第115話
「……フフン」
「うぎぎぎぎ」
現在双弥たちは街道の合流より魔王城へ向けての道を低速で走行している。
車はジャーヴィスが出し、その上に白旗を掲げている。車で移動しているのはこちらがシンボリックで魔力を消費しているということを見せるためだ。
といっても前日に出しておいて回復させてから乗ってしまえばいいのだし、双弥たちよりも長くこの世界にいる彼らがそのことに気付いていないとは思えないが、あちらも双弥たちのことを知らぬため、そういった知恵の回らぬ人物であると思っているかもしれない。
それでも白旗効果なのか、向こうから車が視認できるような距離であっても攻撃されることはなく、そら見ろと言わんばかりにフィリッポは上機嫌に鼻を鳴らし、双弥は若干悔しそうにしている。
「どうやら彼らは僕らを歓迎してくれているみたいだね」
「そんな甘くはないだろう。せいぜい話し合いくらいならば応じてやる程度に思っていたほうがいい」
「ムスタファは考えすぎなんだよ。もっとポジティブに考えようよ」
「貴様がお気楽過ぎなんだ。最悪の状況を考えて動くべきだ」
そして最悪の状況を考えるのはもちろん双弥の仕事である。人任せにしている辺りムスタファもお気楽なのではと思ってしまう。
今現在の状況からして、最悪の状況というのは白旗に応じないことだろう。こちらの意思表示など知ったことかという具合で。
白旗を振っており接近しても無反応でいる。すると白旗を振っているから攻撃してこないのだと安心する。そこが狙い目だ。安心は油断であり、油断は反応の遅れを生じる。
杞憂で終わればそれでいい。ただ杞憂で終わるのを前提で動いてはならない。
「ほらムスタファ。そんなこと言ってる間にもう城の入り口だよ。みんな臆病になりすぎなんだよ」
いろんな意味でジャーヴィスがうらやましいと思いつつ、5人は城門までやってきた。
「近くから見るとやはり巨大だな」
車から降りてムスタファが一言漏らす。車内からでは見えない部分が見えるとそのものの大きさがはっきりとする。
高さだけならばUAEにあるブルジュ・ハリファどころか東京のスカイツリー……いや、東京タワーよりも低そうだが、横幅がとにかく広い。しかもそのようなものが平野にぽつんと建っているのだから遠くからでもかなり目立つ。
それにしても門も巨大であれば階段も巨大。まるで普通の城を拡大させただけのような雑な作りである。一般人なら遠慮したくなるほどだ。この城は創造神により造られたとするならば、なるほどと納得ができる。やはりいい加減な性格なのだ。
1段が通常の階段の倍ほど──50センチ近くあり、勇者の身体能力でも上るのが億劫であるためぶつぶつ文句を言うジャーヴィスを無視しつつ、5人は場内へ入っていった。
「よお」
柱にもたれかかり、腕を組んで待っていたのは以前出会ったアメリカの魔王、ハリーであった。
「久々だな」
「おう……って、お前ら5人いるのか? 全員勇者だってのか? くっそ、聞いてねえぞ」
こちらの人数は創造神からであろう把握していたようで、1人多いことに悪態をついていた。
「まあそれは今回気にするな。見ての通り戦いに来たわけじゃない」
そう言って双弥は先ほどから持っている棍に白い生地を結んだものを見せた。
「ああそれな。仲間の1人が罠だとか言っていたが、とりあえず様子見するべきだってことになったんだ」
「なるほどな。それはドイツの魔王か?」
ハリーの目元がぴくりと動いた。勇者一行と会ったのは自分だけだというのに何故知っていると言わんばかりだ。
両者お互いの国のことは知らない。何故ならば双方の国々を創造神が知らないからだ。特に勇者側は創造神からコンタクトを受けたことがなく、現地の人間に任せっぱなしだったし。
魔王側と接触したのは魔王という状況が故、人と接触させたくない。だが自分が何を成すべきかは知っておかないといけないからだろう。
双弥はわざと自分の持っている知識、『ドイツの魔王』というカードを切ってみた。こちらはお前らの情報を握っているんだぞという牽制のためだ。
「い、いや。他のやつだ。それにしてもよく知っていたな」
「そりゃあちこちでベ○ツが走ってりゃ誰でも気付くよ」
得意げに言うジャーヴィスに一同頭を抱える。双弥の作戦台無しである。
「クソッ、あの野郎。ほんと好き勝手やりやがって……。ま、まあいい。隠すつもりはないからな。じゃあこちらの手の内は見ているんだからそっちも教えてくれや」
