本編 1

思い出した。どうしてこの文章を書き始めたか。

遺書の代わりに小説を書こうと思ったのである。

僕はもともと小説家を目指していた。

11のころからぼんやりと小説家に憧れていて、

15になって書き始め、

いま僕は18歳だが、こうしてキーボードを叩いている時間が一番楽しい。

書き始めた15のころは、星新一の真似をした短いSFのようなものを書いていたけど、

高校に入ってから太宰治を読むようになって、書くものも自然と私小説や告白めいたものになってきた。


太宰治の影響でか、もともとの性格もあってか知らないが、

僕はもう死のうと思っている。二年も、毎日自分の死ぬ姿を思い描いている。

二年と言えば偶然にも芥川龍之介が自殺を決めてから「旧友への手記」を書くまでの期間と同じだ(ついさっき読んだ)。

その手記を読んで、そういえば僕も死ぬ前に何か書きたいと思って小説を書くのだった、と思い出して、

こうしてパソコンの前に向かっている。


僕が死ぬ理由について書こうと思う。

太宰治の影響で死ぬ、というのは適切ではない。

どちらかといえば、自殺するような人間だから太宰治を読んでいた、というほうが正しい。

現に、僕は一昔前の有名な作家の本をいくつも読んでみたけど、

小林秀雄、宮沢賢治、芥川龍之介、三島由紀夫、川端康成などを一冊か二冊ずつ、

それから部活の用事で大江健三郎の本も読んだけれど、

太宰治の小説にだけは特別惹かれて、もう一冊、もう一冊と読んでいるうちに自然と好きになってしまった。

他には星新一の本も読んだし、最近の漫画、進撃の巨人とかナルトとかも読んでいるけど、

始めから、太宰治の本だけは特別惹かれた。他の人からするとそうでもないみたいだから、

やはり太宰治を読む前から僕が自殺しようとすることは決まっていたのだろうと思う。


どうして僕が自殺するのか、理由になりそうなものはいくらでも挙げられると思う。

大学受験に落ちた、彼女にふられた、あてにしていた小説で賞がとれなかった、

部活で頑張った反動で鬱になった、

他には、言おうと思えば、学校のせい、家庭のせい、社会のせい、インターネットのせい、なんだって理由にできる。

でもどれもいまいち違っていて、死ぬ理由はこれひとつ、と決められるものじゃない。

たとえば学校のせいだと言う人がいるとして、では学校の先生や同級生がもっと僕に優しくしていたら僕は死なずに済んだか?

そうではないと思う。そもそもこれ以上優しい人に恵まれることはほとんど日本どこへ行ってもないように思う。人と打ち解けられなかったのはどうしても僕のほうに原因がある。それは誰が悪いことでもなくて、ただ僕がそういう性格だから、どうしようもないものだと思う。


僕が死ぬ理由は、僕の中では、単に死んだ方が良いから、ということでまとまっています。

今まで生きてきて皆に迷惑をかけた。家族にも、先生にも、友達にも、後輩にも、先輩にも、関わった人みんなに迷惑をかけた。

僕一人が生きていくのにどれだけの犠牲が要るだろう?

どうしようもないことです。僕は物心がついたときからすでに、人を信じることができません。

それから自分の意志というものがありません。

やる気とか活力というものもありません。

素直に人を愛することもできません。

やれと言われたことをまともにやることさえできません。

僕が生きているのは間違いなく、人のためではないんです。誰のためにもならない。

では僕自身のためか? そうだろうか。

生きることにはずいぶん苦労が多い、僕の幸せのためにはずいぶん周りの犠牲が要るようです。

それから僕は、最近、自分のために周りの人を犠牲にするのを、心苦しく思うようになりました。

それだけが嬉しい。

僕の幸せのことを考えても、周りの人のためを考えても、

僕の性格を鑑みると、死んでしまうのが一番良いように思います。


だから死ぬ理由で一番適切なのは、「自分の性格に絶望して」でしょうか。

要するに死にたくなったからです。僕の心中からするとそれ以上のものはない。

生きるのが面倒になった、しかも死ぬ方がよいように見える。


せっかくこの文章を読んでもらっているのに何も面白いことを書けやしない、

と、ふと変な罪悪感にかられたけれど、別にそんなために書いてるのじゃないと思い出した。


何を書きたいか判然としない。

たぶん何日かかけて、死ぬ前に書かねばならないと思うことを、

ひとつ残らず絞り出していこうと思う。

ひょっとしたら、もう書かないかもしれないし、

そもそも死なないかもしれないし、

書く前に死んでしまうかもしれないが。

それはわからない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る