第126話

「双弥、世◯谷区に大きな公園とかないか?」

「んーっと、破壊神が俺の家周辺に生息しているとして、一応近所にあるけど……」


 やはり横方向から一気に抜けるほうが安全と考えたらしい鷲峰が訊ねてくる。DDNPが再び使えるまで数日は要するだろうが、今まで使っていた時間を考えれば大したことはないはずだ。


「焦らず考えればきっといいアイデアが浮かぶよ! それよりも帰れるって決まったんだし、せっかくだからこの世界を楽しもう!」

「そうだな。いつでも帰れるってわかりゃあ今すぐ帰るのがもったいなく感じるぜ」


 ジャーヴィスの提案に、遊びのハリーも乗ってくる。この世界にはまだハリーの知らない遊びがあるかもしれないのだ。

 それにまだすぐ帰るわけにはいかない理由もあった。


「我々も戻る前に準備しなくてはな。最近ずっと聖剣を傍に置いたままであったし、体を慣らさなくてはならん」


 ムスタファの言葉に、勇者3人はそういえばといった感じで思い出す。

 聖剣で無理やり肉体を強化させているため、失うと大きな反動が返ってくる。これは今まで何度か味わってきているため、放っておくことはできないでいる。

 互いが聖剣を見合っているところで、ふと魔王らがそういったものを持っていないことに気付く。


「そういや魔王側って何を装備してるんだ?」

「装備? おれっちたちゃあ何も持ってないぜ」


 ジークフリートの回答に、双弥は首を傾げる。

 魔王は勇者と同様に肉体強化されている。これは破気により強化した双弥が王と戦ったとき、肉体が強化されているのを肌で感じていたため間違いではない。

 それに以前ハリーが離脱した際はICBMに乗っていた。生身の人間にそれは不可能だろう。


 そこまでわかったところで厄介な問題が発生する。では彼らが地球に戻ったら、一体その肉体はどうなってしまうのだろうかと。


 話によると魔王らは双弥たちよりも2年は前からこの世界にいる。そして装備がないということは常に強化状態であり、切り離すことがなかったのだろう。

 となると…………彼らは地球へ戻った途端、反動で死ぬ可能性が高い。


 双弥は焦る。とんでもないことに気付いてしまったと。


 『元の世界に戻れるよ! 但し戻った瞬間死ぬけどな!』


 ……言えるはずがない。

 そして双弥はなんとも言いがたいほどの痛みが頭に走っているのに気付いた。苦悩性頭痛だ。


 折角生かしたまま倒し、そして生きて元の世界へ送り届けるはずだったのに、ここで壁にぶち当たってしまう。

 説明すべきか否か。

 もしこの世界に留まるとする。しかし魔王は大量虐殺を行わなければ死んでしまう。それはこの世界で暮らしてはいけないということになる。

 だからといってこの場で殺してしまうか。それも今更できることではない。


 ならば黙って送り届け、生きていようがいまいが関係ないといったスタンスを取るか。だけどそれができるほど双弥は薄情ではない。なにせあのジャーヴィスが事情を理解して尚、相手を挑発せずに難しい顔をしているほどの事態なのだから。


