第130話
「そりゃあ人なんだからいつかは死ぬさ」
ジャーヴィスはおどけた感じで言っているが、多分彼にもわかっているはずだ。創造神が自分たちを殺しにくることを。その証拠に足が震えている。
それがいつなのか。3日後なのか、1年後なのかはわからない。だが今のシンボリックのない勇者たちなんて創造神からすれば簡単に捻れる。今すぐ殺さないのはきっと怯え恐怖させるためだ。なかなか陰湿である。
「……さて、どうするか……」
「どうするかじゃないよ! 僕らはさっさと地球に帰らせてもらうからね! 後のことは任せるよ!」
この危険な状況で強がりをやめたジャーヴィスは双弥たちを見捨てる決断をした。
だがこの決断は正しく、文句を言いようがない。何故なら今、彼は聖剣を失いただの一般人と化しているのだから。
これでもし逆にここへ残るなんて言われても邪魔にしかならない。
「アセットはどうするんだよ」
「当然一緒にだよ! 当たり前じゃないか!」
この2ヶ月ほどのうちにジャーヴィスはきちんと答えを出しており、アセットと婚約をしていたらしい。
それに以前からジャーヴィスはアセットに英語を教えており、自動翻訳のせいでちゃんと会話ができるかわからぬが、読み書きだけはそれなりにできるようになっている。引越し準備はばっちりだ。
そうなると危険なのは鷲峰だ。今までの戦いはシンボリックに頼るものばかりだったため、生身で戦えばエイカよりも弱い。そんな状態でチャーチストを守れるとは思えない。
「とりあえず一時的に地球へ避難させるってのはどうだ? んでほとぼりが冷めたころに戻るとか」
「それも手だな。さすがにあっちまでは手を出せないだろうし……」
「貴様らはアホか」
双弥と鷲峰の話を王が切り捨てる。最悪な状況で取れる手段としてこれもひとつの案だと思っていたのだが、どうやらそうではないらしい。
「どういうことだ」
「我らが何故ここにいるか考えてみろ」
そう言われ、2人は渋い顔をする。
双弥は別口としても、他の勇者と魔王は創造神の力でこの世界へ連れてこられたのだ。つまりある程度の干渉ができるということになる。
ようするに地球へ逃げても助かったとは言えないのだ。
「でもさ、これ以上なにかしたら地球にいる神が黙ってないんじゃないか?」
「そうだよ! 僕は地球に戻ったらちゃんとミサにも行くし、イースターやクリスマスにも参加するよ!」
「私も更に信仰を深めよう」
「貴様らの神がなにかをしてくれるとは到底思えんが」
中国は日本同様に無宗教の人が多い。そのため神にすがるという発想に疑問を抱く。
地球の神は放任主義なため、どれだけの犠牲があろうともなにかをしてくれることはない。例え異世界と直結して魔物が溢れ出したとしても……いや、ここまでやられたらさすがになんとかするだろうが、基本的に人間界はノータッチである。
「じゃあどうしろっていうんだ! 僕らはただの人間なんだよ! 神様と戦えるはずがないじゃないか!」
そう、神はどんな低神だろうと人間如きが敵う相手ではない。以前リリパールの魔法能力が飛躍的に上がったのだって、彼女が何年も努力しても届かぬレベルまで容易く引き上げるだけの力があってのことだ。
「……仕方ありませんね、私の勇者よ。その元ハゲの勇者改め
もはや元創造神の勇者どころか一般人呼ばわりだ。現在は己の信者となっていてもそうそう溝は埋まらないのだろう。
「俺たちも破壊神の勇者になるということか?」
「いえ、私が与えるのではありませんよ」
「じゃ、じゃあ誰が……?」
「地球の神です」
これには双弥も唖然とする。前述の通り、地球の神は完全放任主義だ。神同士で話し合いをしたところで何かをしてくれるような気はしない。
そんな双弥の考えを見通している破壊神はにやりと笑う。
「私がただ地球で遊んでたとお思いですか? 私はいざというときのため、あなたがたの神と親交を深めていたのですわ」
「そうだったのか!?」
「ええ。
ただ地球で遊んでいただけである。そのときたまたま知り合った地球の神と仲良くなっただけの話だ。ものは言いよう、結果よければなんでもありである。
「俺は早いところ力が欲しい。つ、妻を守らねばならないからな」
妻という言葉にまだ照れがあるらしいが、鷲峰はチャーチストを守るという信念があるのを感じられた。双弥はリア充めと思いつつもそんな彼を羨ましく思っている。
「あなたは確か、私の勇者と同じ日本人ですわよね」
「ああそうだ」
「でしたら丁度いい
「いやそれはどうでもいい。その神の名は?」
「
その名を聞いた途端、鷲峰は盛大に噴出した。
「し、知っているのか? 迅」
「ばっ、おま……。日本人なら知っておけよ」
双弥も中学生時代に古事記や日本書紀を購入していた。だがかっこつけすぎ、高価な影印版を入手してしまったため読解できず放置されていた。
部屋に置いてあるだけで凄いと思われるであろうと期待もしていたが、結局誰にも気付かれなかったのは伏せておこう。
「三柱──日本神話の神で最も位の高い神だ」
宇宙の中心にいると言われる、地球どころか宇宙そのものを創った神。この期に及んで最上級のチート神を呼んできたものである。
「どうです? その力が貴方に宿ればきっと凄い力が……」
「い、いやいやいや、そこまでの力はさすがに俺が崩壊しかねん」
「あらそうですか? 私の勇者以外は脆いのですわね」
破壊神の言葉に、こいつなにもわかってねぇといった顔を向ける鷲峰。双弥も人の子であり、宇宙規模のパワーなんて吐息程度でも入れたら一瞬で魂までもが分解してしまう。
試しに入れてみるといい。双弥の体なんかスライムどころか水信玄餅になってしまうだろう。破気でどうこうできるレベルではない。
「てかそれだけの神に力を借りられるなら、直接本神になんとかしてもらったほうがいいんじゃ……」
「そう言うと思いましたわ。だけど残念、他世界の神に対して神が直接関与してはいけないという絶対不変の掟があるのですよ」
異世界神戦争を起こさぬための定めであり、特例だろうと認めてはならない。
「そのために
架装顕現それは直接争うことのできない神々が考案した神の力を与えた装備のことでこれにより人間を使役し代理戦争を行うのだ。
人間なんて神からすれば所詮チェス盤の駒であり、それが自分で動かすか勝手に動くかの違いでしかないということか。
「なるほど……。ということは私らが持っていた聖剣もまた架装顕現ということだな」
「まあ似たようなものですわね。ただとても粗雑なものなのでおならとウ◯チくらいの違いはありますが」
「大してかわんねぇじゃねえか!」
「おやおや私の勇者はおならかと思って出てきたウ◯チの恐ろしさがわかっていないようですわね」
「だからエイカの体でそういうこと言うのやめろよなあぁぁ!」
未だ
それと同時に、恐怖を理解できるものは体験したもののみであると知っている双弥は……いや、これ以上はやめておこう。
「それじゃあ貴方たちに見合う神にでも話をしておきますわ。それまでご機嫌よう、私の勇者たち……」
こうして双弥たちは神々の代理戦争へ巻き込まれることとなった。
そしてやっと枯れ果てて死にそうになっているハリーとジークフリートのことを皆が思い出した。
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