第103話

町に着いた双弥たちは間抜けに見えるほど口を開けてその風景を眺めていた。

 道路は舗装され、建物もかなり近代的なものだったのだ。


「これ……アスファルトか?」

「違うよ。これはセメントコンクリートだよ。乾燥に時間はかかるけど設備的には楽だからね。この世界の技術力でも充分に作れるはずだよ」


 セメントコンクリートはセメント剤さえ作れれば、あとは砂と砂利、そして適度な水を混ぜ均せばできあがる。

 水分量もきっちり量る必要もなく、大体でも作れてしまう。といっても多すぎると強度が落ち、所謂欠陥住宅な状態になるのだが。


 それにこれがあれば道路だけでなく建物にも使える。だからこの町はこうして低階層ながらもコンクリート住宅が立ち並んでいるのだ。


 こうなると今度は馬車に使われる木製の車輪が問題になるのだが、走っていた数台の馬車などを見てその問題は解消していたことがわかる。車輪は鉄製でゴムタイヤがはめられていた。


「よくはわからんが、1900年ごろのアメリカはこんな感じだったのだろうか」

「そう言われると見えなくもない……のかなぁ」


 時代的には近代史辺りのようだ。

 だというのにあちらの大陸と交易をしている港でさえ影響が見られなかったところから感じられるのは、この技術は秘匿とされているのだろう。文明的にはかなりの差が伺える。


「双弥様たちはこのようなところから来られたのですか?」

「いや、俺たちが住んでいた場所はもっと凄いよ。何百メートルもの建物があちこちにあったり自動車も俺の国だけで何百万台も走ってたんだ」


 恐る恐る訊ねてきたリリパールへ答えると、今度は金魚のように口をパクパクさせ言葉を失ってしまった。


「お、お兄さんの国って何人くらいいるの……?」

「んー、そうだなぁ。1億2千万人くらいだっけな」


 あまりにも関わりを持たぬ数字にエイカまで言葉を失い口をパクパクさせている。リリパールと並んで金魚姉妹だ。


 この世界では数千万人もいれば超大国であり、1億を超えるなんて考えもつかぬのだ。10万人を超えれば大都市とされ、東京のような1千万人都市はあり得ない。


「双弥様の国は、その、どれだけ広大な土地を所有しているのでしょうか……」

「日本は島国だから大したことないよ。キルミットの半分もないかな。広さで言ったらフィリッポやムスタファの国のほうが広いはずだよ」

「貴様はもっと世間を知るべきだ双弥。私の国の国土は然程広くはない」

「ご、ごめん……」


 双弥のイメージでは広大な砂漠の土地に眠っている石油が主な産業としていたようだが、UAEの国土は日本の4分の1もない。

 そして日本は意外とでかく、ドイツやイギリス、イタリアよりも広く、面積ではフランスより小さいが人口は倍くらいある。島国であっても決して小国ではない。


「それよりこのインフラ状態を見る限り、魔王らにとってここは要となる場所なのだろうな。もし全部の町をやるにしても、まずは主要なところから手を付けるはずだ」


 ムスタファの意見に4人は同意する。大道を作ってしまえば細かなところへの整備もしやすくなるため、優先度は高いはずだ。


「それと……気付いているか?」

「ああ。もちろん」


 先ほどから何台もの車が走っているのを見かける。だが運転は荒いうえにふらついているし、ぶつけたのかへこんだ跡も見られる。

 どうやらこの自動車はシンボリックで出現させたものではなさそうだ。だとすると、この世界で作り上げたことになる。


「なかなかまずそうな状況に見えるのだが……」


 魔王以外の人間でも自動車が手に入るということに鷲峰は戦慄していた。これだけの技術力があれば恐らく銃なども作れるだろう。そうするとかなり厄介なことになる。

 いくら聖剣の力があるからといっても銃弾の速度をどうにかできるものではないし、普通の人とは比べ物にならぬほど軽減できたとしてもダメージはある。防弾チョッキを着ていてもかなり痛いのと一緒だ。

