第129話
ブーィ ブイ ブーィ ブイ
──テーレッテッテ テッテレーテ テレテレッテーテ テッテレーテ
2ヶ月後、そこには見事結果にコミットできた2人の姿があった。それぞれが思い思いのポーズをとり、仕上がった筋肉を披露している。実にむさ苦しい。
ひとしきりマッスルボディを堪能した2人は互いに背中のガムテープ的なものを剥がしあい、皮余りのたるたるボディを晒した。
2ヶ月で脂肪を絞るのは大して難しいことではない。だが広がった皮だけはどうにもならない。あれをなんとかするには半年以上掛かるのだ。
「ふん、だから普段から功を積めと言っていたのだ」
王がダラシナーズを見ながら悪態をつく。ちなみに王は流石ともいえよう、もう既に元の体へと戻っていた。もちろん創造神の力は除去済みである。
「まあ、これでやっとスタートだからな。これから創造神の力を抜かないといけないんだし」
「えーマジであれやるのかよぉ」
「折角男前ボディになってっつーのになぁ」
ブルドッグの顔のように皮が余りまくった腹や腕で男前と言われても困る。それとも双弥たちの知っている男前と米国の男前では基準が違うのだろうか。
「やんなきゃ地球に帰れないぞ。それともあっちでミイラになるか?」
「そりゃあ勘弁」
「なるべくそっと吸い取ってくれよ。おおそうだ、ついでに皮も取れねぇかな」
そんなくだらないジョークが言えるほど余裕のある中、突然エイカが走ってきた。
「どうしたんだ? エイカ」
「どうしたじゃないわよ! 私の勇者!」
双弥はその言葉に驚く。何故今、このタイミングで破壊神がここにいるのか。
「信力あまり使うのもよくないだろ。もうじき魔王らの準備が整うんだし……」
「そんなこと言っていられる場合じゃありませんよ! 緊急事態ですわ!」
魔王も倒したことだし、これ以上の緊急などないだろう。せいぜい今やっているMMOでボス攻略の人数が足りないとかそんな程度だと双弥は思っていた。
「わかったわかった。落ち着いて話せ」
「実は……
その言葉に双弥はおろか、その場にいた全員が固まってしまう。
「そ……えっ? そ、それって……」
「おこよ! 激おこよ! あれだけブチ切れていたら何をしだすかわかったものじゃないですわ!」
「マジかよ……」
ここ2ヶ月ほど、鷲峰たちは精力的に破壊神信仰を広めていった。
創造神が呼び出した勇者直々の言葉には説得力があり、創造神への信頼や信仰心は失墜し、破壊神へ鞍替えするものが増えつつあった。
しかしそれが災いだった。急に落ちた信力に気付かぬほど創造神はアホではなかったのだ。
更なる信仰心を煽るため行っていた魔王と勇者の召喚。だが結果は下がってしまっている。どう考えてもこれはおかしい。
創造神は知らなかったのだ。地球が500年でどれだけ文明文化を発展させたのかを。
この世界は魔法という便利なものがあるため、文明が停滞していた。
戦争が文明の発達を加速させるとはよくいったもので、地球の文明は戦争──兵器によるものが大きい。
だがこの世界では戦争自体が滅多にない。理由は魔物の存在だ。
魔王がいなくとも魔物は昔からおり、たまに人里を襲ったりする。戦争をやっているせいで兵がそちらに回らず町が滅んだとあってはいけない。
ならば魔物と戦うために文明が発達するか? それはない。何故ならばそれらを撃退するには魔法があれば充分だからだ。
そうなると必要なのは戦略であり、武器ではない。これでは文明が停滞していても仕方がない。
だから創造神は想像すらしていなかった。地球がこれほどにも文明が進んでいたことに。
そして進んだ文明は人々の生活を豊かにする。豊かになった生活は、人々に様々な知識や思考を与えた。
この世界のとある農村で話をしてみるとする。今の生活をどう思うか。
すると彼はこう答える。税の取立てが厳しく、生活が辛い。領主はなにをやっているんだと。
