第2話 守護神
多くの人々が行き交い店舗の軒先には様々な商品がならび、活気に満ち溢れていた昼間の街
逆に夜の街は出歩く人もなく、敵から人々を守る外壁の上では、鎧と槍や剣で武装した兵士が行ったり来たりしている
そんな街を見下ろす丘の上に人影がある
月明かりに照らされたその姿は、黒っぽい服に身を包み、腰には一本の剣を携え、白髪の長い髪が夜風に吹かれ踊っている
「ここではない もっと東か……」
小さく呟いたその声は女性の声であり、その口調はなんとも落ち着いたものだった
その蒼い瞳で東の方向を見据えると、そのまま静かに広がる闇へと消えていった
―――――――――
「おい!そっちに行ったぞ!」
「囲め囲め!槍持ったか!?」
東の果ての町、ハテノタウン――
この町は鍛冶技術で発展した町で、ここで作られた武器防具は、国の騎士団でも採用されている程だ
普段はいたる所からハンマーで叩く音が聞こえてくるが、今日は代わりに男達の怒号が響き渡る
とゆうのも、町に魔物が一匹侵入したのだ
「よし!追い詰めた!」
ついに魔物は袋小路に追い詰められた
その魔物は大きな犬のような体に、尻尾が四本あり、鋭い牙と爪を持っている
追い詰められても、赤く鋭い目で睨み、大きく口を開いて吠えながら抵抗している
「この!」
囲んでいた男の一人が魔物に向かって槍を投げ付けた
しかし易々と躱され、槍は地面に突き刺さる
「今だ!」
一瞬のスキをついて、剣を持った男が斬り付けた
魔物は腹部を深く斬られ、空に向かって大きく叫び倒れた
それを見た周りの男達から安堵と歓声が沸き上がる
だがそんな彼らの足元で、魔物の体がピクッと動いた
「まだだ!動いた!」
その声に皆が魔物に目をやると、体中に黒いシミのようなものが広がっていく
シミが全身を覆うと、魔物の体は《変異》を始めた
「こ、こいつ!《カオス》だったのか!」
「まずい!みんな早く逃げろ!」
再び逃げ惑う人々
《変異》を終えた魔物の体は、以前のそれとはまるで別物になっていた
人間の身長の倍近くに、爪や牙はさらに鋭く大きくなり、背中には炎が奔っている
「騎士団に連絡は!?」
「したけど、とてもじゃないが間に合わない!」
その間にも変異した魔物は、炎を吐きながら町の中心部へ向かっていた
「おれ達じゃ手に負えない あいつはどこだ!?」
町の南にある武術道場 格闘術、剣術、槍術など様々な武術を教えている大きな道場だ
「大変だ!カオスが出たぞ!」
「カオス?侵入した魔物がか?」
「そうだよ!今町の中心部に向かってる!あいつはいるか!?」
息を切らせて入ってきた男の言葉に、道場内はざわつき出した
男はそのまま階段を駆け上がり、二階の格闘道場に駆け込んだ
ここに《あいつ》はいるのだ
「竜貴!いるか!?」
そう叫ぶ男の声に一人の青年が振り向いた
年令は二十歳前、十七歳くらいか
栗色の髪に黒い瞳、軽装で身を包み、手には木刀を持っている
「どうしたんですか?魔物が入ったんでしょ?」
「説明はあと!」
「え……うわ!」
「タツキ!終わったらすぐ戻れよ!」
タツキは師範の言葉に手を振って答えながら、手を引っ張られ階段をバタバタと降りていった
「一体なんですか!?」
「カオスだったんだよ!ほら!」
外に出て男が指差す方を見ると、建物の間から炎が吹き上がり、カオスと化した魔物が見えた
「まいったな おれの剣は磨ぎ直しに出してるんだけどなぁ」
そう言いながら準備運動をする
軽い準備運動を終えると、魔物に向かって走り出した
魔物の進路上にあった家や建物は破壊され、火事も起きている
魔物を止めようと大砲で攻撃するが、たいしたダメージにもならず、逆に前脚の一振りで一掃されてしまう
「くそ……タツキはまだか!?」
魔物が再び前脚を振り上げた
もうダメかと目をつむり顔を背ける
次の瞬間、ドゴッと鈍い音がした
恐る恐る目を開け顔を上げると、自分の前に人影が立っている
その向こうには横倒れになっている魔物の姿
「おまたせ」
前に立っていたのはタツキだった
彼の右拳の先からは細く煙が出ている
要するに彼はただ単にグーで殴っただけなのだ
もちろん常人ではあそこまで吹き飛ばすどころか、殴ることすら出来ない
タツキは子供の頃から大人と比べても身体能力は高かった
武術の才能にも恵まれメキメキ上達していった
そんなタツキはいつの頃からか、町に侵入した魔物を退治するようになっていた
それは通常の魔物の何倍もの力を持つカオスも例外ではない
守護神とも呼ばれる彼だが、その時すでに《宿命》が迫っていた――
ドラゴンとクイーン 成東 @naruto
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