第179話
「ははっ、日本の小僧が怒ってるぞ。これでどうだ、“嘘つきは誰だ”」
「うるぁ!」
目の前に現れた巨大な顔のあるコイン状のものを、双弥は一瞬にして切り裂いた。たった一振りしただけに見えたのだが、それはバラバラになっている。
しかも切り口は鮮やか。まるで鏡面研磨でもしたかのようだ。
「なっ」
それを見てイタリア勇者は驚愕する。あれはジークフリートを充分足止めできるだけの硬さを誇っていたのだ。それが一秒も耐えられないとは思わなかったようだ。
「このっ! ニュートーキョー!」
少女の叫びとともに、地面から巨大なものが湧き出てくる。例の巨大スカ◯ツリーだろう。
だが出て来るそばから双弥に切り刻まれている。辺りに飛び散っているのはその残骸だ。
「さあ次は誰────」
言っているそばから双弥の背中にぞくりと冷たいものが走る。気付いたときにはもう遅く、双弥の懐には王の師匠が飛び込んでいた。
「ふんっ」
「ぐぶっ」
王の師匠の発勁が双弥の脇腹を突く。しかも前回殺しきれなかったためか、今回は気を完全に練りこまれたものだ。体の内部から破壊される衝撃が双弥を襲う。
(いやこれはまずいよな……昨日までだったらやばかった)
「……なるほど」
「なっ!?」
王の師匠が驚きの表情を浮かべる。確実に決まり、手ごたえはあった。なのに今目の前にいる小僧はビンビンしているのだ。
「こういうことだったのか。ずりぃな、破壊神様。愛してんぜ」
双弥はにやりと笑った。
先日双弥も同じことを破壊神相手に行った。そして全く効かなかった。そのからくりが今、理解できた。
体の内側から破壊する技。そこに問題があったのだ。
相手は破壊神だ。破壊の力が効くわけない。
そんな神の力を得ている双弥は今、破壊力を転化させて自らの中へ力として吸収していた。
「はああぁぁ!!」
王の師匠による発勁の連打。撃ち込まれるたび双弥に激痛が走る。但し
「あの、効いてないんだけど痛いからそろそろやめてもらいたいんだ」
「ぐっ……。しかし痛みがあるということは多少なりとも効いているはずだ」
「いいや全く」
痛みとダメージは別物だ。痛みは痛覚の信号が脳に送られているだけ。それが必ずしもダメージになるわけではない。
しかもその痛みも刹那的なものだ。あとには全く残らない。
だが戦闘狂はここで諦めたりしない。王の師匠は攻撃方法を変えてきた。それに双弥は思わずガードをしてしまう。
「なるほど、そこが弱点か」
「ダメージはなくてもそこが痛いのは勘弁!」
双弥が守ったのは、股間への鋭い蹴りだった。いくら壊れることがないからといっても嫌なものは嫌なのだ。
そして中国武術で急所攻撃は基本だ。初期に習う程度の型にだってふんだんに盛り込まれている。だから急所への攻撃が得意というわけでなくとも、無理なくそこへ打ち込むことくらいできる。
「ほらどうしたどうした」
「ちょっ、や、やめっ」
執拗に体中の急所を狙う王の師匠。それを必死に捌く双弥。完全に遊ばれている。
「いい加減にせいや!」
先に切れたのは双弥だ。相手の腕を強引に跳ね上げる。
「ふんっ、隙だらけだぞ」
跳ね上げる際にできた隙間へ王の師匠が手を差し込み、またもや発勁。
「だから効かねっての!」
双弥は王の師匠の体を掴み、強引に空高くまで放り投げる。その光景を唖然とした顔で見ている敵勇者たちと王。
「なななんだお前は!?」
「元、勇者だよ」
「元……?」
その言葉に怪訝な顔をしたのは敵勇者ではなく、こちら側の勇者たちだ。どうにも腑に落ちない。
「どういうことだ双弥」
「なんか今の俺、どうやら半神半人らしいんだ」
半信半疑な鷲峰たち。半分が神ならばこの強さも納得いく。だが双弥は神っぽくはない。
「じゃあ双弥。神らしい力を見せてくれよ」
「神罰!」
