第159話
双弥は今、正座をさせられている。目の前にいるのは鷲峰とムスタファ、そしてジャーヴィスだ。
「なんで正座させられているかわかっているのか、双弥」
「えーっと、なんだ?」
「貴様が勝手に代表を語り、我々を巻き込んだからに決まっている」
「そうだよ! 双弥は代表どころかベンチにも入れず闇墜ちしたフーリガン程度なんだから!」
皆が代わる代わる双弥を責め立てる。ジャーヴィスなんて鬼の首を取ったかのようにとてもうれしそうだ。
「勝手に代表したのは悪かったよ。だけどみんないつも俺に決断を委ねるじゃないか」
「違うね! 決断しろと命令している僕のほうが立場が上ってことなんだよ!」
聖剣により強化していた肉体でさえ、破気を取り込まぬ双弥からダメージを受けていたというのに、今の一般人レベルで双弥を挑発するとはなかなかのチャレンジャーである。
「ジャーヴィスは後で好きにしていいが、決断を委ねているのはこれからなにをしようとしているか話を聞いた後だからだ。それに対して意見があるときはきちんと言っているだろ」
「そりゃそうだろうけどさ、結論を急ぐ場合だってあるだろ。あの場で決めなかったらリティが逮捕されてたかもしれないんだ」
「あのネコ耳がか? ううむ、それならば仕方ないな」
ネコ耳は正義ということで鷲峰が双弥派に寝返った。これで戦力的には五分となる。
「だが双弥、貴様はところどころで勝手に行動する節がある。なにをもって己が代表でいると言うのだ」
「そりゃ俺が破壊神の勇者で、みんなはそれの信徒ということになるからじゃないか? 直接神とコンタクトを取るのは基本的に俺なんだし」
「う、むう。それはそうだな。仕方あるまい」
地球で熱心な信者であったムスタファは、宗教の話を持ち出されたら口を閉ざすしかない。彼も今、この世界では破壊神の信者ということになっているのだから。
これで勝負は3対1。しかも相手がジャーヴィスであるためほぼ完封といってもいい。
「な、なんだよ2人とも! 双弥なんかに言いくるめられて!」
「そもそもジャーヴィス。お前はいつも場を引っ掻き回すだけじゃないか。双弥は確かに勝手なことをするが、結果的に俺たちのマイナスとなるわけではない」
「迅の言うとおりだ。貴様はこれまでどれほどのことをしてきた。双弥の功績を踏まえれば今回のこともそれほど問題とはならんだろう」
ジャーヴィスは呪いの言葉を叫びながら逃げていった。きっとフィリッポにでも愚痴ろうというのだろう。しかしフィリッポはこんなことに興味を持たない。そんなことをしている暇があったら少しでも女性との時間を大事にするため、やってきたところでドーバー海峡の向こうまで蹴り戻されてしまうだろう。
「さて、これで煩わしいのがいなくなった。本題といこうじゃないか」
鷲峰が双弥へ真剣な目を向けた。ムスタファもだ。これから重要な話し合いが行われる。
「双弥もわかっているだろ。あのネコ耳を匿うってことは、様々な国や貴族を敵に回すことになると」
「そこは金品を返却して謝罪を……」
「面子の問題だ。ああいった連中はそれを最も重視する。品物が戻り謝られただけで済むはずがない」
予告状により警備を固めていたにもかかわらず、下賤な盗賊如きに大切なものを奪われたとなればいい笑いものだ。怒りに任せて守備兵の首を刎ねた貴族がいてもおかしくはない。
「それは……そうだ、逆にしてしまえばいいんだ!」
「ほう? それはどういうことだ」
「まあそう難しいことじゃない。りりっぱさんとイコ姫に協力してもらえればなんとかなるさ」
鷲峰とムスタファは不安になりつつも、双弥の考えを聞いてみることにした。
「まさかこう上手くいくとはな」
「ああ。俺も提案してはみたものの、ここまでとはびっくりだ」
暫くしたのち、王侯貴族の間では少し話題になった。
双弥が考えた逆の発想。それは『ミッドナイトキャットのターゲットは全て超一流の相手だけである』ということにしてしまえばいい、というものだった。
盗まれた貴族たちとしても、盗まれたことで馬鹿にされるより、盗まれたことにより己の価値を高められるのならば、それに乗ったほうがいい。
そのうえ大国であるタォクォの姫であるイコが、「ミッドナイトキャットは一流しか狙わぬと聞いておる。それほどの財宝を持っておったとはおぬし、只者ではないな」みたいな感じで一目置き、相手をヨイショしていた。これは気分が悪くない。
今ではむしろミッドナイトキャットに狙われることがステータスみたいな感じになっており、自演による盗難騒ぎが起こるほどでほぼ収拾不能にまで陥っている。
「本当にありがとうございますにぃ。これからは心を入れ替え、双弥兄ぃとアルピナ姐さんのため、尽くしますにぃ」
「まあいい方向へ転がったとはいえ、無罪放免というわけじゃないからな。できるだけ他人のために働いてもらうよ」
悪事を働いたことには変わりない。だが表立って謝罪をさせるわけにはいかない。もちろん今回の件で不幸になったものがいないわけではないだろうが、だからといってリティの首を刎ねれば済むような話ではない。生きてこそ償えるのだ。
そんなわけでリティは今後、セィルインメイの実働部にて働くことになる。チョッピーは無罪のためアルピナが保護することになった。
「さて、一件落着だな。あとはジャーヴィスに制裁を加えれば終わりか」
「いいや、まだだ」
肝心なところが抜けている双弥に、鷲峰が今回の件についてまだ終わっていないことを告げる。
「なんか問題あるのか?」
「獣人は本来、国に管理されているものだろ。なのに今回関わっているのは皆、野良の獣人なんだ」
「あっ、そうか」
獣人は保護という名目の管理をされており、それ以外に獣人はいないとされている。スターリングたちの集落も、黙認しているという形で管理されているのだ。
だとすると、今回の件はややこしいことになる。いないはずのものがおり、それらが害をなすことがあるのだ。これを機に野生獣人狩りが始まることも想定しなくてはならない。
「そんなわけで、俺はリティに獣人探索の仕事をやらせるのがいいと思う」
「うーん……」
「納得いかなさそうだな」
「だってリティ弱いしなぁ」
「う、ぬぅ」
最悪でも逃げ切れるだけの力があれば問題ない。だがリティよりも速い獣人が出たらお手上げだ。
「おおそうだ」
双弥がなにか思いついたように手をぽんと叩く。なんだと言わんばかりに鷲峰が続く言葉を聞く。
「迅、お前が獣人探しをするんだ」
「ああ?」
まさかの丸投げに、鷲峰は苛立った声とともに双弥をネックハンギングツリー。慌てて双弥はタップする。
「なんで俺がやらねばならん」
「だってほら、名前が鷲だから動物っぽいし」
「……喧嘩売ってるのか?」
「じょ、ジョークだ! 迅なら空から探せるし……」
「そんな一文の得にもならんことをするつもりはない」
「金は俺が出す。チャーチと一緒に毎日飛んでるだけで金が入るんだぞ。悪くないんじゃないか?」
愛妻とデートして金がもらえる。夢のような話だ。鷲峰は渋々を装ってOKすることにした。
こうして獣人騒動には方が付きそうである。双弥はようやく一息つけた。
まさかこの町に魔王ジャーヴィスが君臨していると気付かずに。
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