第77話

「はいワンツースリーフォー」

「……本当にこれで魔力が上がるの?」

「無駄口はいらないので動いてください。はいワンツースリーフォー」

「双弥、見ないでくれよぉ」


 現在ジャーヴィスは魔力総量が上がるという謎の踊りをさせられている。かなりアホっぽい動きのためとても恥ずかしそうにしている。

 どれくらい酷いかといえば、指導しているリリパールが笑いを堪えつつやっているくらいだ。


「ジャーヴィス様、もっとキレよく……ぷふっ」

「あーっ、今笑った! 笑ったよね!」

「言いがかりはやめろよ。誰も笑ってなんか……ぶほっ」

「双弥! 絶対吹いたよ今!」


 ジャーヴィスの顔は恥ずかしさで真っ赤だ。双弥とリリパールも逆の方向で真っ赤になっている。主に笑いを堪えすぎて。


「なあリリパールもこんなことやってたのか?」

「していませんよ、あんなこと」


 笑ってしまうのを歯をくいしばりじっと耐えながら2人はジャーヴィスの痴態を見ながら話す。


 こんな事態になったのもかれこれ1時間前の自業自得であった。





「僕に魔法を教えてくれないか!」


 暫く休み意識が正常になったリリパールにジャーヴィスが頼みこんだ。

 正確には魔法を教えて欲しいというよりも使用できる魔力の増やし方を知りたいらしい。


 力的には負けていないと破壊神が言っていたのだから、あとは使えるバリエーションを増やす。そのためには今の魔力ではあまりにも心許ない。

 リリパールは双弥の顔色を窺うようにちらっと見る。


 4人の勇者に力添えをするということは、確実に双弥の障害となる。一応確認をしておきたいのだろう。

 双弥からするとむしろ強くなってくれたほうが有難い。というのも破壊神の言うことがにわかに信じられないのだ。

 冷静に判断した結果ではなく、先ほどの戦闘で少し怖気付いているような感じなのだが。


 そのため少しでも共に戦う勇者たちが強ければという願望がある。


「俺からも頼むよ」


 と双弥が言うとジャーヴィスは嬉しそうな顔をした。




 それからリリパールが少し双弥を回復させ、ヘリに乗って穴から抜け出すとジャーヴィスは早速教えてくれとせがむ。

 方法さえわかれば後は自分でなんとかできるということだろう。ならば少しでも早く教え、勝手にやってもらうのがいい。


「わかりました。では──」


 リリパールによるジャーヴィスの魔力増量作戦が行われることとなった。



「私が言う通りに動いてください」


 ジャーヴィスはこくりと頷き、リリパールの言葉に従っていく。


 まず、足を揃え真っ直ぐ立つ。そして上腕を水平に、下腕を垂直にする。

 手のひらは大きく開き、肘から人差し指までの線を軸にして左右に素早く回転させる。

 それを続けた状態で右足を左前へ。次は左足を右前に。右足を後ろへ引き、左足を揃え最初の状態に戻す。これをリズムよく何度も繰り返すことにより魔力総量が上がっていくらしい。

 かくしてジャーヴィスは特訓を開始したのだ。





「────じゃあ実際に上がるかなんてわからないんじゃないか?」

「いえ、これはもう既に研究がなされておりまして、きちんと上がることが実証されているのですよ」


 とても胡散臭いが、実際に魔法を使えるリリパールがそう言うのならば嘘ではないのだろう。

 そのリリパールは笑わないようにジャーヴィスとなるべく目を合わせぬようにしつつ手をパンパンと叩く。


「で、具体的にどれくらい増えるものなんだ?」

「そうですね……私の魔力総量が100として、100セット動けば1くらい増える感じでしょうか」


 それは苦労に見合うものなのだろうか。この世界の理である魔法とシンボリックは根本的に異なる。もしジャーヴィスの総量が1000だとしたら、倍にしたい場合10万セットのステップを踏まねばならない。