双弥の言葉とともに、ジャーヴィスがぼろぞうきんになった。まるで車◯正美のマンガのキャラのように吹っ飛ぶ。そして双弥はどうだと言わんばかりにドヤ顔をする。
「今、なにをしたんだ?」
「だから神罰だよ」
口でそう言っているだけで、実際には見えないほどの速度でぶちのめしただけだ。今の双弥の動きが見えるのはアルピナとチャーチストくらいしかいない。
これは無意味な殺戮ではない。全ての責任を押し付けてきた報いなのだ。今の彼の視野は広い。
「まあ遊びはここまでとして、次は誰だ?」
「ううっ」
双弥が肩をぐるぐると回しながら前へ出る。すると後ずさる新勇者たち。
そこへもの凄い勢いで空からなにかが落ちてきた。王の師匠だ。死んではいないが万全でもない。満身創痍に近い状態だ。
「よぉおっさん。まだやるか?」
「……いや、この辺にしておこう」
最強と思われていた王の師匠が降参した。これで双弥たちの勝ちが決まったようなものだ。
「まあいいや。んじゃ俺が相手を選んでやろう。さっき俺のことキモいだとか変態だとかロリコンっつってたそこの女」
「ひぃっ」
少女が涙目になって体を退かせる。今の双弥から漂っているのは圧倒的な強者のオーラだ。その絶対恐怖を浴びせられてはまともに動くこともできない。
「まあ待て双弥」
「なんだ、庇うのか? 迅」
「全部本当のことじゃないか」
「本当のこと言われたから怒るんだろ?」
「う、ぬう」
鷲峰は退いた。しかし代わりに双弥の前に出たものがいた。イタリア勇者だ。
「勝てないことくらいわかってるが、そこの子猫ちゃんだけは許してやってくれないかな。代わりに俺をどうにでもしていいからさ」
「ふざけんな」
「うぐぇ」
双弥は一撃でイタリア勇者を裏拳で殴り飛ばした。これでしばらくは戻ってこれないだろう。
「さぁて」
更に双弥が前へ進む。少女は後ずさり、石に蹴躓いて転んでしまう。
────見えた!
双弥は目を見開いた。
「……なにか言うことは?」
「……ごちそ……ごめんなさい」
慌ててジャンパーの裾を下げ足の間を隠し、恨めしそうな目で見る少女に双弥は思わず謝ってしまった。
見えてしまったものはしょうがない。だがこれで双弥の心は持っていかれた。
「それで、あの……」
「な、なによ……」
「攻撃的なことはもうしないんで、できたら眺めさせていただけたらと……」
双弥の最低な台詞を聞き、本気でキモがる少女。だがなにかを思いついたのか、にやりと口角が上がる。
「なぁに、キミ、この中を見たいの?」
「め、滅相もござらん。えっと、足! 足だけでいいんで!」
「やめろバカ」
鷲峰が双弥をぶん殴る。暴走した変態ほど厄介なものはない。
「ってえな、なにすっだ!」
「やめろク双弥。俺たちの品位まで疑われる」
「とかいってお前だって見たいんだろ!」
「お、俺にはチャーチがいる!」
「チャーチがニーソ履いてお前に見せてくれるのか?」
「くっ……」
そりゃあ鷲峰だって見たいに決まっている。
だがチャーチストはこの世界の人間で、短いスカートなんて履かないのだ。だからニーソを履いた太ももなんて堪能させてくれない。
しかし目の前の少女はチャーチストではない。よその女の脚、他所脚なのだ。これは浮気になってしまうのか。彼の苦悩は計り知れない。
「……すまん、うちの双弥がどうしても見たいって言うから……」
「あっ、てめっ」
鷲峰は双弥を売った。というよりも双弥にだけ汚名を着せ、自分は利益だけを得ようとしているのだ。
そんな最低な男たちの争いに、少女は呆れたため息をつく。
「あのさ、あたしの頼みを叶えてくれたらいくらでも見せてあげるからさ、どう?」
「「是非!」」
まずは内容を聞けよ。
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