 こうなるともはや話が進まない。双弥は4人を捕まえ緊急勇者会議を始めることにした。


「なあ、どうしたらいいと思う?」

「どうって、どう?」

「真実を伝えるべきかどうかって話だよ」


 そこで暫しの沈黙。ジャーヴィスどころかフィリッポまでもが苦虫を噛み潰したような顔をする。このことに関するいい回答が見当たらないのだ。


 と、そのときとんでもない最凶最悪な爆弾が考えもしない方角から投げ込まれた。


「私は────、いや、私の考えはどうやら偏っているとこの旅でよくわかった。だからここは双弥、お前の判断に任せる」

「そ、そうだね! 僕も双弥の決めたことなら納得するよ! 誓うよ!」

「オレはお前が気に入らねぇが、こういうときの決定力は認めてんだ。頼んだぞ」

「──だそうだ。俺もみんなと同じ考えだ」


 ムスタファを皮切りに、全員が双弥へ投げつけてくる。


 死刑執行時、複数ボタンがありそれぞれひとりずつ押す係がいて、誰が執行したかわからなくすることで殺人の意識を和らげるという。

 今、双弥の目の前に全てのボタンが集まっている。全員に押し付けられ、ひとりで押せと迫られているのだ。


「だ、だからさ! そうやってなんでも俺にやらせようとしないでくれよ!」

「それは違う」


 双弥の必死の抵抗を鷲峰はばっさりと切り捨てる。そして正面から双弥に目を合わせ、ガシッと肩を掴む。


「いいか双弥。お前は全員で話し合って決めたいと思っている。違うか?」

「そ、そうだけど……」

「話し合いというのは互いの意見を持ち寄り言い合うものだと俺は思う。どうだ?」

「そりゃまあ、そうだろうな」

「ということは、お前にも意見がある。そうでないと話し合いは成り立たないからな」

「う、うん。まあ……」

「ならばそれを言えばいいだけの話だ。それにみんな従うと言っている。なにも問題はない」

「え? いや、その……」


 鷲峰の屁理屈に双弥はうまい返しができなかった。

 話し合いとは互いの意見を比べ、自分の意見の良いところ悪いところ、相手の意見の良いところ悪いところを見つけ出し、修正、改善、妥協するためのものだ。

 しかしここにいるのは5人中4人がイエスマン。登山者が叫ぶのを待つやまびこでしかない。


 そしてもし双弥の選択が間違っていたとする。それでもきっと4人は責めることはしないだろう。押し付けたのだから当然なのだが、きっと双弥がぶち切れるのを考慮している。

 だがそれはそうとしても己の判断ミスにより最悪な結果となったとわかれば、双弥は果たして自分のことを許せるだろうか。恐らくそれはできない。


 もし事情を話すならば早めがいい。それに幸か不幸かもう魔王城はない。だからハリーたちの魔力が回復することはないだろう。勇者側が回復すれば彼らに勝ち目はなくなる。つまり再び戦闘になるとは思えない。

 無力な相手に圧力をかけるのは気分悪いが、最終手段としてそれもやむないだろう。


「……とりあえず町に行こう。一度横になって考えたい……」


 もう全てに疲れた双弥は、宿へ戻ることにした。





「3人に、その……話がある」


 鷲峰が苦々しい顔でハリーたちに話しかけたのは、町に戻って2日が経過したころだった。場所は町外れの丘で、隣に立つムスタファも嫌そうな顔をしている。

 そして時折少し離れたところに立つ双弥へ恨めしそうな目を向ける。しかし双弥は目を逸らす。この状況は自らが招いた災いとでも言えるだろう。


 彼らは言ったのだ。全て双弥の決定に従うと。

 だから双弥は決定した。鷲峰とムスタファが3人に伝えることを。


 話の内容はとてもデリケートなため、悪の勇者に任せることはできない。そして言い出したムスタファに説得をした鷲峰、この2人への制裁の意味もある。

 それでも任せっきりにせずちゃんと傍にいる分双弥はマシだと思われる。ジャーヴィスとフィリッポはいざというときのために、エイカたちと少し離れた場所から見守っている。


「それでなんの話だ?」


 2人がただならぬ雰囲気をかもし出しているのを感じつつも、結論が欲しいハリーがせかす。

 鷲峰とムスタファが互いに肘をつつきあうが、ため息交じりにムスタファが口を開いた。


「3人は多分、地球へ着いた瞬間に死ぬ」



「どういうことだ」


 少しの沈黙のあと、やはりというか、そっちだったかといった感じに王が質問してくる。


 そこで2人は説明をはじめた。

 今の肉体強化は無理やりなされており、その状態が解けると体へ一気に今までの負荷が襲うこと。それによりムスタファが死に掛かったこと。それ以来聖剣が手元にない状態を通常とするよう努めていたことを。

