった。その父が、そうしろと言うのなら、

そうするしかない。間違っているわけがない、

苦しいのは僕のせいだ、怒鳴られるのは僕のせいだ、

父は、自分が正しいと思っている。俺が何か間違ってるか、と僕に訊ねる。

僕は、間違ってません、と言う。もしくは、形だけの反論をして、そのままねじ伏せられる。

中学のころはそんなかんじだった。


要するに父と僕の関係が異常だったということを伝えたい。

もし読んでいる人が「そんなに珍しいことじゃない、うちでもそうだった」とか、

「世間でもよくあること」と思うなら、

僕は大変悲しい。それなら同じ思いをしている全員が全員、救われ、改められるべきだ。


一体父に関することを書き始めたらきりがない。

今まで父の後姿だけを見て生きてきたのだ。


高校に入ってからは、日本文学の本を読むようになったり、

始めて彼女ができたりして、思想に変化がでてきて、

今に至るのだけど、

少し書きつかれてきたので、

続きは今度書くことにする。

結局、恨み言ばかり言っているけど。

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