第145話
「ちわーっす」
「おおっ、双弥さん、待ってました!」
「エイカさん! うちのパーティーに入ってくださいよ!」
最初の仕事を終えてから大体3カ月ほど経過したところ、双弥とエイカはホワイトナイト連中から大人気となっていた。
なにせどんな厳しい条件の依頼だろうと成功率及び生還率は100%。しかも他のホワイトナイトたちにも見ているだけで終わるような方法は取らせず、ちゃんとそれぞれに戦闘をさせ、評価もしてくれる。皆の戦力アップもでき、信頼も上がる。いいことづくめなのだ。
協会の方からも、双弥を教官として迎え入れようかという動きまでみせている。冒険者とは少し違うが、双弥は満足できるような生活を送っていた。
だがそのことをつまらなく思うアンチ双弥勢力というものも生まれる。その筆頭がジャーヴィスである。
「やあ双弥。ずいぶんと稼いでいるらしいじゃないか」
「そりゃまあ、これはこれで面白いしな。てかお前もちゃんと稼げよ」
「双弥はずるいよ! 僕だって聖剣さえあればあっという間に稼げるんだ! だからそれは双弥の力じゃない! インチキだ!」
ジャーヴィスは憤慨している。
だが大切なことを忘れている。双弥は妖刀がなくても充分にAクラスの仕事をこなせる。その証拠に今まで完了させてきた仕事のほとんどが妖刀ではなく槍か素手で行ってきたのだから。
「インチキだろうと稼いでいることには変わりないんだからいいではないか。それで食わせてもらっているのは誰だ?」
「くそっ」
ムスタファの冷たい目に、ジャーヴィスは苦虫を噛み潰したような顔をする。ちなみにムスタファは最近再び
「ムスタファだってずるいよ! 双弥、次こそ僕の番だからね!」
「それはフィリッポの許可を取ってからだな」
ジャーヴィスは情けない顔をする。イケメン度でも戦いでもお役立ち度でも、ほぼ全ての面でジャーヴィスはフィリッポに勝てないのだ。そうなると当然ジャーヴィスの聖剣は後回しになってしまう。
それでも頼むだけなら損はない。ジャーヴィスはフィリッポにお願いをしに行った。
「……ああ? 別にいいぜ」
「リアリィ!?」
フィリッポの答えには双弥たちも驚く。あのフィリッポが順番を譲ってくれるというのだ。これで話は丸くおさまる────はずだった。
まず何故フィリッポが譲ってくれるのかという話なのだが、答えは至極単純なもので、譲る代わりに養ヴィス費を寄越せという話だ。
双弥たちとしては今までと変わらず支払いをし、ジャーヴィスは聖剣が戻って嬉しく、そしてフィリッポは働かずとも金をもらえ空いた時間で女遊びができる。マイナスのない幸せな世界がそこにあった。
結局払わないといけないのかと双弥を始めとする稼ぎ組は思ったが、いつまでもジャーヴィスに言われ続けるよりもマシだと判断した。
「ねえ双弥! 次はいつ聖剣もらえるのかな!」
先ほどとは打って変わって始終ニコニコしているこのファッキンブリティッシュに、双弥はじと目を向ける。とはいえしっかりと次に破壊神が力を得られるであろう時期を計算してしまう辺り、日本人らしい。
「最近信者が増えてきてるから力が付きやすいって言ってたな。早ければあと2か月くらいじゃないか?」
「遅いよ! 2か月もあったら生まれた子供がもうタバコ吸いながら新聞読めるくらいだよ!」
英国人はどれだけ早く成長するんだと思いつつも、だったら信者でも集めていろと促す。どうせヒマなのだろうから。
こうして宣教師ジャーヴィスが誕生した。恐らく半日ももたないだろうが。
「そんなわけで双弥、ご指名だ」
どんなわけか不明だが、双弥はホワイトナイト協会の職員から指名仕事を受ける。本来ならば1年は実績を積まないと指名など得られないというのに、双弥はもうそれだけの信頼を得ていた。
「それは構わないけど、エイカも一緒でいいのかな」
「いや、双弥単独でのご指名でな」