 だから何か装備していないかを訊ねたのだ。



「そ……そんなのねぇよ! クソッ! なんでだ!? おれがなにをやった!?」


 ハリーの悲痛な叫びが響く。

 彼らがなにかしたかと問われると、仕方なしとはいえあまりにも人を殺しすぎた。

 しかしそうだからといって自分が死ぬことに納得ができるはずもない。



「なんとかしてやりたいとは思うが……」


 方法が思い浮かばないのだ。


 破壊神ならばもしや何か知っているかもしれない。だがさすがに何度も分けて呼ぶわけにはいかない。そこまで信力を消費させるわけにはいかないのだ。



「万事休す…………。いや、あるかもしれない!」


 双弥はひとつ、重要なことを思い出した。


「な、なんだよ! 言えよ! 早く言ってくれよ!」

「いてぇって。そんなに掴みかかるな。ただこれは憶測だし、失敗したら死ぬかもしれない。それでも試すという奴はいるか?」


 死ぬかもしれない。その一言でハリーの手は緩んだ。

 死にたくないから頼もうとしている。だから可能性としての死がある以上、そこから先へ踏み込めないでいた。

 ジークフリートも同様だ。しかし彼らが決して臆病というわけではない。こればかりは仕方がないとしか言い様がないのだ。



「我が試そう」


 このままでは試すこともできないというとき、前へ出たのは王だった。


「いいのか? 王」

「構わん。どうせこのままでも生きていられぬかもしれんしな。それに貴様は日本人でも同じ武門の士。死ぬにしてもせめて同門の手のほうがまだマシというものだ」

「王……」


 王とて同門だからと誰にでもそう答えるわけではない。だが未熟とはいえ双弥と戦い、その練功に費やした時間は理解できている。だからこそ認めているのだ。


 双弥の考えとしては、創造神と破壊神の信力の差はかなりあるが、その力を双弥1人に費やした破壊神に対し、適当な量を7人へ分配した創造神ではその力の芯の強さが違う。

 それに聖剣の威力でさえ凌いだ鞘だ。きっと魔王の力もなんとかなるだろう。



「さあやれ」


 王があぐらをかき、その後ろに双弥は立つ。そして妖刀の鞘を王の背に、まるでなにかを書くように這わす。

 1ヶ所ずつ丁寧に、力の点を探していく。


「ぐっ、う……」


 少しして王に反応が出る。どうやら見つかったらしい。

 延髄の下、肩甲骨の間辺りにそれはあった。


 双弥は妖刀を抜き、地面に突き刺す。こうすることで鞘は妖刀から発する破気以外のものを貪るように吸収しだす。


「があああぁぁぁっ」


 王の顔が苦痛に歪み、その肉体からはどんどん力が奪われていく。


「王! 気功だ! 練りこめ!」


 双弥の言葉に王は両手を前に出し、珠を包むように掌を向かい合わせた。

 この世界では気を練りこもうとすると地球にはない力が入り込む。それは鞘によって吸収されてしまうが、本来の気──イメージにより体の力の動きをコントロールする技術だけが残る。

 それによりどれだけ和らげられるかはわからないが、ないよりは恐らくマシだろう。


 王はもう限界まで吸われ、これ以上続けたら死ぬというところで双弥は鞘を王から離す。


「リリパール!」

「はいっ」


 リリパールはすぐさま近付き、回復魔法にて王を回復させようと試みる。しかし無制限回復能力を持つリリパールでも、他の勇者たちを癒せないのと同様に王を回復させることはできなかった。

 これは仕方ないことだ。勇者と魔王は肉体強化されている状態であり、常にプラスの状態で生きていることになる。

 回復魔法は、通常時をゼロと考えるとマイナスをゼロにする力だ。プラスがゼロになった彼らには通用しない。怪我の治療とは根本から異なる。


 強化された肉体にとって、この星の重力では軽すぎるのだ。人間が筋力を維持するためには負荷をかける必要があり、例えば病などで数日寝たきりになっただけで筋肉は衰えてしまう。

