こんばんは
やあ手紙だ 君に宛てたものかはどうか知らないがここを開いてくれたなら読む権利はあるさ
何を書こうかしら 何が読みたい?
僕の秘密でも書こうかしら
先日猫を拾いました かわいい猫です
僕だけの猫です 名前はつけていません 僕は他にペットを飼っていないから
それからもう一か月くらいになるのですが
一緒に食事をし 眠り 撫でたりじゃれつかれたりしているうちに
僕は 彼女に恋をしてしまったようなのです
猫に恋なんておかしいと思うでしょう? 僕だって思う
でも実際かわいくてかわいくて仕方ないんだから
別に僕は頭がおかしいわけじゃないんです
人間の、というか、普通に女の子と付き合っていたこともあります
偶然、前の子と別れてから出会いもなく暮らしているだけで
そこにたまたま猫を拾ってしまったせいで
猫に恋をしてしまったのです
やっぱり変でしょうか
おかしいですか 動物を相手に恋をするなんて
では恋とはなんでしょうか どうしてだめなんでしょう
僕が彼女にご飯をあげれば彼女は美味しそうに食べてくれるし
僕がつらくてふさぎ込んでいれば彼女は頬をなめて慰めてくれるし
僕が彼女に頬ずりをすれば彼女も嬉しそうに返してくれるのです
それでどうして恋でないといえますか
動物相手に人間が恋心を抱くわけがないといいますか
それでは僕が現に感じている この感情はなんなんです
もどかしいような、甘いような、彼女ともっと近くにいたい
彼女のためならなんだってしてあげよう
そんな気持ちが恋でなくてなんだっていうんです
むしろこれくらい人を愛したことがあなたにありますか
僕にはあります 初恋のときは今と同じような気持ちでした
それでもまだ猫に恋するのがおかしいと言う人がいるのなら
その人の根拠はたぶん どうしても 種が違うじゃないかと
その一点が根拠なのだと思います
つまり物理的に愛し合えないじゃないか そんな下世話な主張が聞こえるようです
ではその一点を超えてしまえば? もし彼女が僕を受け入れてくれたら
僕らの愛はプラトニックなものからさらに本当のものになるわけです
今 ぞっとしましたか
始めはかわいい猫と青年の話だと思っていたら
妙な方向へ進んでいって
気づけばわけのわからない話をしている
ぞっとしているのは僕です
どうして僕はこんな奇妙なところまできてしまったのか
愛とは恐ろしいものです
性情とはなおさら恐ろしいものです
一度抱いてしまった愛欲は容易に静まらない
彼女の潤んだ瞳が 媚びるような体の曲線が
僕に何かを求めているように見えてしまう
ああ、僕は狂人になってしまったのか
もう何日も何日も僕は自分の中の獣を抑え
耐えかねています
現状 その最後の一線を越えるのはそう遠くないように思えます
狂気への最後の一歩
一歩だろうか?
狂気とはたどり着くまではきっとやけに遠いものです
あと一歩、すぐそこまで来てしまった、と思っても
じりじりと寄って行けば 案外距離がある
ずるずると歩みながら これが最後の一歩 これが最後の一線と
そのつもりで踏み出せば まだ先がある
先にはもっと淀んだ空気がある
甘い瘴気
それに惹かれて 破滅の中へ歩いていく
こうして歩いて行ってたどり着くものか
僕は知らない
今日もまた一歩 狂気に身を任せて
ずっと前より淀んだ 汚れた欲情した目で
彼女を なめまわすように見ている
彼女は何も知らずに僕を見つめ返している
それとも汚れた僕の心を知っているのか?
知ってなお許してくれているのか?
そう思うと僕はまた一歩狂気に引きずり込まれる
一体いつ 僕が 彼女に何をするのか
僕自身も判然としない
判然としないまま
狂気と 愛欲と 彼女の愛らしさに
身を任せている
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます