第188話
地球のある世界の最高神、天之御中主神が双弥に一体どのような質問があるのか。突然の話に双弥は息をのむ。
「お、俺に答えられることならなんなりと……」
『噂によるとゲームに詳しいらしいな』
「えっ? あ、はい」
『えっとな……立ち回り方を知りたいのだ』
「えっ?」
天之御中主神はどうやら先ほど破壊神に言われたことを気にしていたようだ。
癒し系破壊神であり、とあるMMORPGでサーバー屈指のヒーラーとして活躍している彼女を羨み、いつもは他の神に指示を出している立場から解放され、みんなから褒められたかった。だがいざやってみると同じ補助魔法がかち合ってしまったりと上手く立ち回れず、結局敵を殴る方に行ってしまうのだ。
それを聞いた双弥は腕を組み少し考える。そして一計を案じる。
「ならばいっそのことヒーラー的なやつはやめてしまいましょう」
『だがそれでは……』
「聖騎士的なやつがいるじゃないですか。そして補助は捨てて回復することに専念しましょう。育てていませんか?」
『一応職業ごとにキャラは全部持っておる。しかしあいつ回復量少ないのでは?』
「だからいいんです。補助はヒーラーに任せて細かい回復をするんです。ちょっと減ったけど回復魔法を使うのは勿体ないくらいのやつ。それをやるだけでヒーラーの負担はかなり減らせることができますよ。それに聖騎士系は基本硬いんである程度襲われていても周囲を見る余裕があります」
『そうなのか?』
「ものは試しです。がんばって下さい」
天之御中主神は小首を傾げるがそれでも早速やってみようと消えていき、双弥は適当なアドバイスで茶を濁し過ぎたことに少し後悔する。
そして周囲は再び動き出した。
「話聞いてきたぞ」
「おぅあ、突然なんだよお前」
ジークフリートが素っ頓狂な声を上げる。双弥の叫びの途中で時間が止まっていたのだ。彼からしてみたら双弥は『は……破壊神様……は今忙しいのか。ミナカたん! ミナカた話聞いてきたぞ』と言っているように聞こえていたわけだ。
「わりぃ。ミナカたんは美しすぎて人間の脳ではその姿が処理しきれず崩壊するから気を使って時間を止めてくれるんだ」
地球には活動用の肉体、言わば劣化ミナカたんがいるため普通に歩き回り隣のおばちゃんからお菓子をもらったりできる。だがここは異界でありそれを用意できないため、時間を止めたりしなくてはならない。
「じゃあなんでお前は大丈夫なんだよ」
「愛だよ愛」
皆こいつなに言ってやがるという目で睨む。特に鷲峰は浮ついた男が大嫌いなのだ。妻一筋。夫の鑑である。
「その無節操な考えはなんとかならないのか?」
「節操の問題じゃない。女性に対しての礼儀だ」
「ほぉー解ってんねー日本人のくせに」
イタリア勇者が手を叩く。もしフィリッポがいたら盛大な舌打ちを聞けただろう。代わりに鷲峰が舌打ちする。クズどもめと。
「そんなこと言ってもお前、みこみー大好きだろ?」
「違う! みこみーは2次元だからノーカウントだ! それに崇拝すべき天使だぞ!」
鷲峰は憤慨する。2次元は別腹なのだ。いくら愛でたところで実際に現れるわけではないのだから、そこを咎めるのは筋違いである。
とはいえこの鷲峰とかいうクソ野郎、チャーチストに
「迅、お前は最大の勘違いをしている」
「なにがだ?」
「浮気ってのは『気』、つまり気持ちなんだよ。実在するしないじゃなくて気持ちがそこへ向いていたらそれは浮気なんだ」
「なっ!?」
体の関係がなくとも、気持ちが浮ついていたらそれは浮気である。逆に言えばそこに気持ちさえなければ浮気と呼べない。これは風俗へ通う夫の言い訳だが、妻からしたらそんなことどうでもいい話だ。
しかしこの屁理屈に鷲峰は動揺する。そしてすぐ開き直る。
「……だからこそ俺はチャーチにみこみーの衣装を着せようとしている。チャーチがみこみーになり融合することで完璧になるはずだ」
「てめ、そんなことしていやがったのか!?」
双弥の顔には驚愕、羨望、そして嫉妬がはっきりと浮かび上がる。ふざけるな、そんなこと許されるはずがない。だがもし許されるなら、エイカやリリパールに是非着て欲しいものがある。でもきっと断られる。なのにこの男は……悔しい、殺す。そう言いたげであった。
「チャーチが嫌がるようなことすんじゃねえよ!」