 もしそれらを用いて魔王以外の人間が攻撃してきたことを考えると厳しい。実際にこうやって魔王が町に変化をもたらせている以上、ここでは英雄的な扱いを受けている可能性がある。そうするとそれを倒しに来た勇者たちは敵であり、襲ってくる可能性がある。


「ああ。これで尚更シンボリックが使えないし正体を知られるわけにはいかなくなった」


 皆ごくりと唾を飲み込む。

 聖剣の勇者たちは威力を考え、シンボリックに頼る大技ばかりに目が向いていた。そのため索敵などの技術が疎かになっている。今暗殺をしようと思えば容易く行えるだろう。

 これからは派手な行動を慎み、なるべく町に溶け込むよう進まなくてはならない。


「それにはまず……どうするか?」

「身なりだな。ここはどうも俺たちの世界の服装に近い。こんな格好をしていては目立って仕方がない」


 せめて外見からだけでも正体がばれるようにはしたくない。双弥たちはそれぞれ別れ、町を探索することにした。




「へえ……これがお兄さんの世界の服……」


 町にあったブティックでエイカが眺めているのはマネキンにかけられた服だ。

 この世界にはないディスプレイに興味津々といった印象を受ける。


「ああ。仕立ては甘そうだが大体こんなものだ」


 双弥はハンガーにかけられ並んでいる服を見ながら答える。

 縫製技術は向上しただろうが、大量生産の技術はまだまだなようで多少のばらつきが見られる。それでもあちらの大陸で購入できる服とは大きな差がある。

 もちろん一般人がそうそう手にできない高価な服はこちらとも大差ない。手縫いの技術はそうそう変わらないようである。


「どういった服が流行ってたのかなぁ」

「国によって違うからなんとも言えないかな。あとは年齢によっても…………くっ」


 双弥は突然の頭痛に膝をつき頭を抱えた。


「ど、どうしたの!? お兄さん!」

「わからない……突然痛みが……」


 何ごとかとエイカは慌てて双弥のもとへ行く。双弥は大丈夫だと笑顔を見せるが、少し辛そうだ。

 原因は何かと立ち上がり、エイカは視線を店内に滑らせる。


「あっ……」


 エイカは見てはいけないようなものを視界に入れてしまった。


 Goth-Loli


 そこには確かにゴスロリ衣装がかけられていた。

 双弥を狂わす悪魔の衣。エイカは彼がそれを視界に入れてしまったのだとすぐに理解した。

 何故こんなところにあるのか。あれはルーメイー……いや、スポットレート港にしかないものなのではなかったのか。

 だがそれは間違いであった。

 ここから仕入れた服が港を経由してスポットレートの港町へ辿り着いたのだ。つまりここが本来の出処。

 その事実へ辿り着いたとき、エイカは双弥を抱えてそっと店を出た。服を売っている店はここだけではない。他の店へ行けばいいだけの話だ。中をまだ探っているリリパールに黙って出ても許されるはずだ。



「……いつつっ。あれ、ここは……」

「大丈夫?」

「ああ、問題ないけど、俺は確か服屋にいたはず──」

「あのお店はね! そんなに品揃えよくなかったんだよ! 他のお店いこっ。ねっ」


 何か腑に落ちない感じの双弥をエイカは無理やり引っ張る。双弥としても拘る意味がなかったため、エイカに引かれ他の店へと向かう。


 しかしこの判断は間違っていた。それも最悪な方向へ。


「ほ……ほ、ほああぁぁぁ!!」


 突然の双弥の叫びにエイカは驚く。周囲の痛々しいものを見る視線どころではない。双弥をここまで狂わせるものは今のところひとつしかない。エイカは周囲をにらむように確認する。


