第178話

「よし、早朝から悪いんだが、とり急ぎ会議を行いたいと思う」

「待ってよ! 僕は昨日殺されかけたんだよ! そのことについて────」

「黙ってろ」


 双弥が暴走した翌日、みんなは一堂に会し新勇者対策会議を行うことにした。


「フン、お前が全員倒すのではなかったのか、自惚れた日本人」

「そのことについては反省する。みんなの力が必要なんだ。この町を守るためにも」


 王の嫌味に対し、正面から受け答える。

 遠くから大量にミサイルなどを打ち込まれたら、双弥ひとりでアーキ・ヴァルハラを守るのは無理だ。

 だからといって捨てておくことはできない。あの町にはエイカたちもいるし、自分の趣味に賛同してくれる仲間と呼べる人々がいるのだ。


 それについては鷲峰も同意だ。

 この町は彼にとっても大切な場所であり、たとえチャーチストがいなくとも守らなくてはならない。ここにあるのは地球での、唯一の未練なのだから。


 それに日本人だけではない。遊びのハリーを自称している彼はエンターテインメントが大好きで、もちろん日本のそれらについても熟知している。そういったものに乏しいこの世界で、この場は彼の数少ない愛すべき場所なのだ。

 あと最近アニメなどの俗っぽいものを意外と好んでいた王など。

 とにかくこの町は全力で守る必要がある。


「だったら話は簡単だ。拠点を変えればいい」

「そうはいかないんだよ」


 ジークフリートの提案に双弥は首を横に振る。


 居場所がばれたから拠点を変更する。これはよくあることだ。そのくらいあちらも気付くだろう。

 だがこれほど地球的な町はこの大陸にもうない。ハリーたちのいた大陸ならば魔王時代から魔改造され、かなり地球的になっている。だがこの大陸ではここだけだ。つまり全員がここを特別だとしていることがわかる。


 その結果、実際に拠点を移したところで双弥たちを追う必要がなくなる。この町を破壊してしまえばいい。それも派手に。

 そのとき双弥たちはこの町を守るため、のこのこと現れるだろう。そこを叩けばいい。万が一出てこなくとも、この町を破壊することは新勇者あちらにデメリットがない。

 ああ出てこなかったな。じゃあ次考えるか。この程度である。

 だからこの場所がバレた時点で双弥たちは守ることしかできない。


「だったらこちらから攻め入るのも手だな。攻撃は最大の防御と言うし」

「今この時点でそれは悪手だ」


 最重要拠点がバレてしまったのだ。ここを空けるわけにはいかない。もしすれ違いになってしまったら、この町は攻め放題になってしまう。

 旧勇者たちがいないなら攻撃する必要ないというわけではない。先ほどと同様、あぶり出すため攻撃される可能性もあるし、不在の間に破壊して動揺、あるいは怒りなど相手を挑発することもできる。

 だからといって戦力を分けるわけにはいかない。こちらのほうが強い可能性が高くとも、あちらのほうが数で上回っている。いくら力の差があってもそれが数で補える程度であるならば、分散させた時点でこちらの負けが決まる。


 もちろん双弥であれば全員をまとめて相手にできるだろう。しかし双弥だけでこの町を守ることはできないことはもう既に述べられている。かといって双弥ひとりだけで戦いに行かせるわけにもいかない。ここの防衛を旧勇者だけで行うことも難しいからだ。

 ではどうしたらいい? 簡単な話だ。ここを守っていればいい。

 というよりも、他になにもできない。歯ぎしりをしながらいつ来るかわからぬ敵を待つしか方法がないのだ。


「くそっ、なにもいい手が浮かばない!」


 双弥は頭を抱えた。待つしかできないことはわかったが、それが良い決断とも思えない。むしろ最悪な結果になる可能性が高い。


「だったら新勇者たちが僕らの側についたときのことを考えようよ」

「こっちはそんな能天気じゃいられないんだよ!」


 最悪な状況の対処さえしっかりしていれば、あとはなんとでもなる。最良の状況になればそれに越したことはないが、それは今考えることではない。

 そんなことを考えている双弥にジャーヴィスは真面目な顔を向ける。


「双弥、万全の構えというのは最悪の状況だけを考えていればいいってものじゃない。じゃあもしこちらの望む状況になったとしたらどうするんだい? そこでしどろもどろになって相手に不安感を与え、やっぱりやめたと言われたらどう責任を取るんだ? ものを考えるときは必ずバランスが必要なんだよ。双弥はいつもそれが欠けてるんだ」