初のソロ仕事になるわけだが、何故自分だけなのかと怪訝な顔をする。だが依頼主を聞いて納得。相手はティロル公団だった。
少女愛護団体である彼らがホワイトナイトなどという危険な仕事をしている少女に依頼するはずがない。それよりも保護者扱いの双弥がエイカにそんな仕事をさせていることについて糾弾すべき組織だ。ティロル公団は双弥にとって重要な団体だ。敵対するわけにはいかない。
大なり小なり指導をされるだろうと双弥は覚悟をしつつ、重い足取りで請け負った。
「護送、ですか?」
「ええ、あなたほどの適任はそういないので」
双弥が公団へ訪れると、待っていたのは説教ではなく至極真っ当な仕事であった。少々気の抜ける対応であったが、一応お咎めなしという方向らしい。
なにせエイカが自主的に動いているのだ。少女の自主性を重んじるというティロル公団の方針からしたら、これを危険だからと止めることにも問題がある。
それでいて今回は双弥がいないため保護者不在のエイカに仕事を回さないようちゃんと働きかけているようだ。エイカとしてはひとりでできるもんを主張するわけでなく、単に双弥と一緒にいたいという面もあるため、大人しく町で待っていることであろう。
「わかりました。それで護送対象は?」
「奴隷として売り出されそうになっていた少女たちで、我々の施設へ送ります」
ティロル公団の施設。それは奴隷になったり孤児になった少女を引き取り、勉学などを教え一人前になったところで世に送るという機関である。
風呂、トイレ、着替え、寝床などプライバシーに関わることには一切触れぬが、それ以外は危険でないようしっかりと大人が管理している。但し決して自ら進んで触れようとしてはいけない。まるで天然記念物のような扱いだ。
「双弥殿は我が公団に多大な寄付と貯蓄をしておられますし、もっと公団のことを知って頂くため施設の場所を知って欲しいというのもあります」
「りょ、了解であります! この天塩双弥、命に代えても無事護送致す所存であります!」
双弥は何故か敬礼をし、職員に怪訝な目で見られる。だがここは敬礼をする場面だ。なにもおかしくはない。
「やあみんな、双弥お兄さんだよ!」
双弥は早速少女たちのいる馬車へ向かう。だが双弥の言葉に反応する少女はおらず、皆じっと黙っていた。せめて反応くらいして欲しいと思っていた双弥は、少し寂しそうな表情を浮かべる。
ここにいるのは悪徳奴隷商人によって連れ去られた少女が多いと聞いていたが、双弥の想像以上に酷い話だった。
女奴隷は基本的に美しいほうが高く売れる。それも若いほど価値が高い。
好事家に買われるか、将来性を見越しての青田買いそされるかは不明だが、美しい女性は少女のころから美しいとされているのもある。
基本的に奴隷は孤児だったり借金のカタだったりするのだが、その中から美しい少女を見つけ出すのは難しい。
ではどうするか。答えは簡単で、拉致してしまえばいいのだ。
そして心を砕くのも単純だ。できるだけ
ここにいるのはそんな少女たちである。もちろん扱っている奴隷商とそれに繋がる仕入れを行っている盗賊たちはティロル公団によって消毒済みだ。汚物だから。
だがそういった少女はティロル公団としてもどうしていいものかと困っている。大抵はそのまま衰弱してしまうからだ。
(違う、そうじゃないんだ)
双弥は心の中で愚痴る。ティロル公団鉄の掟、少女に触れてはいけない。これに問題がある。
彼女たちに必要なのは自主性、放置じゃない。人の温かさだ。体の温もり、心の温もり、どちらも合せて接する必要があるのだ。
ならばどうするべきか。そんことわかりきっている。
双弥は公団の禁を破ることにした。今の少女のためではなく、少女の未来のために。
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