 だから彼らの体は常に負荷不足により衰え、それを強化により現状を維持させていた。だから強化が消えたとき本来の体へ戻ろうとし、肉体にまで影響を及ぼす。これが反動状態であると鷲峰、ムスタファ、双弥は結論付けた。


 それでも普段から功を積んでいた王だからこそ耐えられたと言える。もしこれがハリーやジークフリートであったらもう既に枯れていただろう。

 ようするに現在リリパールが行っている回復魔法は、やり損……ではない。

 必要以上に弱った鼓動などに働きかけている。おかげで王はカピカピ状態でもかろうじて生きていられる。


 まだ王の中には創造神から与えられた力が残存しているが、かなりの量を取り除けたと思われる。あとは回復させ、それからまた吸収させるつもりだ。



「な、なあ。おれっちたちはどうすればいいんだ?」

「これから2ヶ月くらい死にもの狂いで体を鍛える。さもなくば数回に分けて枯らし続ける」


 これには2人とも恨めしそうな顔をする。どちらもファットなため、色々と辛いのだろう。

 でも死ぬよりはマシだろうとなんとかなだめてみようとする。


「そう嫌そうな顔をすんなよ。──そうだ、うまく結果にコミットできたらゴスロリランドへ招待してやるよ」

「マジでか!?」


 そう言って飛びついてきたのはジークフリートであった。双弥たちがとうとう犯人を突き止めた瞬間だ。


「お前か! 世界中にゴスロリばら撒いてるのは!」

「う、うっせえ! この世界ならおれっちの野望を叶えられると思ったんだ!」

「なんだその野望って」

「……世界の女性が皆ゴスロリを着ることだ……」


 なんと素晴らしい野望なのだと双弥は感銘を受ける。

 ちなみにゴスロリの発生源は日本だが、アメリカやイギリス、そしてドイツなどにも熱狂的なマニアがいる。

 ただ単に好きというわけではなく、文字通り狂ってる。そしてそういう人間に限って声が大きいため悪目立ちし、多くいるように感じられるが実際は然程いない。そこを勘違いすると辛い目にあう。


 双弥はジークフリートの手を取り、無言で頷いた。もう彼はひとりじゃない。


「お前の考えはよくわかった。だがその夢は──」

「わかってる。おれっちが帰ったらその結果を知ることができない。でも、でもな、想像することくらいはできるだろ! 地球に帰ってからでも、この世界はゴスロリで溢れていると、そう考えるだけで俺の心は満たされるんだ!」

「ジークフリート……、いやジーク! 任せてくれ! お前の夢は俺の夢! その想い、受け継ぐぜ!」

「双弥あぁぁ!!」


 2人はガシッと熱い抱擁をする。これが男の友情だ。多分……。



「そうなると私たちも帰りが先になるな」

「ああ。ならば予定通り俺たちは破壊神の信者でも集めるか。他にやることも……」


 鷲峰がムスタファとそんな話をしていたら、ふと鷲峰のシャツが摘まれくいくいと引かれていることに気付き振り返る。

 するとそこには顔をほのかに赤らめ、視線を逸らすチャーチストがいた。


「……あるよ」

「なんだ?」

「…………子作り」

「ふごっ!?」


 思いがけぬ言葉につい鼻を鳴らしてしまう鷲峰。チャーチストの言ったことを訳すと……いや、野暮なことはやめておこう。

 そして鷲峰は頭を抱える。苦悩性頭痛が脳をかき回していた。


 正直なところ、鷲峰はチャーチストが好きだ。彼にとってこれほど居心地のいい少女は他にいないだろう。

 そんな鷲峰のことをチャーチストも気に入っている。むしろ先ほどの会話から察するに愛情が芽生えているはずだ。


 いなくなってしまっても繋がりを求めようとする。いや、いなくなってしまうからこそなのかもしれない。

 だがもし2人に子供ができるとしよう。それを押し付けるようにして去っていける鷲峰だったら今ごろ見捨てられていた。


 だけどここに残ることにしたらどうなる。家族は? アニメは? ゲームは?