「全く、
調子に乗ってべらべらと喋りまわるのではないかと危惧したが、そこまでのアホではなかったようだ。どうやら算数くらいはできるらしいと皆安堵する。
「いやいや、比率的にイーブンじゃないだろ」
「ほう。では貴様らは何人いるのだ?」
ここでムスタファが割って入る。もちろん余計なことを言おうとしたジャーヴィスは追いやられている。
「クソッ、こっちは……2人だ」
「貴様は先ほど言ったな。『他のやつだ』と。どう考えても数が合わん」
「……ちっ」
双弥たちは魔王が3人であるという情報を既に得ているが、ここはハリーがどういう返答をするか知りたかったのだ。この場にチャーチストでもいれば彼の癖など全て把握してくれただろうがない物ねだりをしても仕方がない。
「はっはー、やめとけやめとけ。おめーの口じゃ相手にならないみたいだぜ」
パンパンと手を叩き現れたのは細長の男だった。細いといっても太めのハリーの横に立っているため比率的にそう感じただけで、実際はそれなりに筋肉のある体型をしている。くりんくりんの赤い短髪で血色のよい赤肌である。
「誰だ?」
「おれっちはジークフリート・シュナイダー。さっきから話に出ているドイツの魔王さ」
名前を聞き、双弥と鷲峰は心なしかダメージを受ける。中二にドイツ名は心に響くらしい。
(ジークフリート……かっこいい! 羨ましい! 畜生!)
双弥はぎりぎりと歯を噛み締め、ジークフリートを睨みつけた。
「お、おいおい。そこの……日本人だっけか? そいつはなんでおれっちを睨んでるんだ?」
「あ……いや、すまん。あくびを噛み殺してたんだ」
「おおそうだった、長旅ご苦労さんだな。飯でも食うか?」
「ドイツの食事は知ってるよ! 芋とソーセージをビールで流し込むんだよね!」
「揚げた魚と芋だけ食ってる奴らに言われたかねぇよ」
ジャーヴィスの小ばかにしたような言葉を小ばかにしたような対応で返す。この男はただものではない。
「な、なにを言ってるんだよ。魚を揚げる手間がかかってるんだぞ」
「お前はソーセージがどこかから生えてくるとでも思ってるのか?」
「ソーセージは豚の腸から作るってことくらい知ってるよ! つまり豚に肉を食わせれば腸で作られて尻から生えてくるんだ!」
「おーうぃ英国人んんん。てめぇには後で特製ソーセージたらふく食わせてやるからなあぁぁぁ」
顔は笑っているように見えるが目がやばい。そのことを察知した双弥はジャーヴィスをぶん殴った。
「俺たちは喧嘩を売りに来たんじゃない。話し合いに来たんだ。全くなにやってんだか」
双弥はジャーヴィスの後頭部を押し下げ形だけでも謝らせた。
「──で、話し合いというのは具体的に何をするんだ?」
「全員揃ってからのほうがいいだろう。残りの魔王はどこだ?」
このままでは埒があかないため、ハリーが切り出してくる。
勇者側も早いところ本題に入りたいのだが、お互い手の内をなるべく隠そうとしているため今すぐどうということができないでいる。
「おれっちはまどろっこしいこたぁ嫌いだからな。わかってんだろ? 残りは1人、計3人だってこたぁ」
ジークフリートの言葉に双弥たちは一瞬ぎょっとしたが、いずればれることではあるし、話し合いが早く終わるに越したことはない。そこらへんこのジークフリートという男は話がわかる男なのだろう。
「ああ。それで残りの1人はどこなんだ?」
「トレーニングの最中だと思うぜ。いつも昼過ぎまでやっているからな。だけど無線で白旗の話はしてあるからじきに戻って……おっと来たな」
その言葉に双弥たちは慌てて振り返る。すると入り口から1人の男が現れた。
背はジャーヴィスと同じくらいで、黒髪。絞られた体は細いというよりもシャープといった言葉がしっくりくる印象を受ける。
「ん? え? あれ? 日本人??」
ジャーヴィスは混乱したような言葉を出す。勇者にも魔王にも日本人が混じっており、さらに双弥までいるとなると日本人率高すぎだろと突っ込みたいのだろう。
だがジャーヴィスはアジア系の顔の区別がつきにくいだけだ。日本人がフランス人とスペイン人とポルトガル人の区別がつきにくいのと一緒である。
そして現れた男の顔と足運びを見て双弥は気付く。
「いや、あれは中国人だ」
勇者4人は息を飲んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます