第91話

「砂漠を抜けて暫く経つけどここはどこなんだい?」

「うーん、リリパールの話からするとオッツァ王国があるんだけど……もう入ったのかな」


 現在日が落ち暗闇の中、車のライトだけを頼りに草原をのろのろと運転している最中である。

 本日の走行距離800キロ。砂漠の区間だけで考えてもダカールラリー並は走っている。なかなかタフな行程だ。

 もちろんところどころで吐き休憩を設けており車内がすっぱ臭くなるのを避けている。連鎖だけはまっぴらご免なのだ。


 砂漠を越えたからといってここも平面な道というわけでなく、それなりの起伏があり走りづらくはあるが崩れやすい足場よりは遥かにマシだ。双弥もようやく落ち着いてエイカのなだらかボディを堪能できるというものだ。


 目は巨乳を向き、体は貧乳を愛でる。なんと背徳的なことだろうか。油断をしているともちろんリリパールから殴られてしまうため、じっくりとは眺められない。

 その点双弥は中国武術を習っており、感覚で人の動きを察することができる。推手などの練功のたまものである。もちろんそんなことのために利用してはならない。


「それよりもそろそろ休んだほうがいいと思うんだ。今から休めば明日も車を出せるからね」

「ああそうだな。今日はこの辺りまでにしておくか」


 できれば街道までは行きたかったところだが、砂漠を抜けられただけでよしとするべきだ。ここは無理せずジャーヴィスの回復に努めるのが最優先だろう。


 そしてもちろん双弥はジャーヴィスに寝袋を奪われ、そとの警備をすることとなった。





「なあジャーヴィス。あれはなんだと思う?」

「ハハッ、双弥は無知だなぁ。あれはタイヤ跡というんだよ」

「んなこたわかってんだよ。それがあるってことは勇者の誰かが最近ここを通ったってことだろ」

「なるほどね! そういう考え方もあるのか」


 他にどういう考え方があるのかと双弥はため息をついた。


 翌日双弥たちが出発して数時間が経過したところようやく街道らしき広い道を見つけたのだが、そこにあったのはタイヤマークらしきものであった。

 地球の道とは違い常になにかしらが行き交っているわけではないが、馬車などはそれなりの頻度で通過しているはずだ。

 だというのにくっきりとまではいかなくとも残っているということは、2、3日以内に誰かがここをシンボリックで走っていたということになる。


 誰がといえばこれもまた鷲峰かフィリッポだろう。方や列車でもう片方が車。しかも双方ともに先へ進んでいる。なるべくなら急いで追いつきたい。


「ねえ双弥だったらどれがいい? 僕としては迅ならN●Xでフィリッポならメ○ーヌかク○オがいいな」


 誰もジャーヴィスの好みなんて聞いていない。何だっていいじゃないかと双弥は心底どうでもよさげに思っている。

 そんなことよりもどうやって巻き返すかが重要なのだ。隣の大陸まではかなり距離があるためシンボリックで渡ることができない。追いつくには足の速い船を手に調達する必要がある。


「ジャーヴィスっていつもお気軽だよな」

「そんなことないよ! 僕だっていつも不安でしょうがないんだからね」


 嘘にしか聞こえないが本人がそう言っている以上そうなのかもしれない。疑わしきは罰せず。


「そんなことより双弥。目の前に広がるあれはなんだと思う?」


 ジャーヴィスが言う先の方向には、砂埃のようなものが見える。いや、完全にあれは砂埃だ。となるとあれは軍馬の群れか、砂埃を巻き上げられるだけの力があるものだ。

 それが地平線の向こうから近付いてくるように見える。


「ありゃあ……車か!?」

「マジで!?」


 そう。車が向かってきているのである。しかもかなり大型の白い車両が。


「くそっ、やられた! あれはメガ○ルーザーだよ!」


 なにがやられたのかわからぬが、ジャーヴィスは舌打ちするように言った。

 とりあえずあれは日本車であり、となると運転しているのが鷲峰であることが確定された。何故逆走をしているのかわからぬが、これは好都合である。


「ジャーヴィス、車を停めろ。鷲峰君なら俺たちに絶対気付くはずだ!」


 それから数分もしないうちに向かってきた車は横止めしてき、予想通り中から鷲峰が現れた。




「久しぶりだな」

「ああ。それよりもジャーヴィス。双弥と一緒だったんだな」

「そうだよ! 双弥が寂しいっていうから仕方なしに同行してあげているんだ!」


 どう見ても双弥パーティーのほうが人数が多いし、アセットとジャーヴィスはロクにコミュニケーションがとれていない。なんとなく察した鷲峰は笑いを噛み殺している。


「ま、積もる話もあるだろうが、なんで逆方向へ向かってるんだ? 大陸へ渡るならあっちだろ」

「ふん、お前たちを探すために決まっているだろう。双弥も一緒なのは好都合だ。こい」


 どういうことかわからぬが、双弥たちを探していたらしい。見つけられたのは単純に大陸へ行くには2ヶ所からでないと船が出ておらず、険しい南ルートを使うとは思えなかったからだそうだ。


「じゃあ聞きたいこともあるし俺たちは乗り移るか」

「待ってよ! そんなこと言わないでよ!」

「いいじゃないか。あっちのほうが車も広そうだし、何より話を聞きたい」

「ならせめて双弥だけでも残ってよ!」

「俺が話聞かないでどうすんだよ!」


 寂しんぼジャーヴィスが駄々をこねるため、双弥たちは仕方なく元の席へ戻った。


 合法的にエイカをまた後ろからぎゅっとできて幸せだったのは双弥だけの秘密にしておいてやるべきか。





 暫く走ると街が見え、鷲峰はその入り口横へ車を停めたためジャーヴィスもそれに習い停車。荷物を持って町へ入る。

 やっとまともな睡眠が取れるとエイカとリリパール、そしてアセットはうれしそうだ。エクイティは相変わらずの無表情でアルピナはおねむの時間だ。

 宿につき荷物を置いて一息……つけるほどの余裕もないまま双弥は鷲峰に呼ばれ、ジャーヴィスと共にある一室に入った。


「ここに何があるんだ……っておや?」


 双弥が中に入ると、そこにはムスタファがベッドに寝ているガビガビになった男の傍にいた。


「久々だな双弥」

「ムスタファも元気そうで。んでひょっとしてこれ、フィリッポか?」


 ムスタファは無言で頷く。何かの縁で出会うことができて例の聖剣を離すことを実行しているのだ。

 フィリッポを除く4人が出会ったときからかなりの日数が経っていたため、かなり危険な状態まで陥ったようだがここ数日でなんとか峠は越え落ち着いてきたらしい。


「それで俺たちを探していたのはフィリッポのことでか?」

「そこから先は私が話そう」


 双弥が鷲峰に聞いたところ、ムスタファが割って入った。

 実のところ鷲峰もジャーヴィスが来てからまとめて話すと言われていたため詳しくは知らない。だがとても重要な話であるため先へ進まずにいたのだ。


「まずは私が旅を続けていたとき、フィリッポが突然現れたことから始まる」



 双弥と鷲峰はそれからあまりにもおぞましい事実を聞かされてしまった。

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