第173話

「ちっ、マジでいやがんのかよ」


 まず最初に姿を現した男にフィリッポが顔をしかめる。


「まさか知り合いか?」

「知らねぇよ、あんなエスパニョルなんか」


 フィリッポはどうやらイタリア人とスペイン人が嫌いらしい。大方女性関係でもめたことがあるのだろう。

 後に続いて出てきたのはスタイルのいい金髪の女性。国籍は不明。

 そしてぞろぞろと降りてきた様々な国の男女。その中のひとりに双弥と鷲峰は目を見開いた。

 アジア系の褐色の少女だ。

 あどけないその姿に、ふたりは悶絶。そして頭を抱えだした。


 小さな女の子と敵対。ロリコンどもにはこれ以上の苦痛はないだろう。それも褐色ロリというマニアックな相手だ。


「……なあ迅」

「ぐ……なんだ双弥」

「……思ったんだが今回の勇者、的確に俺たちの弱点とかをついている気がするんだ」

「俺もそれを感じていた。これはまずいな」


 そう、まるでこちら側の勇者に嫌がらせをするためだけに集められたような人材たちなのだ。

 ヲタク系の双弥と鷲峰はギャル系の女子が苦手だ。あちら側で見かけた日本人女勇者がそうである。

 それと小さな女の子と戦うなんてできるはずがない。一方的にやられる未来しか見えない。


 更に王の師匠、イタリア人とスペイン人。ロシアはアメリカと中国にとって苦々しい相手。インドも中国と小競り合いをしているし、考えれば考えるほど面倒な相手ばかり選ばれている。



 飛行機から出てきたのは11人。残りはまだ機内にいるのか、向こうに残っているのか。

 少なくとも今現在、和ギャルと王の師匠ら、スカ◯ツリーにいた面々は見当たらない。これを好機と捉えるか、警戒すべきか。


「ふん、師父さえおらぬのならば恐るるに足りん。日本人、お得意の仲良しするつもりなら勝手にしろ」


 実際目の当たりにしたら弱気になるのではと踏んでいた双弥たちは苦笑する。だがへらへらしていられる場合でもない。危険な相手がいないというのは確定していないのだから。

 ひょっとしたらこの中に王の師匠と渡り合えるだけの実力者がいるかもしれない。再び気を引き締める。


「ねえ双弥、確か武術とかに詳しかったよね?」

「それなりにな。なんだよいきなり」

「じゃあイタリア武術とかスペイン拳法について教えてよ」

「なんでだよ」

「あの中にいるかもしれないじゃないか」

「なるほどな。んー……だけど聞いたことないな」

「なんだよ使えないね!」

「だったらイギリス武術言ってみろよごるぁ!」

「ははっ。イングランドには最強の武術、バリツがあるんだよ」

「そりゃ創作の武術じゃねえか!」


 しかも日本の武術である。

 ヨーロッパにも様々な格闘術はあるが、どれもあまり一般的ではない。メジャーなのはレスリングやボクシング、武器ならフェンシングくらいだろうか。

 他にも当然あるが、空手のほうが知られているくらいなものだ。


「じゃれあっている場合じゃないぞ。双弥、早く行け」

「えっ! また俺!?」

「お前以外に誰がいるんだ」


 今となっては最弱の勇者双弥はそれでも矢面に立たされる。立場も最弱とも言えるだろう。

 恨みがましい顔で鷲峰を見つつ、双弥は前へ出る。


 すると新勇者の面々は双弥を囲うように立ち位置を変え武器を抜こうと身構える。


「まあ待て。まずは話し合いだ」

「おいおい、あんな攻撃をしておいて話し合いとかないだろ?」


 フィリッポ曰くスペイン人らしき人物が小馬鹿にしたようなジェスチャーで答えた。


「あ、あれはちょっとした行き違いだ」


 まさかあれほどの大技だと思いもしなかったのは間違いない。だが命にかかわるほどの危険なことをやったのは確かだ。

 もちろん双弥のせいではない。誰が悪いと言えばもちろん破壊神だ。


「すげえなアジア人は行き違いで人殺しをするのかよ」

「それ知ってる! 辻斬りってやつだよね!」

「謝りゃ人を殺していいらしいぜ。てことはこいつ日本人だな?」

「てめぇら西洋人のお貴族様なんか庶民殺しても謝らねえだろ!」


 ついに双弥がキレた。相変わらず堪え性のない。

 そんな双弥を真顔で見る新勇者の面々。


「お前、なに言ってんの? そんなの大昔の話だぞ」

「日本だって同じだよ!」


 信じられないかもしれないが、日本には未だに忍者などがいると信じている外国人がいる。そして忍者がいるなら侍もいるだろうと思っていたりする。だから日本の名誉のためにもラムスプリンガなどの少年を騙してはいけない。


「まあそうカッカすんなよ双弥。ここはおれっちに任せてくれ」

「ぐっ……」


 キレる若者双弥に代わり、ジークフリートが前へ出る。


「わりぃな。あいつ堪え性がねえんだ。んで、わざわざ降りてきたってこたぁ話し合いをする気があるってこったろ?」

「一応そうだ。ちょっとばかし過激な連中は置いてきた」


 双弥たちを見るなり襲ってきた奴らだ。話し合いをしようというのならば邪魔以外のなにものでもないだろう。

 早くも内部分裂かといった具合ではあるが、人が多ければ多いほど方針というものはまとまらないものである。

 それはさておき、今の地球ではすぐ争いに持っていこうとする人間は然程多くない。相手が同じ人間、しかも同じ世界の人間であれば話し合いをしようと考えるのが自然だ。


「ちょっと過激なあ。それでこっちはひとり死にかけたからな。それで気が張ってたせいでああなったという感じで納得してくれよ」

「それは災難だったな」


 他人事のように受け返される。それも当然のことだろう。

 新勇者たちと一括りにしてはいるが、その実なんの共通点も持たないただの寄せ集めだ。仲間意識といったものもないはずだ。

 こういう場面で「申し訳ない」といたことを言うのは日本人くらいではなかろうか。


「災難っちゃ災難だけどな、それはもう解決済みだしあんたらにゃ関係ねえよな。じゃあ話を進めっか」



 とにかく話し合いができそうだ。ロリと戦うことにならなく、双弥と鷲峰は安堵した。

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