第94話
「んで双弥。僕らは具体的に何をすればいいんだい?」
「えっとぉ?」
突然そんなことを言われても作戦なんか出てこない。
できることといえばシンボリックを活かした移動のサポートがメインになるだろうか。
それにはやはり魔力総量を増やすことから始めてもらうのがいい。大陸に渡る間を利用してやってもらうことにする。
「……う……あ……」
「おっとフィリッポが何か言いたげだよ」
「ああ。えーっと……」
カピカピのミイラになっているフィリッポへ顔を近付けたところで聞き取れるものではなく、だからといって後回しにできることではないのもわかる。
こんな姿でいるのに言いたいことがあるのだ。緊急もしくは重要な話であると思っていいだろう。
「じゃあ僕が通訳するよ。『やあ双弥。オレは帰れることが決まってとってもハッピーだよ! ありがとう!』」
チャラウザさ3割増しくらいでジャーヴィスはフィリッポのものまねをする。しかしフィリッポがそんなことを言うと誰も思っていない。
何を言いたかったのか……。それを言わないことくらいはわかっているが、フィリッポとはそんなに絡んでいないため何が言いたいかわからなかった。
「数日すれば喋れるようになるだろう。それまであまり無駄な体力を使うな」
ムスタファがフィリッポを寝かしつけようとする。今はそれしかできないのだ。
もし読唇術が使えたとしても彼の口の動きはフランス語なため、誰もわからない。自動翻訳も意味ある言葉を発さないと変換してくれないようで、心を読めるような便利さはないようだ。
「仕方ない。とりあえず聞かせる話をし、後でフィリッポの言い分から修正しよう」
鷲峰の言葉に皆は頷く。ここで話を止めるのも時間の無駄であるため、待ってはいられない。
「それで僕らは基本的に移動の手助けだけすればいいのかい?」
「あとは……実際に魔王と戦うときに盾などを出してくれるとありがたいかな」
以前の戦いで魔王の──いや、シンボリックの威力というものを嫌というほど知らされた。あれに耐えられるのは同じシンボリックだけだろう。
相手は世界一の武装を誇る国だ。どれだけ慎重になっても足りないと思ったほうがいい。
それから更に複数増えるとなったら最低でも同等以上の魔力総量が必要になる。
「しかしどうやれば魔力総量が上がるんだ?」
「それなら任せてよ! 僕が知っているから!」
ジャーヴィスはニコニコしながら答えた。
「…………そんなマネができるか!」
「さすがに私もそれは少し勘弁して欲しいのだが……」
「何を言っているのさ! 強くなるためだよ! ほら!」
もう吹っ切れてしまったようにジャーヴィスは謎踊りをするが、鷲峰もムスタファも恥ずかしがってできないでいる。
双弥は早くやらないかなと期待を込めた目で2人を見ている。
「ほ、他の方法はないのか?」
「ないよ! だから諦めてこれをやってよ!」
「そっ、双弥! お前は関係ないんだから出て行くか一緒にやるかしろよ!」
ニヤニヤしながら眺めている双弥を巻き込もうというという魂胆だ。だが双弥にもいる理由がある。
「それをしながらでも話はできるだろ。時間は有効に使おうぜ」
「くっ……。双弥、踊る阿呆に見る阿呆って言葉を知っているか?」
「同じアホなら見てなきゃ損だろこれは」
「……ちっ」
鷲峰は苦々しく舌打ちをする。そして心底嫌そうにジャーヴィスを見つめる。
「……こうしていても埒が明かないか。私もやろう」
とうとうムスタファが重い腰を上げた。
ジャーヴィスを見ながら照れを持ちつつ同じことをする。ニタニタする双弥と裏腹に鷲峰の顔は更に険しくなる。
「こ、こうか?」
「違うよ! もっと手首を振って! そう!」
たどたどしいが若干ヤケになっているムスタファはそれはもうキレのいい踊りをし始めた。
「さてと」
それから双弥はリリパールのところへ行き他の方法を聞いてくると、当然ジャーヴィスたちから恨みのこもった視線で迎えられた。
といった出来ごとから3日経ち、ようやくフィリッポが話せる状態になったとわかり双弥たちは集まった。
「よおフィリッポ。調子はどうだ?」
「フン、ざまぇねぇよな。笑えるだろ?」
「そういう話をしに来たんじゃない。話は聞いてただろ? お前はどうするんだ」
「ハッ、そういやそんな話だったな。オレは────嫌だぜ」
相手が何人いるかわからない以上、1人でも多くの仲間が欲しい。それくらいフィリッポだってわかっているはずだ。
なのに何故ここで断るのか。
「なんでだよフィリッポ! きみだって帰りたいんじゃないのか!?」
「あー。どうしてもってわけじゃねぇし、そこの
「そ、それでも……」
「大体な、お前らおめでたいんだよ。破壊神? そいつが言ったことが信用できるのか?」
何を根拠に信じているのかと言いたいのだろう。確かに破壊神が信用に値するかは疑問だ。
神が嘘をつかないなんて決まっていない。ここの神はギリシャの神に近いようでフリーダムな印象を受ける。
「お前の言い分もわかる。しかし可能性がゼロよりはいいだろう」
「ハッ、お前ら全然わかってねぇのな。おい
「……なんの話だよ」
「今更戻ったところで苦しむだけだって話だ。話してやれよ」
話さなくてもいいとは思っていたが、やはり伝えるべき内容だったか。双弥は仕方なく話すことにした。
「──つまり僕らがここで過ごした時間分、地球でも時間が経っているってことかい?」
「ああそうだ。時間をかければかけるほど帰ってから普通に過ごせなくなってしまう」
「なんでだよ! せっかくケイティとデートする約束ができたんだよ! どうしてくれるんだ!」
これはただの八つ当たりで、決して双弥に非があるわけではない。
「こういうのではよくあるパターンとして、元の時間に戻るものもあるが双弥はなんでそう思ったんだ?」
鷲峰もこれ系の話は読んだことあるのだろう。その点を指摘してきた。
「以前召喚された勇者が俺たちの年代じゃなく当時の地球の人間であろうことから推測したんだ」
「……それでもやはり帰るべきだと思う。私は国へ戻り、私の信仰を続けなくてはならない」
「で、でも……」
「信仰はさておき、俺も帰らなくてはいけない。確かに将来の見通しが不安になるが、俺が住むべき世界は日本だ」
「そ、そうだよね。全ては帰ってから決めればいいんだ!」
「フン、おめでたい連中だな。俺は手伝わないからな」
「そうだフィリッポ! 僕らのグループに今巨乳の女の子がいるんだよ!」
「ぐっ……、そ、それでも手伝わねぇよ。少ししかな」
フィリッポは案外チョロかった。
それから3週間、フィリッポの体調が戻るまで皆はこの町で魔力総量を上げることに努めていた。
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