 皆戦慄した。たまに発病するジャーヴィス真面目病、ジャーヴィシックに。あの王ですら言い返せないでいる。


「そ、そうだよな。今の考えで行き詰ってるんだから他のことも考えるべきだよな。ひょっとしたらそこからいい案が生まれるかもしれないし」

「そういうことだね。視野が狭くなっている目で必死に見ようとしても周りは見えてこないよ」

「ありがとよジャーヴィス、目が覚めたぜ!」


 ジャーヴィスは満足そうに頷き、周囲の皆は関心した。

 なんて鮮やかな双弥だけに考えさせたうえ責任を取らせる手段なんだと。

 そう、結局のところ彼は双弥だけに考えさせている。双弥はまだ視野が狭くなったままのようだ。


「じゃあまあ……」


 双弥が考えを言葉にしようとした瞬間、遠くのほうから爆発音が響いた。

 ただの爆発じゃない。これだけの衝撃を出せる爆発はシンボリックしかない。つまり敵襲だ。


 全員慌てて外へ出る。そして驚愕の光景を目の当たりにした。



「う、うわあぁぁっ」


 意図せず情けない声が出てしまう。それも仕方ない。なにせ今、空を無数のミサイルが覆っているのだから。

 だがそのミサイルも透明ななにかに当たり空中爆破している。爆風もこちらへは入ってこない。


「クソッ、物語じゃあビクともしないはずだったのに!」


 ハリーが苦々しく文句を言う。


「なんの話だ?」

「オレの新しいシンボリックの能力だ。純アメリカンストーリーの物体であれば出現させられんのさ」

「はぁ!?」


 最悪なチート魔法だ。夢物語を現実に引っ張り出せるというのだからほぼなんでも叶ってしまう。


「それであれはなんなんだ?」

「オレがここへ来る前に読んでいた小説で、町が透明なドームに覆われるってやつだ。名付けてキングドーム」


 物語では爆弾でもビクともしなかったらしいが、今直撃を受けているミサイルの振動はかなりのものだ。これはシンボリックによるミサイルの威力が想定を上回っていたからだろう。


「じゃ、じゃあオプ◯ィマス、オプティ◯スを召喚してくれよ!」

「あれ、元々は日本のものなんだ」


 興奮していたジャーヴィスは双弥の言葉にがっかりする。トラン◯フォーマーはタ◯ラの玩具であるため、純アメリカンとは言えないのだ。

 遊びのハリーを自称しているだけあってハリーもそれくらい当然知っている。つまり召喚できない。


「それならスー◯ーマンだ! スーパー◯ン召喚してよ!」

「生物もできねぇんだ」


 ハリーに言われ、またがっかり。そうなると意外に限られてしまう。思ったよりも不便なようだ。


「だったらなにができるんだい!? あのやたらと派手なだけの役立たずなC◯-POでも出すつもりかい!?」

「あれも舞台は宇宙だから出せねえんだよ。ああやべぇ、ドームが壊れそうだ」

「使えないね! キングドームとか言ったかい!? 作者は誰だよ! キン◯牧師かい!?」

「スティー◯ンだ! ああクソッ、仕方ない、こっちから打って出るぞ!」


 ミサイル攻撃にひと段落ついたところで、双弥たちは町の外へ出て行った。





「くっ、やっぱりこいつらか」


 双弥は顔をひきつらせた。以前会った悪の勇者、日本の少女に王の師匠、イタリア人たちがいたからだ。


「……師父」

「ぬ? 貴様、王か! 逃げたと思ったらこんな場所に隠れていたとはな!」


 前回は気付いていなかったのか、王の師匠が王を見て見下すように笑う。その身からは強者及び狂者特有の禍々しい空気を放っている。


「あれ? 日本人ふたりいんじゃん。あたし聞いてないんだけどー」


 根本が黒い、明らかに脱色している金髪ツインテールの少女が双弥と鷲峰を見て不満を垂れる。

 その少女の長いジャンパーから生える足から双弥は目を逸らせない。しかもサイハイソックス。顔を他へ向けつつもチラチラと見てしまう。

 あれははいているのかはいていないのか。それはさておき、この世界の女性は露出が少なすぎる。久々に見れる付け根近くまで露出した太ももに、双弥の気が触れてしまう。


「なにさっきから見てんのよヘンタイ」

「み、見てねーし! 自意識過剰じゃねーの!?」

「……キモっ」

「へぶぁっ」


 双弥は心に相当なダメージを負う。彼とギャル系の相性は最悪だ。

 だが双弥もこの世界で停滞していたわけではない。心だって成長しているのだ。


「うっせえ! ちょっといい脚だから見ちまっただけだろ! 文句あんなら隠せよ!」

「な、なに逆ギレしてんのよ! 意味わかんない!」


「まあそう興奮しないで、可愛いお嬢さん。怒った顔も可愛いけど、きみには笑顔が一番似合うよ」

「ちょ、えっ、やだぁ」

「……ちっ」


 双弥たちの言い合いにイタリア勇者が割り込んでくる。そしてまんざらでもない感じに照れる少女。舌打ちするフィリッポ。



「ああもう面倒くせえ! お前ら問答無用で攻撃してくんだろ! だったらやってやらぁ!」


 先ほど散々悩み考え込んでいたのになかなかまとまらなく、そんなところで攻撃してきた彼らに対して双弥は怒りをぶつけることにした。

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