 更にハリーのシンボリックを見る限り、ジャーヴィスの数十倍はありそうだ。もはや恥ずかしステップ職人になるつもりなのかというくらい繰り返さねばならない。


「なあ、他に方法ないのか? もっとイージーなやつ」

「ありますよいくらでも」


 ぷっと双弥は吹いた。じゃあ何故やらせているのだと突っ込みたかった。

 だがこの愉快な光景を見てみたいという気持ちは双弥にもわかる。ひとしきり笑ったら別の方法を教えてやってくれとリリパールに伝えた。


 30分後、ようやくジャーヴィスは他の方法を教えてもらえることになった。




「文句くらい言ってもいいのよ」

「わかってないなぁ双弥は。レディが薦めることに疑問を持ってはいけないんだよ」


 さっき思い切り疑っていた男の言う台詞ではない。双弥はあっそと素っ気ない返事をする。


「では魔力体内充填法を……双弥様はいかがなさいますか?」


 ここで何故俺が? と完全に部外者ぶっていた双弥に意外な言葉が飛んできた。

 でも考えてみれば折角の異世界で魔法のひとつも唱えず終わるのはもったいなさすぎる。シンボリックが使えないからといって普通の魔法も使えないというわけではない。


「やるやるっ」


 実際アルピナが傍にいる以上魔法を使うわけにはいかないが、機会があれば使ってみたいという気持ちがある。

 それに詠唱さえ聞かれなければなんとかなるだろうし、できれば防御系と動体視力強化の魔法があるならば使いたいと思っている。


 肉体及び加速は破気で充分に強化できる。欲しいのはそれらを補える力だ。

 目がついてこないせいで躊躇していたものを使えるようになれば、破壊神が言うほどでなくとも魔王に匹敵するくらいはできるかもしれない。


「ではまず…………」



 リリパールの話では、魔力を体に溜めるのはないものをあるように受け取る必要があり、体が中身のないタンクだとしてそこへ魔力を浸透させるイメージをする。

 ジャーヴィスは今まで手から放出させることしか考えていなかったため、手のサイズの魔力しか取り込めず、そしてその微量だけしか放出できなかった。


 わかってしまえば簡単な話だ。ちゃんと魔力を取り込め、使えればハリーほどではないが近いくらいは使える。

 今の説明でわかるのは魔力が体内へ取り込まれる以上、体が大きいほうが総量は上だ。太めであるハリーはそれだけ貯蔵量が多い。


 それと体に何かが浸透していくイメージなんて普通わからない。ジャーヴィスは特に理解できないらしく全くできていない。


 だからこその謎ダンスなのだ。手のひらに取り込むのは大抵の人間にできる。だから手を上げて振ることで強引に手のひらへ蓄積された魔力を腕に降ろすのだ。

 もっともリリパールはあんなことをやらなくとも体に浸透させるイメージはできていたためやったことがない。


 そして双弥もこのイメージは得意であった。

 武術では体内に気を巡らせる。といっても実際にそんなものが流れるわけではない。全てイメージで行うのだ。

 このイメージというものがなかなかバカにできない。流れとはすなわち伝達であり、物理的に使える最大限の力を発するのが武の真髄といえる。


 でもこの魔力というやつは本当に体を流れ、溜まっていく。それが感覚でわかる辺りは破気のおかげでもあるのだが。

 しかし本格的に溜めるのは1日掛かりになる。だがどういったものかはわかるようだ。


「ほほう……これが魔力……」

「え! もうできたのか!? ずるいよ!」


 一体何がずるいのか説明が欲しいところだが、できるものはできるとしか言いようがない。双弥だって何年もやっていたのだ。昨日今日でできているわけではない。

 それで実際に魔力を体に充填させて双弥は思ったことがある。これに破気を更に加えたらどうなるのかと。


 気になったため早速妖刀を抜いてみる。


「ぶっ、げ、げほっごぶぉっ」


 吐いた。


 何をと言われるとよくわからないが、胃に収まっていたものではなさそうだ。バラエティ番組の汚物エフェクトのようにキラキラしたものが口から流れ出る。


「うわ、汚いよ双弥!」

「双弥様!?」


 破気と魔力は最悪の組み合わせだったのか、お互い反発しあい体内で渦巻き口から漏れてしまったようだ。


 (俺は魔法使えないのか……)


 たったあれくらい充填させただけでこれではきっと満タンだと爆発する。



 双弥は練習開始3分ほどで魔法の使用を諦めた。

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