第14話 第二の殺人 捜査

まずは、死体の状況から調べよう。

床についている大量の血の状態を見て、死亡したのはつい先程だろう。十分前までは生きていたのだから当たり前だが。

胴体部分には、穴が一つ空いている。大きさを測ると、直径2.5cmだということがわかった。恐らく桑原さん殺しで使われた凶器と同じものだろう。ということは、同一犯である可能性が高い。一応部屋のドアノブを確認してみたが、毒などはついていなかった。

次に、ドアの陰に隠れている首を調べた。

切断面はギザギザしておらず、異常なほどに綺麗だった。鋸などで徐々に切断したのではなく、紙を切る裁断機のように一瞬で切断したのだろう。どんな方法をつかったのかはわからないが、鮮やかなものだ。

首は、死体から1m程離れている。もし意図的にこの場所に置いたのでないならば、犯人は首を切断する際に中世ヨーロッパや江戸時代の斬首刑のように、勢いよく切ったということだろうか。それでも一撃で切断するのは至難の業だが。

部屋の中を見渡してみたが、特に変わっているところはない。窓にも鍵がかかっている。

この桶川さんの部屋を見渡して、私はほぼ確信したことがある。

それは、犯人は私たちの中にいるということだ。

もし私たち以外の人が殺人を犯したのなら、犯人はどうやって桶川さんを殺したのだろうか。そこを考えたら、どうしても外部からの犯行だとは思えなかった。

まず、外部の犯人が正攻法でドアから入って桶川さんを殺害したとする。

だがどうやって犯人は部屋に入ればいいのだろうか。

普通に考えて、知らない人がドアを叩いて入れてくれと言っても絶対にいれないだろう。可能性があるとすれば、無言でドアを叩き、桶川さんがドアを開けたところで殺害する、というのがあるが、これはそもそも桶川さんが部屋にいるということがわかっていて初めてできる犯行だ。

外部の人間が、あのときの会話をこっそりと聞いていたとは考えられない。いくらなんでもタイミングが良すぎる。

あのときの会話を聞いていたのは、阿部さんと内田さんだ。横山さんはあの会話を聞いていないので、桶川さんがどこにいたのかは知らないはず。もしくは、横山さんが部屋に戻ったと見せかけてどこかの部屋に留まり会話を聞いていた、ということもあるかもしれないが……。

次に、窓から部屋に入るという方法がある。しかし、窓には鍵がかかっているし、窓から入ってきたのならさすがに桶川さんは気づくはずだ。少なくとも黙って殺されるはずがない。殺されそうになったら多少は抵抗するだろう。その跡がないということは、この方法も考えられないといっていいだろう。さすがに数分ほどでは、殺した後に争った跡を何の痕跡も残さずに片づけ、誰にも気づかれずに部屋から出ていくのは不可能だろう。

その他にも、気になることがある。先程の一連の流れで、引っかかるところがあった。こっちも調べる必要がある。


「とりあえず、部屋の中はこれでいいかな」


私は部屋から出て、皆に捜査結果を報告した。


「ふうん。そういえばさ、今回は密室殺人じゃないの?」


捜査結果を報告した後、横山さんが私に尋ねてきた。


「ええ。今回は鍵がかかってませんでした」

「それで、犯人はわかった?」

「いえ、まだです。なので、これから最後の調査をしようと思ってます」


私は残った三人を見渡して言った。


「最後の調査?」

「はい。私に三十分程時間をください。最後に調べたいことがあるんです」

「それで、犯人がわかるの?」

「多分、ですけど」


我ながら、自信がないのが情けない。先生ならこんな状況でも自信を持って謎を解くって言いきっているだろうけど。


「では、皆さんは部屋で待っていてください。調査が終わったら、私が皆さんの部屋の前で大声を出しますので、聞こえたら出てきてください。それ以外では、決して部屋から出ないようにお願いします」


皆に一言念押しの注意をして、私は最後の調査に向かった。

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