 ……アニメやゲームの心配をしている辺り、この男はダメなのかもしれない。それでも彼はジャパニーズエンターテイメントに人生を費やすと決めていたのだ。

 しかし今、その考えを根底から覆そうとしている。これも愛の成せる業か。


 こんな告白にこの少女がどれだけ勇気を搾り出したか。そんなもの考えても仕方がない。陳腐だ。

 そしてこの答えでわかるのは、鷲峰の男としての器。



「…………俺は……」

「……わかってる」

「……いや、わかってない」


 強く否定する鷲峰は、きょとんとするチャーチストの両肩をがっしりと掴み、少し屈み目線を合わせる。


「……俺は帰らない。だから結婚しよう、チャーチ!」

「っ!………………はいっ」


 涙を浮かべながら、彼女は誰も見たこともない満面の笑顔を輝かせた。


「うおおおおおおおおおぉぉぉ!!」


 辺り一帯に叫び声が響く。

 双弥が、勇者らが、魔王たちが。そしてエイカ、りりっぱ、アセットが驚きの、そして祝福の声を挙げる。


「迅! すげえ! よく言った!! それでこそ日本男児だ!」


 先ほどまでホモホモしくジークフリートと抱き合っていた双弥は、鷲峰の背後から腕を回し、がっしりとヘッドロックしながら言った。

 自分の他に残る仲間がいるといううれしさはそこになく、ただただ2人結婚をうれしく思っていた。

 身動きの取れない鷲峰は、ジャーヴィスやフィリッポ、ハリー、ジークフリートから蹴りを入れられる。だがこれも本気というわけではない。彼らなりの激励なのだ。


「いっつ、てめ、やめっ」


「てめぇこのっ! うまくやりやがって!」

「こっちの世界にいるなら今日からジン・ワシミネだな!」

「僕は迅ならやってくれるって信じてたよ!」


 鷲峰が抵抗しようとするがどんどんエスカレートしていく。強化された肉体だが強化された肉体により攻撃されているのだ。つまり普通に痛い。



「よかった……、よかったねチャーチ! おめでとう!」

「おめでとうございます! 私もとてもうれしいです!」

「いいもんみせてもらったわ! おめでとう!」


「あ……、ありがとぅ」


 チャーチストも女性陣から祝福の言葉を受けていた。


 彼女は無意識にしぐさや癖、僅かな動きでその人の本心を見抜いてしまう。

 そのため村では疎まれ気味悪がられ、嫌われていた。

 こんな自分をどうにかしたいと思っていてもどうにもならず、一生このままで果てると思っていたところ、鷲峰と出会った。

 一緒に旅をし、双弥たちと合流し、今ではこんなにも仲間がいる。


 そんな彼女たちの本心なんて見たくなかった。だが、見えてしまった。


 チャーチストが見たエイカたちの本心。それは羨望、そして本気で喜んでいる姿だった。

 願っても絶対手に入らないと思っていた、本当の仲間、友達がここにいる。

 やがて彼女たちの細かな動きが見えなくなった。涙で視界がぼやけたのだ。それでも嬉しく、笑顔を隠すことができなかった。

 人にはない力を持ち、人として生きるのを諦めた少女が、人並みの幸せを手に入れた。それがなによりもうれしかったのだ。



「いい加減にしやがれてめぇら!」


 とうとう鷲峰がキレた。双弥たちは一目散に逃げる。鷲峰は舌打ちをしたが、すぐ横で泣いているチャーチストの傍へ行き、そっと抱きしめた。


「いええぇぇぇ!」

「ヒューヒュー!」

「式はいつだよ! それまではおれっちも残るぜ!」


 蜘蛛の子を散らすように離れた野郎どもがいつの間にか近くで茶化す。



 そんな奴らを苦々しく見ながらも、チャーチストへ添えた手は離さなかった。

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