第3話 どうして幼馴染はお弁当を作りすぎてくるの?
丘の上のタロの家。日は傾き始めていた。
「本日二度目の、ただ~いま~」
「お邪魔しま~す……って、二度目の? あんたお昼まで仕事だったはずじゃ?」
「タロ、親方におこムグッ」
「まぁ予定通りにいかないこともあるのが仕事ってもんさ! 細かいこと気にしないで、上がって上がって!」
タロはステラの口を塞ぎつつ、二人に中に入るよう促した。
リビングに入ったリリィはまずキッチンの状況を確認した。
昼間にホロのシチューを食べた容器がまだ流し台に残っている。
「あ~もう、いつも言ってるじゃん、食べたらすぐ洗いなさいってさぁ!」
「ちょっとくらい溜めても腐りゃしないって」
「これだから男はもう!」
リリィはてきぱきとお茶を入れると食器を洗い始めた。
「いや~、ちょうど晩飯はどうしようと思ってたところだったから助かったよ。いつもサンキュー、リリィ」
「だから、たまたまだってば!」
タロはバスケットのサンドイッチをつまみ始めた。ステラがその様子をジッと観察する。
「リリィのモノは、タロのモノ?」
「え?」
「タロのモノは、ステラのもの。リリィのモノがタロのモノなら、リリィのモノも、ステラのモノ?」
「ぶっ!」
洗い物をしていたリリィが噴き出した。椅子に座っているタロのもとに詰め寄ってくる。
「ちょっとタロ! いったい何なのこの子?」
「いや、これには事情があって……」
タロはリリィにことのあらましを説明した。
*
「鉱山に突然現れた、何もしらない女の子……ねぇ」
「不思議だろ」
「あんたそりゃ……地底人じゃないの?」
「ぶはっ! ははははは!」
タロは腹を抱えて笑い出した。
「ちょっと何がおかしいのよ!」
「いや、アニキと全く同じこと言うんだなと思って」
「ゲッ、サイアク……」
リリィは「うぇっ」とやるように舌を出した。
ホロとリリィは仲が悪い。犬猿の仲とでもいうのだろうか。
……犬と猫なのだが。
「ホロも言ってた……地底人って、何?」
「あぁ、いや……しょうもない話なんだけど」
「いいじゃん、タロ。この子何にも知らないんでしょ? おとぎ話ってその土地の風習とかが含まれてるものだし、そういうのもどんどん話してあげれば、この町や星の雰囲気がわかってくるかもよ?」
「そっか、それもそうだね」
タロはなるほど、と頷いた。
「じゃあ、この星……グランデに伝わるおとぎ話をしよう」
…………
………
……
…
昔々、このグランデの地上にはヒトがたくさんいました。
どれくらいたくさんかというと、アリの巣のアリ、ハチの巣のハチのように、それはもう、一面にびっしりとです。
ヒトは優れた知能と器用な手先で、様々なものを作りました。
天まで届く塔、空を飛ぶ船、自らの意志で動く人形……しかし、そんなヒトにも一つだけ、まだ到達できていない場所がありました。
それは、地の底です。
どんなに文明が発達しても、ヒトは地の底にだけは行くことができないままでした。
行けなくても困ることは特にないので、ヒトは気楽に暮らしていました。
しかし、それは間違いでした。
地の底には、虎視眈々と地上の楽園を狙う地底人たちがいたのです。
地底人たちには、2つの力がありました。
一つは、星の力”ウロボロス”。生命の循環をその身に取り込む大いなる力です。
二つは、従順な僕、”獣人”。彼らは地底人の命令に忠実に従いました。
全く気にしていなかったところに不意を打たれた地上人は、ボロボロにやられてしまいました。
そんな中、一人の勇者が立ち上がったのです。
それがエルクアーレ帝国初代皇帝の祖先であり、帝国の名にもなっているエルクアーレ様です。
エルクアーレ様は、襲い来る獣人を蹴散らし、ウロボロスを操る地底人をなぎ倒し、地底の国を滅ぼすことに成功しました。
めでたしめでたし。
「……とまぁ、こんな話さ」
タロはふぅ、と一息ついた。
(獣人や地底人と戦うくだりは本当はもっと長いんだけどね。三魔人との戦いだの、永久凍土の氷を解かす久遠の炎の入手だの。くだらないから大幅にカットしちゃった)
「どう? ステラ。何か思うところはあった?」
「……地底人は、地上の楽園を狙う。ステラも、地上の楽園を狙う?」
「い、いや……たぶん違うと思うけど」
「獣人は、地底人に従う。リリィは、ステラに従う?」
「それもたぶん、違うと思う」
「エルクアーレは、地底人を滅ぼす。エルクアーレは、ステラも滅ぼす?」
「うーん、それもないんじゃないかなぁ」
「……わからない」
どれも違う……では、今の話は一体何が言いたかったというのか。
ステラはさっぱり意味がわからないといった顔だ。
タロもちょっと難しかったかな、と苦笑した。
「……なんか、見てて心配になってくるくらい真っ白で純粋な子ね」
「だろ? ほっとけなくてさ。そだ、今晩ウチに泊まってってくれよ、リリィ」
「え……えぇえっ!?」
リリィが赤くなったり青くなったりしながら慌てふためく。
椅子に躓いたり包丁を落っことしたり大変な慌てようだ。
「ど、どした?」
「あああ、あんたが変な事言うから!」
「いや、だって俺、夜中に家出てっちゃうし……ステラを一人残していくのはとても不安というか」
「あ、あぁ……そういうことね。私はいいけど……親に一言いってこなくちゃ」
「いいの? ありがとリリィ! 助かるよォ!」
タロがニカッと笑う。純粋で屈託のない笑顔だ。
(かわええのぅ)
リリィは緩む口元を隠すように、サッと背を向けた。
「そ、それじゃ行ってくる!」
*
「クックック……見ろよ”ハイ”。タロの奴の家から、リリィが一人で出ていったぜ」
「ケッケッケ……見たぜ”エース”。民家もない夜道を一人で……危ないねェ~」
闇夜に目を光らせる怪しい二人組が、リリィの駆けていく姿を見送った。
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