第114話
「やっぱり日本人は頭がおかしいよ!」
コースターで気を失い、あらゆるものをぶちまけたジャーヴィスが宿で体を洗い着替え、皆で集合したところでまず叫んだ。
「同感だ。あんなものが楽しいとは気違いにも程がある」
ジャーヴィス同様あらゆるものをぶちまけたムスタファも機嫌が悪そうに双弥らを睨む。それでもまだあらゆるものをぶちまけた女性陣の目よりもマシだ。彼女らのそれは完全に変態を見る目である。
「ま、まあそうなるだろうと思って先にトイレへ行くよう勧めただけマシだと思ってよ」
双弥はあれが相当やばいものだと知っており、チャーチストもその恐怖を何度か目の当たりにしていたため先に用を足すよう皆に言い聞かせていた。
そのため素直な女性陣は失禁するようなことはなかったが問題は男性陣だ。コースターくらい乗ったことがあると完全に嘗めていたせいで大変なことになっていた。
流石に加速は本気でなかったが、それでも強烈なGに体を押し潰されそうになっていた。
DDNPはその最高速もさることながら、急発進急加速がとんでもないのだ。普通のコースターのように最初はゆっくりだなんて思っていると尿結石も飛び出すくらいの勢いでちびる。
おかげで胃が辛く、食堂の卓を囲っているというのに未だ誰も食事をしようとしていない。
「そんなことより双弥、話を聞かせろ」
「そうだな。早速話そう」
早くこの話題から逸れたいのは鷲峰も一緒であり、話を変えようと急かしてきた。
双弥は先ほど見た魔王城の周辺の話を始めた。
道の分岐はもとより、隠れやすい岩がわざとらしく配置されていることなど詳細に。
「なるほど。もし隠れて行くつもりならばその岩陰を伝って行かねばならないのか」
「だが直線で並んでいるというのは確かに解せんな。そこしか隠れられぬのならばそこだけ気にしていればよいのだからな」
鷲峰とムスタファも大体双弥と同じ意見だった。
「だったらどうするんだい? 地面でも掘って行く?」
「いや、向こうもそこまで短絡的じゃないだろう。これが罠だとこちらが判断した場合、最も隠密性が高いのは地中から行くという発想をすることくらいわかっているはずだ」
つまり地下は地下で罠を張っている可能性が高いわけだ。
見通しのよい平野であり、接近したら確実にばれる。岩場は罠の可能性が高く、地下も怪しい。そうなると他にどう行けというのか。
「……空か?」
鷲峰の呟きに、双弥とジャーヴィスは思い切り首を横に振る。以前ハリーにハープーンで撃ち落され瀕死になったのだ。あんなものを二度と食らいたくない。
「空も地上も地中も駄目となったら打つ手がないではないか」
「そこが問題なんだよなぁ」
全員が深いため息をつく。現状打つ手が見当たらない。
「……やはり上からが一番妥当だな」
「だから空は撃ち落される可能性が……」
「いいや、撃ち落されないほどの高さからだ」
鷲峰が何を言いたいかすぐに理解できなかったが、双弥はなんとなくわかってしまった。
「ひょっとして、宇宙?」
その言葉に鷲峰は黙って頷く。
宇宙ならばハープーンも届かないし、真上から落下すればさすがに気付かれにくそうだ。
「しかし宇宙は厳しいだろう。あちらにはアメリカ人がいる以上、衛星などで監視しているかもしれない」
「確かに……。そうなるともはや八方塞だな」
「だったらもういっそのこと正面突破でいいんじゃなのか?」
それしかないかと全員が腕を組み唸る。なるべくならば避けたい選択肢だからだ。
最もリスクがある突入方法は何か。頓珍漢な回答でない限り大体正面突破のことだろう。あんなものは今どき正攻法でもなんでもなく、考える頭のない人間が行う愚かな方法と笑われるだけだ。現代の正攻法というのは潜み隠れ、隙があったら一気に制圧するものである。騎士道は死んだのだ。
とはいえ相手が万全を期しているのが前提ならば、正面突破もまた有りだろう。下手に裏をかいてひっかかるよりも罠などがわかりやすいからだ。
「それじゃあ罠の起動方法について考えてみようよ。赤外線センサーにワイヤー式。あとはソナーに振動感知もあるかもしれないね」
「加圧式も忘れてはならんぞ。あれはシンプルだが危険なものだ」
「ドップラーレーダーとかもあるな」
色々挙げてみるとだんだん嫌になってくることに気付く。ワイヤー式以外は全て不可視なのだ。対策が思い浮かばない。
「……やはり街道だな。この国の人間も使うはずだから過度な罠が仕掛けられているとは思えん」
「いいアイデアがあるよ! みんないろんな方向から攻めるんだ。あっちは3人だからきっと対処しきれなくなるよ!」
