第131話
「神の力か……」
なにやら思うところがあるらしく、ムスタファがぽつりと呟く。
地球には神があふれんばかりにおり、どんな神がどこにいるかなんて把握できている人はほとんどいない。
信仰に関して言えば、世界三大宗教というものがある。しかし仏教以外の2つに関しては、ベースがユダヤ教であり崇めている神は同一とされている。
つまりジャーヴィス、フィリッポ、ムスタファ、ハリー、ジークフリートの5人は同一神の信仰であり、力を借りられるとしたら1人だけになってしまう。
もちろん力を分配させることはできる。だがそれで負けたのが創造神の力だ。次になにをしてくるかわからぬが、1人1神がいいだろう。
「だったらオレはローマ神でもいいぜ。当時のローマ帝国にフランス地域も含まれてたからな」
「ははっ、それを言ったらイングランドやドイツ、UAEだってローマ帝国だったさ」
全ての道はローマに通ずと言われるほど、古代ローマ帝国は巨大かつ強大であった。実際の支配範囲は歴史的に見てそれほど広くはないのだが、当時の文明レベルを考えれば驚異的である。
ちなみに歴史上最大勢力は第一次世界大戦終結直後のイギリス帝国だ。ジャーヴィス大喜び。
「だがそれは流石に選べないだろう。相手が神であるのだからな」
ムスタファの意見はごもっともで、信仰する神を選ぶならまだしも、力を貸してくれるという神を選ぶとは何様のつもりだという話だ。
あくまでも自分たちはただの人間風情であるということを忘れてはならない。
とはいえ日本では人間が死後、神になるケースもある。悪霊となった魂を鎮めるためや、偉業を残した人物を祀ったり。
前者で有名なのは藤原道真、後者は徳川家康といった感じだ。
「それよりも今、重要なことに気付いてしまったんだが……」
「さすが迅だな」
「……まだなにも言ってないぞ」
「まあいいじゃないか。それでなんだ?」
鷲峰は、チッと双弥に舌打ちをし、それで気付いたとんでもないことを話した。
もし神が直接手を下せないのなら、どうするつもりなのか。
答えは簡単だ。人間を使い代理戦争を起こすのだ。
そして創造神が人間に与える力は、まず確実にシンボリックであろうと推測できる。するとその力を行使するのは、この世界の人間ではない。つまり……。
「……あいつ、また俺たちの世界から引き抜いてくるつもりなのか……」
「そうとも限らん。別の異世界から呼び出す可能性もある。地球よりも進んだ文明を持つところからな」
前者も後者もどちらがマシというものがなく、違う方向で最悪である。
もし地球よりも文明が発達している相手だったとするならば、かなり不利となる。いや、シンボリックの特性上勝ち目がないとも言える。
シンボリックは兵器も出現させられる。そして文明レベルとはそのまま兵器のレベルとも言えるからだ。
例えば過去の兵器と現代兵器。どれほど大和が強大だろうが、P51ムスタングが優秀だろうが、列車砲ドーラが強力だろうが、遥か遠くからミサイルを大量に撃ち込まれればあっという間に終わってしまう。兵器レベルの差は覆せない。
つまりハリーがシンボリックを使えたとしても赤子の手……それどころか猫に襲われるハムスターくらいにしかならないかもしれない。
そして地球からまた呼び出した場合、文明レベルでは同等と言えるが、果たして戦えるかが問題だ。
双弥たちはなるべく殺人をしたくない。特に同じ地球人ならば余計に。だからこそ魔王も生きたままここにいるのだ。もしこれで軍人とかを呼ばれたら太刀打ちできない。
軍人だからといって全員が人を殺すことに抵抗がないわけではないだろう。しかしそれで軍人が務まるほど世の中やさしくない。一瞬の判断ミスが命取りになるため、彼らは躊躇なく引き金を引く。
双弥たちも今まで散々殺生を行ってきたが、勇者らは殺人を犯していない。それに行った殺生は必要だったからだ。
動物を殺した。その肉は食べた。生きるために。
魔物を殺した。奴らは人に害をなす。やらねばやられていた。
人に害をなすという理由で魔物を殺すのは正しいのかと問われたら、そうだとしか言えない。
動物も人に害をなす場合がある。しかしそれはあくまでも『場合がある』だけだ。彼らは決して進んで人に害をなそうとしているわけではない。
だが魔物は人に害をなすために創造神から創られた存在だ。つまり人に害をなさぬ魔物はいない。
魔物に襲われるという恐怖が信仰を強める。そのためにできるだけ恐ろしく創造された。だから決して人間と相容れない。
同じ生き物だと思ってはいけない。情を持ち接してはならない。それがこの世界の魔物だ。
ちなみに獣人は魔物のカテゴリではない。故にアルピナはレジェンドオブラブリーであり天使である。
「チッ、どちらにせよオレらが帰るわけにはいかねぇってことだな」
「結局お前は帰りたいのか帰りたくないのかわからぬのだが」
「帰りてぇに決まってんだろ。パリだぜ? ……つっても帰ったところで居場所があるか。それは重要なことだろが」
フィリッポはずっと葛藤していた。
帰りたい気持ちはある。だがもう既に1年近く経過しているのだ。
しかしまだ1年だ。なんとかなる可能性はある。だが今戻るわけにはいかない。
いつ創造神が行動を起こすかわからない。しかもなにをしてくるかもわからない。もし魔物を差し向けてきたら、パリが火の海に包まれる可能性がある。
それをフィリッポが許せるはずがない。だからここで迎い撃つしかないのだ。
ふぃりっぱさんはパリをこよなく愛す男である。
「そんなところで! 私! 登場!」
「うおぁっ!」
突然エイカが両手を挙げて叫ぶ。双弥は一瞬驚いたがなんてことはない、破壊神だ。
「おまっ、さっき戻ったばかりじゃないか」
「取り急ぎの用があったもので。私の勇者たちにはかなり有益な情報なはずですわ」
「ほう?」
「
「1年後?」
「ええ。現在創造神側にいますが、快く思っていない神がこっそり教えて下さいました」
「なるほど」
「なのでこの1年、貴方がたは戦う術を身に付けてください。あとできれば私の信者も……」
「わかってるって。そっちは任せてくれ」
双弥は手で払うように破壊神を追い返す。
創造神は1年の間、じっくりと信力を上げるらしい。
期日がわかれば動きやすくなる。双弥たちはそれまでどれほどそれを削り取れるか。破壊神VS創造神の戦いが本格的に始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます