第135話

 創造神にシンボリックを奪われてから3週間ほど経過し、双弥たちは海を渡り元いた大陸へ到着していた。

 その間に破壊神から地球神おともだちを2人ほど紹介して戴き、現在は鷲峰とジークフリートに力を貸与している。


 今の鷲峰は伊弉諾神イザナギの力を宿したニュー鷲峰であり、国魔法シンボリックだけではなく時代魔法ジェネレーションも使えるようになっていた。

 シンボリックを使えるようにしてもらったのは、現代地球知識があることでその能力を最大限に使えるのと、今まで使っていたためゼロから構築する手間を省けるためだ。


 戦いにおいて最も重要なものは練功──つまり経験である。とっさの判断とは脳の混乱を招きやすい。その状態で最適なものを選ぶとしたら、勝手知ったるものになるだろう。

 そして日本人である鷲峰にとってシンボリックを扱うための神としてイザナギはこれ以上がないほどのものであった。


 ちなみにジークフリートに力を貸している神はオーディンであり、こちらもやはりシンボリックが使えるようにしてもらっている。


 あと何故この2人だけなのかという話だが、他世界の神を招き入れることは本来あまり好ましくないためだ。

 ただ友神ゆうじんとして一緒に遊ぶようなことはそれなりにあるため、極少数ならば他神に気付かれない。だが大量に通してしまうと通路を開く際に気付かれてしまう。創造神にばれぬよう呼ぶには1回で2柱が限界であった。

 あとは毎月届く神を集めてコンプリートすれば月刊破壊神の勇者たちを作ろうの完成である。


 まず最初に鷲峰とジークフリートを選んだのは、双弥を除く勇者側で最も適している人物が鷲峰だったことと、魔王側では堅物の王と遊び人ハリーのつなぎ役であるジークフリートが適任だったからだ。

 2つに分かれているのはもちろんそれぞれの大陸で活動するからだ。しかしこの件に関してジャーヴィスは最後までゴネていた。

 他のメンツはシンボリックがなくてもそれなりにやっていけるだろう。もちろん戦闘なり力の必要な仕事なりはできないが、普通の人と同様の生活はできる。しかしジャーヴィスにそれを願うのは罪というものだ。


 とはいえ力のない不安は皆一緒である。それにジャーヴィスはアセットの手前、色々と頑張っている姿勢を見せたかったというのもある。しかし今までの評価がここにきて邪魔をした。因果応報だ。



「──で、使い心地はどうなんだ?」

「ふん……、やはり自国の神だからなのか実に馴染む。それに魔力が以前と比べものにならないくらい感じるな」


 双弥たちは今、鷲峰の出した新幹線にてキルミットへ向かっていた。体に蓄積できる魔力は限られていても、濃度を上げることで今までの数倍も使用できるようになっていた。

 そのためレールを含む新幹線の出現時間は24時間ほどだ。おかげで昨日の昼に出発し、あと数時間で到着というところまできていた。


「しかし……以前も思ったのですが、これは反則ですよね」

「うん。私たちが何か月もかかって来た距離を1日って……」


 リリパールとエイカがため息混じりにつぶやく。お世辞にも楽だったと決して言えぬような旅をしていたのだ。その行程がたかだか20時間ほどで終わってしまうのだから脱力しても仕方がない。


 もちろん新幹線で丸一日が楽とは言い難い。寝台はなくシートも倒れない。ここで寝るにはかなりの創意工夫が求められる。おかげで体中がバキバキになっていた。贅沢な悩みである。


「まあいいじゃないか。これで帰りも同じように帰れって言われたらそれこそ時間がなくなっちまうし」

「そうですね。私たちは一刻も早く破壊神信仰を広げなくてはならないのですし、私も長らくキルミットを空けてしまい申し訳ないので……」


「リリパール姫、一刻も早く帰りたいところ申し訳ないが、途中でイコ姫のところに寄らせてもらいたい」


 若干そわそわしているリリパールに対し鷲峰が少々申し訳なさそうに言うと、リリパールは軽く手を口元に添える。今まさにタォクォを走っている最中だし、この速度ならば大した寄り道にはならない。


「あっ、そうですね。私もイコに会っておきたいですから」

「イコ姫……? えっと…………ああっ」


 ようやく思い出し双弥は声を上げる。


 いかほどぶりになるだろうか。タォクォの第一王女イコと最後に会ったのは魔王討伐の旅に出た日のことだ。もはや忘れていても仕方がない。


「だったらとりあえず車掌ジャーヴィスに伝えておくか」

「必要ない。あの部屋はダミーだからあいつが操作しているわけじゃないんだ」


 新幹線の運転席はとてもシンプルなため、誰にでも操作できる。だからジャーヴィスが乗るならダミーにでもしておかねばファイナルデッドトレインと化すかもしれない。


「双弥様も一応イコに挨拶したほうがよいと思いますよ。お世話になっていますし」

「うーん……。まあ世話になったっちゃあ世話になったかな」

「あと今後ホワイトナイトとして活動するのでしたら話をしておいたほうが動きやすくなると思いますよ」

「そうだな。タォクォへ行く度につっかかられても面倒だ」


 以前会っていた時期が短かったのと、それ以降の時間が長かったせいで双弥の脳内でイコ姫はクレイジーサイコレズという印象になっていた。そんなキチレズ女郎めろうにずっと思人リリパールと自分が一緒に旅をしていたことがばれたらまずい。早いところ誤解を正せねば命に関わるかもしれない。


「あのですね、りりっぱさん。もしイコ姫が俺を見た途端ブチ切れて殺しにくることがあったらフォローして欲しいんですよ」

「えっ? なんだかよくわかりませんが、イコはそんなことをしませんよ」


 リリパールは首を傾げながら答える。

 当然イコ姫はリリパールが双弥を追いかけ国を出て行ったことを把握している。しかしあの当時リリパールは双弥を敵と認識していた。つまり連鎖クレイジーサイコレズ的にイコ姫も双弥を敵視しているはずだ。


 だからまずリリパールと鷲峰が会い事情を説明した後、双弥が挨拶へ出向いたほうが無駄なやりとりをせず話を進めることができる。双弥は少し町をぶらついてから屋敷に向かう旨を二人に伝えた。


 しかし世の中とはそううまくいかないものだ。



 イコ姫の邸宅のある町の傍に突然出現した線路を見たイコ姫は、一瞬にしてこのようなものを出現させたのはシンボリックによるものであると判断し、線路脇にて到着を待ち伏せていた。段取りでは先にリリパールたちが出向くはずだったため予定が狂う。

 だがこれはただ屋敷まで行く手順を端折っただけであり、手筈通り鷲峰とリリパールが先に降りて話をすればいいだけだ。



 兵士たちが見守るなか、ゆっくりと停止する列車。そして開いた扉から降りてきたリリパールを見て飛びつくイコ姫。寂しかったのだろうと思っていたが、そういうわけではなさそうだ。彼女の表情には焦りや困惑などが浮かんでいた。


「ね、姉様! 姉様!」

「どうしたのですかイコ。何か慌ててますけど」


何を伝えようかと口をパクパクさせるイコ姫を落ち着かせる。

大きく息を吸い、全て吐く。何度か繰り返したところでようやく呼吸が整う。


 そしてイコ姫の口から出た言葉に、皆は驚愕した。



「た、大変じゃ! キルミットが襲われておる! 戦争じゃぞ!」

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