 と、そこには想像を絶する恐ろしいものが存在していた。


 ロリータ専門店


 ゴスロリはもとより、甘ロリや白ロリ、パンキッシュまでロリータ系総揃いだ。


「おっ、お兄さん……っ! そっちは……駄目……っ」


 エイカは双弥のシャツを掴み、必死に止める。だが桃源郷を見つめる双弥の歩みを遮ることはできない。ずるずると引き摺られてしまう。


「お願い……そこだけは駄目なの……。いやっ! やめてぇ!」


 エイカの悲痛な叫びすら彼の耳には届かない。ガンガン響く頭痛(トラウマ)ですら彼の枷にはなりえなかった。

 このままではまずい。このままでは…………。


 だがここでエイカはふと考える。何故このままではまずいのだろうか。

 以前起きた出来ごとを思い返す。


 (あのとき確かお兄さんは……私を抱きしめ、頭を撫でてくれていた……。私をぎゅっと抱いて……)


 思い出し、エイカの顔は一瞬で赤くなる。

 しかしこの記憶ではいいことしかないではないか。何故止める? その必要は全くないはずだ。

 マジオコアルピナ? そこにいたか覚えていない。リリパール? 知らん。

 彼女の記憶からそれらは除外されていた。そうなると止めるよりもむしろ推奨すべきである。


「お、お兄さん! あの服ね、私持ってるんだよ!」

「NANII!?」


 瞬時に双弥の顔はエイカへ向く。その顔はおやつを見せられたパグのような期待に満ちた澄んだ目をしている。


「どこだ!? どこにある!?」

「いっ、痛いよお兄さん……」


 もの凄い勢いで掴みかかる。この程度も待てないとは犬にも劣る男だ。


「いいから! はよ!」

「や、宿屋のね、私の部屋にあるよ……」


 双弥はエイカを脇に抱え、走り去って行った。




「何か嫌な予感がするのですが……」


 リリパールは胸騒ぎを覚えていた。

 庶民用のブティックで服を選んでいたのだが、先ほどまでそこにいたエイカと双弥が消えていた。

 何かあったのかもしれない。不安が頭の中を過る。

 双弥は大丈夫。何があっても生きていてくれる。そう約束した。

 しかしエイカが関わっているとなったら話が変わる。

 エイカがもし捕らえられ人質になどされたら双弥は手も足も出せない。


 だが単に店を変えただけなのではないか。

 それなら自分にその旨を伝えればいい。何故黙って出て行く必要があるのか。

 あとこの謎の不安感はなんだ。この感じ、双弥が単独でパーフェクトドラゴン退治に行ったときのようである。


 リリパールは目を閉じ集中する。彼女は第六感、いや、双弥感を用いて双弥を探すことができるようになっているのかもしれない。愛の賜物だろうがこの世で最も無駄な能力である。


「この感じだと……宿……そして動いていないですね……」


 冗談のつもりが本当に持ち合わせていた。ちょっと引く。

 とにかく双弥の居場所が判明したリリパールは焦りつつ宿へ向かった。




「双弥様、おられますか? 双弥様!」


 リリパールは双弥の部屋をノックし、声をかける。だが返事はないし、人の気配もしない。

 ならば一緒にいたはずのエイカが何かを知っているかもしれない。そこでエイカの部屋へ向かう。

 すると部屋の外まで聞こえるアルピナの唸り声。ひょっとして犯罪に巻き込まれた際に人質に取られたエイカが宿まで連れて行かれ、それに対しアルピナが威嚇しているという可能性がある。


 リリパールはごくりと息を飲み、ドアを軋ませぬようそっと寄りかかるように耳を付ける。中に何人おり、どのような状況になっているのか把握しなくてはならない。自我を殺し飛び込みたくなる衝動を抑える。

 そもそもリリパールはそれを得意としていたはずだ。この旅では何故かテンションがおかしくなっていたためあちらこちらでトラブルを振りまいていたが、それは本来のリリ・スタイルではない。

 リリパールはじっくりと中の音へ集中する。


 外まで聞こえるほどのアルピナの唸り声と共に聞こえるのは男女の声。それも危険などではなくかなり楽しげだ。きゃっきゃうふふである。

 その声の主が双弥とエイカであることはすぐにわかった。


 そうであるならばこんなところで立ち聞きをしているわけにはいかない。リリパールは謎の怒りに支配され、ドアを蹴破る勢いで開けた。



 そこで見たものに、リリパールはその場で崩れ落ちた。


 いつか購入した赤いロリータファッションのエイカを後ろから抱きしめ、これ以上ないほど至福の表情でだらしなく喜んでいる双弥と、それに対し手を地面に付け、尻を上げて威嚇するアルピナの姿であった。