「貴様はいつからチャーチの肩をもつようになった」
「女の子の幸せは俺の幸せで、下衆の幸せは俺の不幸なんだよ!」
「誰が下衆だこのク双弥め。それにチャーチは俺が喜ぶからって嬉々として着ているんだぞ」
「
「夫婦とはそういうものだ。貴様には理解できまい」
双弥は膝と手を地につけた。夫婦とはなんて恐ろしいものなのだと。そして自分が夫婦になったとき、妻はどんな服を着てくれるのだろうと思いを馳せる。全て鷲峰の嘘だと気付かずに。
「なあ、その話長いのか?」
「す、すまない!」
苛立つように聞いてきたジークフリートに双弥らは平謝りする。脱線しすぎだ。
「んで、なんの話だっけか」
「おめーがなにかから話を聞いてきたんだろ!」
ああそうだったという双弥の態度に若干イラッとしながらもジークフリートは話を聞こうとする。
「創造神を倒してもこの星に影響はないらしい。簡単に説明すると、壺とかは作者が死んでも消えないのと同じ理屈のようだ」
「なるほど。それなら心置きなくお前を送り出せるな」
「そうだな。がんばれよ双弥」
「おめぇが頼みだ」
皆が口々に言う。双弥は全員から送られるエールに感激する。その実、全員面倒なことをひとりに押し付けようと必死である。
「ありがとうみんな。俺、がんばるよ!」
「よしこの件は解決したな。じゃあ次、帰りたい組をどうするかだ」
「それは創造神を倒してからのほうがよくないか? あれを倒した後、この世界にどんな影響があるか不明だし」
創造神を失った後、この世界から創造神から影響を受けているものが使えなくなる可能性がある。例えば聖剣は物質として存在している為、消えないと思われる。だがシンボリックは使えなくなるだろう。そう考えると異世界への門も作れない可能性が高い。
かといって破壊神のような異世界への境界を破壊して通るなんてこともできない。創造神がいなくなってしまったことでその穴が塞がらなくなり、開きっぱなしになるかもしれないことが危惧されるからだ。そうなってしまったら大変なことになるのは火を見るよりも明らかである。
「そもそもの話、神を倒さなくてもいいと思うぞ。懲らしめて改心させるような方向に持っていけば……」
「無理言うなよ」
ジークフリートの提案を双弥は蹴る。相手を格上と見た場合、加減なんて考えて戦ったら確実に負ける。殺す気でかかり、一切の迷いや躊躇を捨てた状態であった場合、生かせておけると思わないほうがいい。
ただでさえ双弥は甘ちゃんなのだ。きっと相手が降参したら戦闘状態を解除してしまうだろう。そこを狙われたら非常にまずい。殺されるくらいなら倒してしまったほうがいいという覚悟を持って戦うべき相手である。
「ならば今の破壊神の力で帰れる人数分を先に帰らせるのはどうだ」
「そりゃ数人くらいなら帰らせられるだろうけど……繋がってるの世田谷区だけだぞどうすんだ?」
「簡単な話だ。姫に任せればいい」
「えっ? アタシ別に帰る気ないよ?」
「いやそこは帰れよ。女の子なんだし」
「大体さー世田谷区って東京でしょ? 他の人らは大使館に行けばいーだろーけどさ、アタシ家長崎だよ。帰れないじゃん」
「け、警察に……」
「無理言うな」
警察ならなんとかしてくれると思っている双弥を鷲峰が止める。
確かに警察なら交通費を貸してくれるだろう。だが実はあれ、警察官の自腹なのだ。交番などに人へ貸す用の予算などない。東京から長崎まで、安くても万単位かかるのだから気軽に借りようなどと思ってはいけない。
これでもし彼女に捜索願などが出ていれば警察で保護してくれる。だが彼女の態度を見るからに、あまり家族仲はよろしくないように見受けられる。親と上手くいっているのならば、きっとすぐに帰りたいと言うだろうからだ。
「でもよぉ、帰れる方法があるってことだろ? なら俺、もうちょっとこの世界を見てみたいんだよな。外国にだって行ったことないから興味あるんだ」
「賛成! うちらが呼び出されたところは町からかなり遠かったし、折角なら遊んでからでもいいよね!」
新勇者たちが勝手なことを言い出す。
とはいえ勝手にここへ呼び出されたのだ。少しくらい遊んだっていいじゃないか。皆の意見は一致していた。
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