第4話「R25の光景 〜サラリーマン編〜」
ここはとある地下鉄のとある駅。
「発車時間調整のため1分停車しまぁ~す。」
とのアナウンスにメゲて空いてる席に座る。
ふと目を前にむけると、R25がゆらゆらしている。
向かいの席のオバサンがR25をゆらゆらさせている。
読む訳でもなく、半分まるめてゆらゆらさせているのだ。
しかもよく見ると2冊あるではないか。
無料とはいえ、なんかとても失礼な行為ではないか。
このヒマな状況で読むわけでもなく、
さりとてウチワにするわけでもなく、
ゆらゆらさせているのだ。しかも2冊。
「俺に一冊よこせ!」
と心の中で叫んでみたが聞こえるはずもなく、列車は動き出す。
ゆらゆら…と思ったら1冊床に落ちた。
オバサンは拾うわけでもなく目でR25を追っていた。
他の乗客も何気に意識しているが拾うわけでもない。
これは天の恵み、とおもむろに拾い上げ、オバサンの視線を避けるように
背筋を伸ばして目の前に垂直にR25を広げた。
そして次の駅。
車内の空気はかわることなく、2~3人が降りて、2~3人が乗って来た。
ふとオバサンに目を遣ると…私を凝視しているではないか。
しかし、オバサン、あんたもう一冊あるじゃない。
しかも読んでないじゃない。
だったらいいじゃない。
気にしないでそのまま読んで、次の駅。
読みふける私の視界が急に広くなった。
オバサンはR25を取り上げて、
「これ、アタシのだから!」
と捨て台詞を吐いて立ち去った。
呆然とした私は、降りるはずのその駅を乗り過ごし、
周囲の乗客の事情を知るものと知らぬものの入り交じる複雑な視線に耐え、
次の駅で降りた。
「これ、アタシのだから!」
頭の中をリフレインする。
「これ、アタシのだから!」
リフレインする。
「これ、アタシのだから!」
無料ですし、2冊もっていたし、それよりなによりオバサン。
あなた読んでなかったし。
「これ、アタシのだから!」
私は、いったい何に負けたのだろうと、ふと思った…。
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