たまに言うジャーヴィスの良案に、皆がそれもありかと一考してみようと思ったところで双弥が異を唱える。
「いや、ここはやはり全員で集まって攻撃するべきだ」
「なんでだよ双弥! いつも考えるのは双弥の仕事だから自分の立場を取られたとでも思ったのかい? そんなこと気にしなくていいんだよ。僕の案のほうが素晴らしかった。ただそれだけさ」
勝手に嫉妬している扱いをされた双弥は立ち上がり靴を脱ぎ、座っているジャーヴィスの顔に足を近付けた。
「や、やめてよ双弥! ここは食卓だよ! どれだけ品のない育ち方をしたらそんなことができるんだ!」
ジャーヴィスの言うことも尤もなため、双弥は舌打ちをして席に戻り再び皆を見回した。
「で? なんで集まったほうがいいのか聞かせてもらおう。戦術的にも分かれたほうがいいと思うのだが」
部隊としてあまり密集して動くのは好ましくない。機銃の掃射や爆弾、ミサイルやランチャー、地雷などで簡単に全滅させられるからだ。罠があるという前提でならば尚更である。
「単純に目の数だよ。1人じゃ気付かなくても何人かいれば誰か気付く罠もあるだろ?」
なるほどと皆頷く。別々になったところでそれぞれが罠にひっかかってしまったら意味がない。こうなると逆にジャーヴィスの案がチープに見えてきてしまう。
魔王を倒すだけならば四方に別れ遠距離攻撃を繰り返せばいいのだが、目的はあくまで話し合いだ。こちらから仕掛けるわけにはいかない。
それならそれで堂々としていればいいのだが、生憎魔王側はそのことを知らない。だからこそ気を遣った行動をしなくてはならないのだ。
「フィリッポも何か案を出してよ。いつも僕らばかりが双弥に難癖付けてるんだからさ」
先ほどから腕を組んで黙って聞いていたフィリッポが「フン」と鼻息で返事をし、男性陣を見回したあと見下したような笑みを浮かべた。
「お前らアホだろ」
「ああ?」
頭を捻りどうしたものか懸命に考えていた双弥たちを馬鹿にした言葉で一蹴する。
「だったら俺らが一番安全に魔王城へ辿り着ける案を出してみろよ」
「白旗を振れよ。あっちがアメリカ人やドイツ人なら理解できんだろ?」
「あっ」
白旗というのは別に降伏だけに用いるものではない。こちらに戦意はなく、話し合いを求めたいという表明にも使われるのだ。ここが異世界だろうと同じ地球人としてそういった態度に出れば無下にしまい。
かくして会議は終了。明日の昼過ぎにここを出発するため、今日は早く寝ることにした。
「──双弥、そこにいるのは双弥なのかい?」
「しっ、静かに」
「真っ暗でよく見えないんだよ。もうみんないるの?」
「ああ、いるぞ」
5人の勇者はまだ日の昇らない早朝に集まっていた。もちろん出発するためだ。
今回の戦いではどうしても女性陣を連れて行くわけにはいかない。例え役に立とうとも。
アルピナは勇者と魔王が束になってかかっても恐らく倒すことができないだろう。
リリパールは生きてさえいれば全快させてくれるだけの治癒魔法が使える。
チャーチストの目は数十人分の情報を瞬時に拾える。
だがここから先は勇者の仕事なのだ。どんなに優れていても彼女らは勇者じゃない。
「──もちろん、そんなことだとは思っておりました」
突然差した明かりと言葉に慌てて振り返ると、そこにはリリパールとエイカ、チャーチストにアセットがいた。
「いや、これは、その……」
「わかっています。私たちを連れて行けないのですよね。大丈夫、私たちは邪魔をしに来たのではありません」
「じゃあなんで──」
双弥の言葉を遮るように、リリパールは双弥の胸に飛び込んだ。
「せめて……せめて『いってらっしゃい』くらいは言わせて下さい。無事を祈らせて下さい」
リリパールは潤んだ目で双弥の顔を見上げ、顔を近付けていく。
「双弥様……私は……ふぶぇっ」
何かを言おうとしたところでエイカにタイムアップを告げられ吹っ飛ばされるリリパール。見事な
※超治癒魔法を使えるのが前提の行為です。リリパール以外の素人に貼山靠をしてはいけません。あばら折れます。
唖然とする双弥の首にエイカは抱きつき、頬にちゅっとすると「無事に帰ってくるおまじないだから!」と顔を赤らめて逃げ去ってしまった。
その間にアセットはジャーヴィスの脛に蹴りを入れ、チャーチストは鷲峰と無言で見つめ合っていた。
「じゃあ、行ってくる」
双弥たちは見送られながら魔王城へと向かった。
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