第12話 第一の殺人 捜査

現場に戻った私は、捜査の準備をし、まず死体の状況について調べた。

桑原さんは、腹部を滅多刺しにされており、背中まで穴が広がっていることから、貫通するまで刺されたようだ。この刺し方には犯人の憎悪がにじみ出ている気がする。穴を調べると直径およそ2.5cmほどだった。


「2.5cm……。これはもう決定的かな」


この数値を見て真っ先に思い浮かぶのが、レイピアの幅だ。先程まで仮面騎士の話しをしていたのでどうしても想像せざるを得なかった。

だからといって、本物の仮面騎士が犯人だということではない。模倣犯の可能性も十分にある。


「……やめとこ。今は犯人が誰かより、まず状況を把握しなくちゃ」


他の部分に注目すると、右手の指先が若干腐食していた。恐らく、ドアノブの毒に触れたせいで変化したのだろう。毒がどんなものなのかはよくわからないが、桑原さんは、鍵を開けようとしてドアノブに触り、その毒で倒れこみそのまま亡くなった、と考える。

ということは、この毒が死因で間違いないのだろうか。


「だとすると、腹部を刺した意味は何なのかな……?」


殺すだけなら、滅多刺しした傷からの出血で死ぬはずだ。

それなのに、わざわざドアノブに毒を塗る意味はあるのだろうか。

しばらく考えたがわからなかったので、今は深く考えないことにした。

他には大きな特徴はない。死体についてはこれくらいでいいだろう。

次に私は、ドア付近について調べた。

桑原さんは恐らく、このドアノブや鍵部分についている毒物に触れたため亡くなったのだと考える。

鍵はしっかりかかっている。これは阿部さんが開かないと証言しているので確定だ。窓も同じく鍵がかかっていた。他に入り口はない。ということは……


「これは……密室殺人か」


殺人事件を担当することが初めてなのに、密室殺人の謎まで解かなくてはならない。

果たして、私に解くことができるだろうか。


「……諦めちゃダメよ。私は、陣内先生の弟子なんだから」


気合を入れ直し、捜査を再開した。

次に、部屋の中を見て回った。窓が割れていること以外は特に変わったところはない。

箪笥やクローゼットも開けて調べてみた。中には何も入っていない。埃が凄いし、新しい蜘蛛の巣もたくさん張っているので何もしまえないからだろう。このことから、この館が無人になったときから何も入っていなかったことが窺える。

いや、正確には違うか。少し引っかかることがある。


「……」


いろいろな情報が手に入ったが、いくら探しても密室殺人の痕跡どころかどうやって犯行が行われたかの手ががりをつかむことはできなかった。


「……どうしよう」


このままで大丈夫だろうか。


「……違う。これだけ調べても何もないということは、もうこの部屋には手に入る情報はないということよ」


そうだ。これはゲームなどではない。

部屋を調べれば必ず手掛かりが出てくるというわけではない。

犯人はそこまで迂闊ではないだろう。

逆にいえば、それほど犯人の手際がいいということだが。


「とりあえず、捜査結果を皆にも伝えよう」




「……という感じです。一応写真もいくつか携帯で撮っておきました」


私は皆に捜査結果を報告した。


「……それで、犯人は誰だかわかったのかい?」


桶川さんが尋ねてくる。


「……まだ、わかりません。ですが必ず突き止めて見せます!」

「犯人は、高山くんで決まりでしょ」


突然横山さんが言いだした。


「え?」

「だってそうでしょ? 未だに出てこないということは、隠れながら私たちを一人ずつ殺そうとしてるんじゃないの?」

「それはないですよ。高山はそんなことをするやつじゃない」


桶川さんは横山さんの言葉に反論した。


「その言葉は聞き飽きたよ。大体、そんな言い草が通るなら、世の中の人間は誰も殺人なんて犯さないよ。それなのに殺人事件が起こるってことは、表面上では普通を装ってても、中身にはドス黒い狂気を孕んでいる人がいるからなのよ。結局いくら仲が良かろうが、他人の全てを知ることなんてできないのよ」


横山さんは、私たち全員を見渡して強い口調で言い切った。


「尚子? 何を言ってるの?」

「ごめんね、求実ちゃん。今の時点だと高山くんが一番怪しいけど、それでも自分以外全員が信じられないんだ。だから、私は朝になるまで部屋に閉じこもることにするよ」


そう言い捨て、横山さんは部屋に戻ってしまった。


「信じられないな。高山を疑うだけでなく、友人である阿部さんまで信じないなんて。どれだけ自己中心的なんだ」

「尚子を責めないで上げて。私は大丈夫だから。こんな状況じゃ疑心暗鬼になるのも無理ないよ」

「まあ、阿部さんが大丈夫ならそれでいいんですけどね。それより、高山はどこに行ったんだ」

「……もしかしたら、高山さんも何者かに……」


内田さんが不吉なことを言った。


「それはわからないけど、とにかく高山さんに何かがあったことだけは確かだと思います。私は館内を回って、高山さんがどこにいるのか、また犯人が潜んでいないか調べます。他の皆さんはどうしますか?」

「僕も高山を探すよ。やっぱり心配だし」

「……なら私も一緒に探します……」


桶川さんと内田さんは、私に協力してくれるようだ。


「私は……、尚子と一度話してみるよ。私以外の人とは話もしなさそうだし、このままだと雰囲気悪いしね。何より、尚子を一人にしたら危なそうだし」

「わかりました。では阿部さん、くれぐれも注意してください。桑原さんを殺した犯人はどこに潜んでいるかはわかりませんから」

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