不平不満は言う。しかし具体的にどうすれば改善するかという考えには至らない。これが文明──教養の差だ。
以前の勇者たちもそのような思考に辿り着かなかっただろう。ただ勇者として人々を苦しめる魔王を倒す。それだけだ。
しかし今の勇者と魔王は現状を理解し、思考を巡らせ良し悪しを見極め、自分が本当はなにをすべきか導き出せる。あの当時とはなにもかもが違う。
つまり創造神が短絡的なただのまぬけだったということだ。今更事態を把握し、焦り怒ったところでもう遅い。
ただ、今の問題はその先にある。己の失態に目を向けず怒りを露にしている神がどう動くかだ。
「ど、どどどどうするんだい!?」
「わからん! しかしまずいことになるのは確かだ!」
この場にいる全員が動揺を隠せないでいる。創造神信仰はこの世界で最も多い。つまり信力が高く、一番敵に回してはいけない相手である。こっそりやっていればよかったものを、そのことを忘れて最近派手にやりすぎたようだ。
『許さんぞ貴様らああぁぁぁ!』
突然の叫びに皆は声のする方を向く。するとそこには人の形をした岩があった。
「ゴ、ゴーレム!?」
思わず双弥が口にする。
しかしそれはゴーレムよりも人に近く、動くギリシャ彫刻のようなハゲジジイであった。
「げっ、創造神!」
破壊神がやばそうな顔でその岩を見る。
そう、そこにあるのは双弥と勇者たちが初めて目にする創造神の姿だ。
『貴様ら揃いも揃ってワシの
創造神が乗り移った岩が勇者たちを見渡しながら怒鳴り散らす。
「破壊神、神行ってなんだ?」
「そのままの意味で、神の行いのことですよ。主に信徒や信仰を集めるために行使しますわ」
信者集め必死だな。ふとそんな言葉が頭に過る。しかしこれはニコ◯コ生放送などとは違い、直接己の力になるため必死になるのもわからんでもない。
「お前が勝手に俺たちを巻き込んだだけだろ、創造神!」
柄にもなく鷲峰が熱く叫ぶ。思い通りにいかなくて怒る創造神と、無理やりこんな世界へ連れてこられ、戦いを強いられたものとでは怒りの勢いが違う。
だが少なくとも鷲峰は少しくらい感謝の気持ちがあってもいいだろう。なにせ最愛の人物と出会えたのだから。爆ぜればいいのに。
『貴様らはもう用済みだ! その力、返してもらうぞ!』
創造神の姿をした岩────創造岩が手を振りかざす。すると皆の聖剣、エクスカリバーが、天叢雲が、ズルフィカルが、そしてデュランダルが消失した。
「ぐっ……があああぁぁぁっ」
「ぎぎぎ……ぐぎいいぃぃっ」
そして体から力が奪われ、大量の汗を噴出し膝をつき、倒れ、のたうちまわる。
『ずわっはっはぁ! ワシに逆らった愚かな人間どもめ! 後悔しても……あれ……』
創造岩は愉快げな笑いをした直後、情けない顔をした。今苦しんでいるのが2人だけだったからだ。
その2人はハリーとジークフリート。まだ結果にコミットしただけで創造神の力を抜いていなかったせいである。
「貴様の考えなどお見通しだ、悪魔め!」
ムスタファがざまみろといった顔で創造岩を見下す。彼にとって自分が認めた神以外は全て悪魔なのだが、この言葉に創造岩の怒りに火がついてしまった。
創造神として君臨し、数多くの信徒をもつ神が悪魔呼ばわりされる。神としてのプライドが許すはずないのだ。
『おおおぉぉのおおぉぉれええぇぇぇ!!』
今まで上に立ってきたため、本気で怒ることなどなかったのだろう。力が入りすぎて変顔の限度を越えてしまっている。
だがその直後、急に心がストンと落ちたような、しょぼくれたジジイの普通顔になってしまった。
『…………ワシ、帰る』
突然の言葉に、双弥たちは拍子抜けてしまう。
創造岩の最後の言葉を聞くまでは。
『あ、貴様ら全員死ぬの決定したから。せいぜい悔やんで余生を過ごせばいい』
岩は崩れ、砂となり、さらさらと風に舞っていった。
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