第180話
(おい双弥、わかってんだろうな)
(当たり前だ。見くびるなよ)
双弥と鷲峰はこそこそと他人に聞こえないような声で話す。
2人が太ももに心を揺るがされたのは確かだ。だがそんなことで我を忘れるほど愚かではない。これも作戦だ。
エロの力とは偉大なもので、魅力的な女性はそれだけで戦争の火種になることもあった。この少女も男のエロに対する執着のようなものを知っており、それを利用できると考えているのだろう。
しかし双弥たちはそれを更に逆手にとって、自分たちがそういうエロに屈するスケベな男だと思わせ、それにより操りやすい人物だと錯覚させる。
だがその実、双弥と鷲峰は自分たちを仲間までいかなくともある程度信用できると思わせたかった。利用は信用してなければできないのだから。それに女の魅力の前なら少年は素直になってしまう。
しかしこの2人に色香は通用しにくいのも事実。
鷲峰はロリコンであり妻帯者だ。太ももよりも
「そ、それで願いはなんだ? 元の世界に戻りたいとか?」
「んー? いや別にー? そんなに戻りたいってわけじゃないし」
「あれ?」
当てが外れた。どうやらみんながみんな元の世界へ帰りたいというわけではないらしい。
「するとなんだ……? 富や権力的な?」
「それに近いかなー」
それもまたわからないでもない。
文明的なものを積極的に使うこともなく、友人や家族関係が良好でなければ元の世界へ戻る必要がない。むしろこの世界でやっていったほうが幸せになれるかもしれない。
勇者のような力があれば巨万の富でも手に入る。現に双弥がそうだ。現在彼の資産はドラゴン退治だけでなくセリエミニの興行収益もあるのだ。そろそろ蓄音機を作りレコードを売り出そうとも考えており、それができれば所持金は小国の国家予算を上回るだろう。
「じゃあなにが欲しいんだ?」
「そんなの決まってんじゃん。女の子の夢、逆ハーレム!」
双弥と鷲峰はげんなりとした顔になった。
鷲峰も健全な男の子だ。モテモテになっている自分を想像くらいしたことはある。だが現実にはひとりの女性だけに愛を誓うくらい、いい意味での不器用な男なのだ。ハーレムなんてもってのほかだ。
一方双弥は今でもハーレムを求める夢追い人。だが女性には貞淑であって欲しいと思っている男女差別甚だしいクソ野郎なのだ。
「なああれどうしたらいいと思う?」
「知るか。考えるのはお前の担当だろうが」
ついでに戦闘や交渉も双弥の担当である。一方鷲峰の担当はチャーチストとイチャつくことくらいなものだ。
おおきなため息と共に双弥は少女へ顔を向ける。
「却下」
「なんで!」
少女は意外そうに驚く。叶えてもらえるとでも思っていたのだろうか。男はそこまでチョロくない。
「なんつーか、それってただ個人的な欲求じゃん」
「そうだ、ここにいるお前らの仲間全員の意思みたいなのはないのか?」
「べっつにー。ただこの人たち強いからついていけば楽しいかなーって」
完全に当てが外れた。帰りたいというわけでもないし統一意思もなされていない。
「じゃあなんで俺たちと戦うんだ?」
「はぁ? 仕掛けてきたのそっちじゃん」
それに対し双弥は、へ? と言いたげな間抜け面を晒す。
そんな馬鹿なことはない。
「い、いやいやいや! 俺は友好的にやって来たはずだぞ! いきなり撃ってきたのはきみのほうじゃないか!」
「先手必勝よ」
先手必勝を述べるのだったら、先に仕掛けたのはそちらではないか。双弥は突っ込みたくなるのをぐっと堪える。
「そ、そもそもなんで俺たちが攻撃する話になってんだ?」
「彼が言ったのよ。地球的な目印を出せばきっとそれを目指して襲ってくるって」
「てめぇかイタ公!」
双弥は倒れていたイタリア勇者の首を掴み揺さぶった。殺されかけたのだからこれくらいは仕方ない。
殺されかけた……いや違う。こちらには新幹線を出せた鷲峰と、戻るまで回復魔法を使い続けられたジャーヴィス、そして万能薬りりっぽんがあったからこそ今こうして双弥は生きていられるのだ。何れかが欠けていたら確実に死んでいた。つまり殺されていたと言っても過言ではない。
「よしもっとやれ日本人。オレが許す」
「……はっ」
カッとなり、思わず殺しそうになってしまった双弥は我に返り慌てて手を放す。それで先ほどまで喜んでいたフィリッポが舌打ちをした。
「と、とにかく俺たちの勝ちなんだから従ってもらうぞ」
「えっ!?」
双弥の言葉に驚く少女。負けたくせになにを驚いているんだという目を旧勇者一同は向ける。
「えってなんだよ」
