第89話
(────い、…………よ…………)
双弥の頭の中に、何かの声が聞こえる。
(──でしょ、私の……よ…………)
近いのか遠いのか、誰かが呼んでいるようだ。
(──く返事しやがれ、私の勇者……)
今何か酷い言葉を言われたような気がしたが、そのおかげで双弥はそれの正体がわかった。
「……破壊神か」
声は出せた。しかしこの声は肉体から発しているというよりも、精神的に……まるで夢の中で話している気分であった。
周囲も闇しかなく、自分がどこにいるかもわからない。
(ああ、私の勇者よ。死んでしまうとは不甲斐ない)
「えっ!? 俺死んだの!?」
(いいえまだですが、不甲斐ないのは間違いありません)
双弥は焦ったが、まだ生きているらしく安堵する。
口ではなんだかんだ言ってもやはりいざ死ぬとなると恐怖があるものだ。そこらへんは仕方がないものである。
だが死にかけには間違いがないらしく、現在魂がこの世界と剥離しかかっているため破壊神とコンタクトができていると聞きゾッとする。
一応リリパールが治してくれているらしくいつでももどれるが、双弥の戦い方があまりにも酷かったため現在破壊神が引き止めているとのことだ。
(前々から伝えてますが、なぁんであんなに生温い戦いしてるんですかね私の勇者は)
「そうは言うけどさ、やっぱりシンボリックに勝てる気がしないんだよな」
(うぬぬ、どうやら私の勇者は頭があまりよろしくない様子。まあ丁度いい機会ですわ。私自ら破気の使い方を教えて差し上げますわ)
双弥としては悪かったなと言いたいところだ。破気に関してはわからないことだらけで不安が大きいのだ。そのためどこまでやっていいものか悩んでいたところもある。
「てか先に教えておくべきことだろそりゃあ」
(よくあるじゃないですか。ピンチに陥った勇者がキュピーンみたいな感じで覚醒するやつ! そう! 私は私の勇者にそういうのを求めているのですわ!)
これは双弥でなくとも呆れる。俗なのにもほどがあるだろうと。一体どこから得た知識なのか。
(え? 私の普段? 私は私の勇者と円滑なコミュニケーションを取れるよう私の勇者の世界へ出向き、勇者の知識を貪っておりますわ)
「おまっ、忙しそうにしてると思ってたら遊んでたんじゃねぇか!」
(まっ、まさか私がそのような…………酷いですわ! 私の勇者は私のことを信用しておられられれるろ!)
絶対に遊びまわっていたのだろう。あまりにもしどろもどろだ。
ちなみに双弥を召喚した後、破壊神は地球に出向きRPG52本、バトルもの漫画313冊を制覇している。学習はばっちりだ。
「はぁ……、まあいいや。破気について教えてくれ」
(そそそそうですわ! 私がどこで何をやっているなんて関係ありませんの。こほん、ではまず……)
後で散々いじり倒すネタを得た双弥は副題である破気の使い方を学び出した。
今まで双弥が取り込んでいた破気はごく少量。ドラゴン戦でエイカが食われそうになったときでさえ双弥が取り込める限界値の10分の1程度だそうだ。
だがここでひとつ問題がある。急な加速に双弥の目がついていかないのだ。
集中がピークを迎えたとき、視覚が知覚に変換され意識が時間を凌駕する。その感覚まで達したこともあるが、いつでもできるわけではない。
そして双弥が見た世界には、まだその先があることを知識として持っている。まずその域に達するのが課題だ。
(目が、追いつかないと?)
「ああ。そのせいで本気を出せないでいるんだ」
(魔力を用いないのですか?)
「いやあれ魔力と混ぜたら拒絶反応を起こしたぞ体が」
(ええっ!? なんてことでしょう、私の勇者は狃流(じゅうる)にアレルギーでもあるのでしょうか)
「狃流?」
双弥は知らぬ言葉に首を傾げる。破壊神は双弥の知識のなさに嘆いたが、そもそも魔力の存在しない地球にそのようなものがあるわけがないのだ。知る方法がなかった。
それは破気と魔力が融合した状態。常に体内で分解、消化される破気と体内へ蓄積できる魔力を混在させた力だ。
これを使えれば脳の処理速度が上がるため、どんな速度であろうとも目が追いつかなくなることはなくなる。
「それが使えることが俺の最強でいるために必要なこと、なんだよな?」
(いいえ、そこまで使わなくとも私の勇者は最強じゃありませんか)
何を根拠にそこまで言うのかわからない。双弥が気付いていないだけでシンボリックに対抗しうるものが既にあるというのだ。
「だからそれを教えて欲しいんだよ。そうすりゃ魔王を倒せるんだろ?」
(いいえ、それは自ら気付かなくてはいけません。そうでなくては成長しませんし、RPGの醍醐味が味わえません)
「おいコラてめぇ今RPGとかぬかしやがったな!?」
(ぶっ……、ち、違……あ! そ、そろそろ肉体に戻らねば危険ですわ! ではごきげんよう私の勇者よ)
「まてや!」
双弥の言葉は虚しく闇へと消えていった。
「ぐっ……いっ……いてててて」
双弥は脇腹に激痛を感じつつ目が覚めた。
「リ……リリパール様! お兄さん、目が覚めたよ!」
大泣きをしていたのか、涙で顔がぐしゃぐしゃになっているエイカの顔がまず映った。
「えっ!?」
その横では泣きながらジャーヴィスを押し倒し首を締めていたリリパールがおり、エイカの言葉を聞いて慌てるように双弥のもとへ来た。
「双弥様! 双弥様あぁぁ!」
リリパールは双弥にしがみついた。もう目が覚めないのではないかと恐怖していた反動なのだろうか、傷口のことも気にせず力を込めてくる。
「いづづづづ! リリパール落ち着いて!」
「何をどうすれば落ち着けるんですか! ご自分がどうなったか理解できてるんですか!?」
そう言われ双弥は痛みのある脇腹を見ると、服は完全に破れ相当量の血がついている。傷口があったであろう場所は広範囲で生々しい肌が露出していた。
「ああ、こりゃあ死んでたな……」
状態を見て改めてぞっとする。リリパールが治してくれなければ確実に終わっていた。
そして横にはむくれているリリパールとエイカが。
「死んでたじゃないよ! お兄さんの嘘つき!」
「い、いや……、これはジャーヴィスが……」
「わかってます。なのでジャーヴィス様には代わりに死んでいただこうかと……」
「ジャーヴィスうぅぅ!」
横には口から魂が抜けかかっていたジャーヴィスが痙攣していた。
「────まったく、双弥のとこのレディは直接的な子ばかりで困るね」
「……悪かったよ」
双弥は別にジャーヴィスを責めるつもりはない。あのときはあれがベストだったとは言わないが、ジャーヴィスなりにがんばった結果だ。あれだけ暴れまわっていたハンドスネークを仕留めただけマシだと言える。
「それよりも双弥、ごめんよ。まさかこんなことになるとは思っていなかったんだ」
「わかってるって。俺も油断してたし、あれくらいで萎縮するなよ」
ジャーヴィスは少し無理したような笑顔を双弥に向けた。なんだかんだで結構気にする子である。そこが憎めないんだよなと双弥は苦笑いで返す。
「それよりもあれはなんで襲ってきたんだろうね」
「体のサイズからして俺らじゃ大して栄養にならないもんな。縄張りとか?」
「…………多分、子供を取り返しに……」
そう言ってエクイティが袋から取り出したのは、地下の穴で拾ったハンドスネークであった。
「「お前かあぁぁ!!」」
夜の砂漠に野郎2人の叫びが響き分かった。
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