「ど、どどどどういうつもりですか2人とも!」

「え!? あっ、リリパール様……」


 ちょっと困りつつも嬉しそうな表情から一変、エイカは気まずそうな顔になった。


「私たちは決めたはずです。双弥様の前ではそれを着ないと」

「ど、どうしてダメなの!?」

「えっ──」


 リリパールは思わぬ問いに一瞬答えが出せなかった。

 何故駄目なのか。

 それはきっと衝動的な取り決めだったのだろう。目の前で自分でない他の女の子とイチャラブっぽいことをしている双弥に対しての苛立ち。そんな感じか。


「えっと、それは……その服を召していると双弥様がダメ人間になってしまうからです」

「だったらいつもと変わらないよ!」

「それは……まあそうなのですが……」


 2人は気付いていた。

 馬車に乗っていると双弥はいつもエクイティの揺れる胸を見ていたことを。

 本人は周囲に気付かれず見ていると思っているのだろうが、案外それは傍から見るとバレバレである。特に女性は他者の視線に敏感なのだ。

 そのため双弥は巨乳大好きなダメ男という認識を2人から持たれている。もちろん劣等感などはそこには含まれていないと自らに言い聞かせている。


 しかしこれはあくまでも勘違いだ。双弥は巨乳も貧乳も分け隔てなく好きなのだ。ただ不動の平野よりも揺れる大木を見ているほうが幸せを感じられる。ただそれだけだ。


「で、ですが約束しましたよね。それは封印してしまおうと……」

「だけど特に理由がないよね? だったら着てもいいはずだよ」


 リリパールは下唇を噛みしめ、恨めしそうな顔で双弥を見る。だが双弥はそれに全く気付くこともなくエイカの首元をくんかくんかしてやがる。


「……双弥様」

「あぁ^~ロリ服エイカ最高なんじゃあ~」

「双弥様!」


 聞こえていない。なんてことだ。リリパールは膝を折りその場で崩れた。

 このままでは魔性エイカに双弥を芯から奪われてしまう。女としてこれは負けられない。


 リリパールは脱いだ。


 相変わらず精神的に追い詰められると何をしでかすかわからない小娘だ。

 といってもリリパールはそこまではしたなくはない。下着といってもパンツ的なものを晒しているわけではなく薄いワンピースのような格好である。それが精一杯であった。

 しかし双弥は見向きもしない。下着姿よりもロリータファッション。彼はガチの変態であった。

 もはや泣くしかない。リリパールは涙を浮かべながら自らが封じた箱へ目を向けた。


 トランク型の箱であり、鍵がかかっていたはずだ。そして未だその鍵はついたままになっていた。

 どうやって開けたのか考える必要もなく、逆側の蝶番が外されていたことに気付く。きっと双弥の仕業であろう。中を傷つけぬよう強引な手を使わなかったらしい。


 その箱をゆっくりと開け、そこにあった真っ白な甘ロリ服を取り出す。


 駄目だリリパール。それを着てしまったら全てがお終いだ。心から双弥に屈することになってしまう。

 リリパールは自分の中で衝動から抗う。

 これを着て何になる? もし着たことにより双弥が愛でてくれたとしても、それはこの服の力であり偽りの愛情でしかない。それでも着るつもりなのか?