「あなたたちはアタシのシモベじゃなかったの?」
「当たり前だ!」
「だって足見たいんでしょ」
「いや、別にいい」
もう既に散々見倒したのだ。ほぼチラ見ではあるのだが、それで満足している。
それにチャーチストは頑張ってお願いすれば見せてくれることを鷲峰は知っている。口では嫌がっていても心では許してしまういやらしい娘なのだ。
もちろん双弥にだって泣きながら土下座すればリリパンツのひとつやふたつ見せてもらえる相手がいる。誰とは言わないが、双弥の必死な願いであれば叶えてくれる。
「とにかく話を戻そう。俺たちが勝ったからには────」
「待ちぃな! それは私ぃに勝ってから言うんだね!」
双弥たちの間に入り込んできたのは、今まで黙っていたインド勇者だった。
それを見た双弥は神刀を構える。
インドにはカラリパヤットという武術があり、それはかの少林拳のベースになったとも言われているほど歴史があるのだ。
そう考えるとひょっとしたら王の師匠よりも強い可能性がある。全く油断ができない。
インド勇者がゆっくりと腕を広げる。双弥がそれに応じるかのように腰を低く落とす。
インド勇者の腕が体の前で交差して、双弥がビクッと反応する。
同じ動きを2度3度、繰り返すたび速度が上がり、動きが変わる。
顔が左右へスライドするように動き、体ごとくるりとターン。
激しい動きだ。しかもかなりリズミカルだ。まるで踊っているかのように。
……いや、実際彼は踊っている。その姿を見て双弥はキョトンとしている。
「なっ、えっ!? え、ええっと……ダンス対決……?」
「はっははー! 武器を持つだけが勝負じゃないぞぉ少年!」
「……くっ」
勝負とは世の中には星の数ほどあり、基本なんでも勝負ごとにできる。そしてなんでも賭けにできる。更に言えば賭け自体が勝負だ。
じゃんけんをするとしよう。それに対し、どちらが勝つかを賭ける。その賭けている人のどちらが多く稼ぐかを賭ける。こんな感じでエンドレスな賭けすら存在する。つまりこの世は勝負ごとで溢れているわけだ。
「おい双弥、お前踊れるのか!?」
「できるわけないだろ! そんな社交的なこと!」
双弥は格闘技に明け暮れ、鷲峰はおうちゲームマンだ。ダンスなんてせいぜいネットに上がっている踊ってみた動画の女性踊り手のスカートの動きを注視している程度の接し方しかしていない。
「なにか……なにかお遊戯的なものでいい、踊りはないか!?」
「……ち◯をもげかベリー◯ロンならお前でも踊れないか?」
「くっ……、ベリ◯メロンならかろうじて……。しかしテ○オしか見てなくて曲は覚えてない……」
「貴様もか……っ」
このクソロリコンどもは愛らしいテ○オのことしか覚えていないらしい。しかしベリー◯ロンを踊っているテ○オは天使だから致し方ない。仕方ないんだ!
「くっそ、自分が得意だからってダンスで勝負しようだなんて卑怯だろ!」
「はっははー! では剣術が得意ぃな坊やが得意ぃとしない私ぃに剣術で勝負しようだというのは卑怯じゃないと?」
「うぐっ」
完全なブーメランだ。
現代地球において剣術が得意な人間なんて一握りしかいない。それどころか戦う術すら知らぬもののほうが多い。ひょっとしたら踊れる人のほうが多いかもしれない。
「ならば勝負を決めるのはダンスでもないな。貴様、得意なのだろう?」
「はっはははー。きみたちの中に踊りぃが得意ぃな人物はいないのかねぇ?」
「ああそうだ。互いに文句の出ぬよう、得意なものがあればそれをやり、ないのであれば不得意なもの同士で勝負するのはどうだ」
ムスタファが前に出て提案し、それを双弥たちは関心する。さすが目には目を歯には歯をの国だと。意味は全く異なるが、言いたいことくらいはわかってあげたい。
「はっははー。私は知ってるぞぉ日本にはヴォン・踊りというものがあるってこぉとを。だから踊りぃは得意なはずだ」
「そんなライト◯ーバーの効果音のような踊りはない」
インド勇者はどうあっても踊りで勝負をしたいらしい。だが日本に伝統的な踊りがあるからといって誰もが踊れるわけではない。
この際、この陽気なインド人は置いておき、他の皆で話し合うべきだとした。
「戦いは仕切り直しってことでいいよな。じゃあお互いの特技、或いは苦手同士で勝負。これで文句はないはずだ」
「フン、だったら余は武術だ。相手は王、貴様だ」
「師父……いや、
まずは王とその師、江の戦いが決まった。
インド勇者はまだ踊っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます