第3話 突然の最中で
「化け物だ!」
「どいてっ!」
会場からなだれのように人が悲鳴を上げて出てくる
流れに逆らうのは得策ではない、走りながら一瞬考えたが迷わずドレスを脱ぎ捨てる
私は顔を出したらすぐ控えの部屋に戻るつもりでいたので、ドレスの下にはワンピースを身に付けていたのだ
身軽な格好になった私はギリギリまで花壇の中を走り、階段の近くになったところからなだれに突入する
ぶつかりながらようやく階段についたが前には進めそうにない
「チッ……」
思わず舌打ちをしてしまったが今は誰も気づかないだろう
気づかないなら好都合と思い、私は手すりにヒョイっと登りいっきにかけ上る
手すりは人ひとり歩けるぐらいのスペースはあるし、急な角度じゃないので歩くことは他愛もない
それに、これなら足を踏まれる心配もないし、誰ともぶつからない
落ちないように意識を集中しながら走っているといつの間にやらテラスに出ていた
手すりから降り会場内を見ると奥の方に逃げ遅れたのか座り込んで震えている令嬢と、白く大きい狼みたいな獣が居た
とりあえずおば様とリアノは居ないみたいだ、安堵の息を溢しながら意識を戻し獣を再び見る
獣は震え座り込んでいる令嬢には目もくれずなにかを探しているのかしきりに辺りを見回している
そして、最後に私を見て止まった
「きれい……」
獣の目は鋭くとても綺麗な金色の瞳、それに加えどこか見透かされているような不思議な感覚
私は普通の獣がもたない神々しさに釘付けになった
この時に、令嬢を見捨てるという選択肢があったのだが私は考えていなかった
後でこの令嬢には絶望させられるとも知らずに
キンッ!
静まり返っていた会場内に金属が落ちる音が響いた
音のした方を見ると令嬢が逃げようとして手に持っていた物を落としたようだった
「グルルゥゥ……」
さっきまで大人しかった獣が突然唸りだす、令嬢は顔を真っ青にしながら口をパクパクし声にならない悲鳴を上げている
咄嗟に獣と令嬢の間に入り、令嬢が落とした物をチラッと見る
そこには、銀色に輝く宝石に紐を通したネックレスみたいな物が落ちていた
これはなんだろうと思いながら獣に向き直る
獣はまだなにもしてこないがいつ飛びかかってくるかわからない、今のうちに彼女を逃がそう
「今のうちに、ゆっくり下がってください」
視界の端に彼女が一歩下がるのが見えた、私も一歩下がり様子を見る
獣はこっちを見て唸っているだけだ
刺激しないようにゆっくり一歩ずつ下がっていき、距離をとる
「ない……」
後ろを振り向くと令嬢はさっき落とした、ネックレスを置いてきたことを思い出したようだった
「あれは、私の……」
ネックレスの方を見ると獣がすでに口にくわえている
そんなことはお構い無しに令嬢は近づいていく
「あぶな……」
彼女の腕を掴もうとしたが背筋に悪寒が走った、咄嗟に伸ばしかけた右腕を左で押さえる
なに、この気持ち悪い気配は?
令嬢を見るとさっきは無かった黒い影がまとわりついていた
黒い影はしだいに形を変え彼女を覆い隠す。
突然、隣から喉を鳴らす音が聞こえた
「え?」
隣を見ると獣がこっちを見ていた
私は令嬢に意識が集中していたので獣がいつの間に私の隣に降り立ったことに気づかなかったのだ
獣は背を低くし私を見て背を見た
乗れってこと?
戸惑っていると後ろ側からおぞましい声が聞こえてくる
「ワタシノモノ……ワタシノモノ!」
振り向きたくなる衝動を抑え、いそいで獣の背に乗り首にしがみつく
それが合図のように走り出した
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