 涙は目からこぼれ、下唇はどんどん上がっていく。そして────────ついに着てしまった。


 膝より上の丈のスカートなんて履いたことがないため両手でスカートを下に引っ張りながら涙目で双弥の前に立っている。


「あ……あの、双弥様……」


 震える声でおずおずと話しかけるリリパールに気だるそうな顔を一瞬向ける双弥。すぐにエイカへと顔を戻す。

 が、再び顔を上げる。二度見、そして三度見をかます。そして双弥は……リリパールに飛びついた。


「そ、双弥様……!」

「りりっぱさあぁぁぁん! いい! いいよ! ああんもうステキ! 甘ロリ! 甘ロリたまらん! 甘ろりりっぱ! ご立派!」

「だ、駄目です! ああっ、そこは……はふぅんっ」


 口では嫌がりつつとても幸せそうなリリパールの笑顔に今度はエイカが恨めしそうに見る。

 そして思い出した。これだ。これが原因で封印したのだと。

 しかしここでまた封印してしまうのは惜しい。悔しい。


 この旅でエイカはリリパールをキルミットの公女として敬いつつも常にライバル視していた。負けられない戦いがここにある。

 せめて双弥の目をリリパールから逸らさねば。そこでエイカが目をつけたのは先ほどから唸りをあげているケモノだ。


「ねえアルピナ」

「嫌きゃ!」


 言わずともわかっているといった感じにアルピナは一蹴する。例え大好きなエイカの頼みであろうと譲れないものがあるのだ。


「まだ何も言ってないよ……」

「あれを着ろって言うつもりきゃ! 嫌きゃ!」

「なんでそんな嫌がるの?」

「動きづらいからきゃ!」


 野生バリバリな獣人アルピナは脱げば脱ぐほど強くなる。今着ているノースリーブのワンピースでさえ邪魔だと思っているくらいだ。ゴテゴテのゴスロリなんて着られるはずがない。


「そこをなんとか……」

「嫌きゃ! 意味わかんないきゃ!」


 どう考えてもアルピナのほうが正しい。

 アルピナは他勇者を含めても、双弥が最も信頼できるほどの戦闘要員だ。些細であろうと動作の支障になることはすべきではない。


 だが双弥にはそんなことは関係ない。

 アルピナが戦えないならば倍がんばればいいだけの話で、ゴスロリアルピナにはそれだけの価値があると断言できる男だ。そして双弥ならばそれが可能であろう。変態度が人の枠から外れすぎている。


「ねっ」

「それにあれ着ると双弥がキモいのきゃ!」


 馬鹿な。エイカの大好きなお兄さんがそんなはずはない。だがアルピナは客観的に見ている。少し冷静になり、リリパールにしがみついている双弥の顔をよく見る。


 グロい。

 これは果たして人間の顔なのだろうか。溶けたロウソクのようなだらしない顔をしている。

 先ほどまでこんなのに抱きつかれていたのかと思うと胃からこみ上げてくるものがある。


 それでも女としてリリパールに負けるわけにはいかない。目を向けられるのならば双弥にそういった感情を持っていないアルピナへのほうがマシなのだ。


「わかった。じゃあ着てくれたらお兄さんに禁止されていた────生肉食べさせてあげる」

「着るきゃ!」


 即答だった。

 現代日本人双弥からしてみたら生肉は危険な食べ物である。干し肉ですらなるべく炙ってから食べているくらいだ。もちろんそれはアルピナたちの分もである。

 別にアルピナは干し肉に不満があるわけではないし、むしろ大好物だ。しかし生肉の魅力には敵わない。彼女は野生の王国の住人である。




「──お兄さんっ」


 再びエイカが双弥の眼前に現れた。

 そして胸にはゴスロリを着せられ垂れ下がったアルピナが抱かれている。


「い…………イエス! イエス! いええぇぇぇっ……げほっ、ごほっ……ぐああぁぁっ」

「お、お兄さん!?」

「双弥様!?」


 興奮のし過ぎで双弥はむせ返る。ただでさえ頭に血が巡りすぎていたためそれがトリガーとなり脳溢血寸前になってのたうち回る。これがゴスロリを愛しすぎたものの哀れな結末なのだ。素人がおいそれと手を出してはいけない。


「よくわかんないけど双弥が苦しんでるから満足きゃ。アタシこれ着るきゃ!」


 アルピナは外道な発言をした。

 以前無理やり着せられてずっとなでくりまわされていたのを未だ根に持っていたらしい。まさかあのとき敵であったこの服が味方になってくれるとは思いもよらなかった。



 こうして双弥直下にロリータ隊が配備されることになった。

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